フェーズフリー化する「福祉防災」個別支援計画(災害時ケアプラン)はいま

●市町村に努⼒義務化――「個別避難計画」の作成

 東日本大震災の教訓を踏まえた2013年6月の災害対策基本法改正は、市町村長に避難行動要支援者名簿の作成の義務づけ、本人同意や条例に特別な定めがあれば名簿情報を平常時に避難支援等関係者に提供することが可能となり、災害時には本人同意に関係なく名簿情報の外部提供が可能とされた。

 しかし2016年熊本地震で、名簿情報の外部提供が進んでおらず、地域の要援護者情報が不明確、名簿登載者が現状と乖離、避難のための個別支援計画の策定が地域まかせ、福祉避難所等における要援護者への理解・配慮がなく車中泊等に伴う震災関連死が直接死の約3倍となるなど、災害現場では機能しない実態が明らかになった。2018年当初の各種調査では、実効性が期待できる要援護者個別支援計画の策定率は全国平均でおよそ1割程度にとどまっていた。

 さらに、2019(令和元)年台風第19号や2020(令和2)年7月豪雨において再び⾼齢者等に被害が集中したことから、国は2021年5月に災害対策基本法を改正、災害時要配慮者(災害時要援護者)のうち避難支援を要する人(避難行動要支援者)について、個別避難支援計画(以下、「個別避難計画」)の作成を市町村に努⼒義務化し、優先度の⾼い人についておおむね5年程度でこれを作成するよう依頼した。個別避難計画の作成に係る財政措置・⽀援策(地方交付税措置)等を講じて、これに日ごろ要支援者のケアプランづくりを担う福祉関係の専門職が関わることとした。

● 立木茂雄氏――福祉と防災は切れ目なく連結すべき

 直近の資料によれば、避難⾏動要⽀援者名簿の策定率は99.2%(1727団体/2020年10月1日現在)にのぼるいっぽう、全国の個別避難計画の作成状況は1727団体(作成済み10%、一部作成中57%、未作成33%/2020年10月1日現在)だが、2019(令和元)年台風第19号で⾼齢者等災害時要援護者の被害は65%(死者数84人中55人が65歳以上)、2020(令和2)年7月豪雨では79%(63/80人)と、依然として被害が要援護者に集中した(数字は内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(避難生活担当)資料より)。

近年の災害では高齢者に被害が集中
近年の災害では高齢者に被害が集中

 こうした実態を受けて、2019年度に科学技術振興機構 RISTEX(社会技術研究開発センター)が公募を開始した「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム」に採択された立木(たつき)茂雄・同志社大学社会学部教授が研究代表となって全国展開を図るプロジェクト「福祉専門職と共に進める『誰一人取り残さない防災』の全国展開のための基本技術の開発」がいま、注目されている。

 同プロジェクトは、「災害時に障がいのある人や高齢の人に被害が集中する根本原因は、平時と災害時の取組みが分断され、平時の在宅サービスが当事者の災害脆弱性をかえって高める状況を生んでいる」という認識と、「この解決のためには、福祉と防災を切れ目なく連結することが必須」というシナリオに立脚するという。

 このシナリオに沿って立木氏が2016年度から大分県別府市で市や障がい当事者のグループと恊働して実践してきた取組みは「別府モデル」と呼ばれており、その根幹は平時のサービスなどの利用計画を策定する相談支援専門員や介護支援専門員が、災害時の個別支援計画についてもプラン案を作成し、地域住民との協議の場で要配慮者と近隣住民をつなぐ役割を担うことにある。

「別府モデル」の概念図
「別府モデル」の概念図

 立木氏は、このモデルの全国展開のためには、基盤となる「技術」――災害被害シミュレーションに基づく「生活機能アセスメントツールのアプリ化」、「地域プラットフォーム形成技術の確立」、「災害時ケアプランを作成できる福祉専門職の育成プログラムの拡充」、そして「プラン作成の報酬化についての制度改正」が必要としている。

● 「福祉専門職と共に進める『誰一人取り残さない防災』」の始動

 立木氏はこの基盤技術の開発についてプロジェクトに参画・協力する大学、別府市、兵庫県、福祉団体をはじめ、災害ボランティア、防災研究機関などとネットワークを広げた。これを踏まえて、別府市や兵庫県といった自治体とともに提言し、昨年5月には提言に沿って災害対策基本法が改正され、「真に支援が必要な方」については別府モデルに沿った取り組みを市町村主導で作成することが努力義務化された。

兵庫県「防災と福祉の連携促進シンポジウム」(2月18日開催、チラシより)
兵庫県「防災と福祉の連携促進シンポジウム」(2月18日開催、チラシより)

 兵庫県は去る2月18日、「防災と福祉の連携シンポジウム」をオンラインで開催し、立木氏もパネラーとして参加した。兵庫県もまた「防災と福祉の連携による個別避難計画作成促進事業」を全41市町で実施中で、防災と福祉の連携手法を全国に発信し、日本全体の防災と福祉の連携の促進を図ることをめざしている。

 本紙はこうした動きを機に、防災士の参画を期待しつつ、「福祉専門職と共に進める『誰一人取り残さない防災』」の全国展開プロジェクト・研究代表者である立木茂雄教授へのインタビュー(オンライン)を試みた(本紙参照)。

*編集部注:「障がい(者)」の表記について:「障害(者)」の「害」に負のイメージがあるという取材先の見解から「障がい(者)」と表記。なお、国・政府関係の文言表記では常用漢字である「障害(者)」を使用。本紙も一般記事では「障害(者)」と表記しています。

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