首都直下地震 想定シナリオに想像力で備える

「被害想定」に“自分ごととしての災害死”は想定されているか?
 想定の想定外への想像力を鍛える

【 進む災害対策 高齢化、単身世帯、タワマン増加がリスク要因に 】

 東京都は首都直下地震などによる被害想定を10年ぶりに見直し、「首都直下地震等による東京の被害想定」として去る5月25日公表した。東日本大震災を教訓として2012年に策定した「首都直下地震等による東京の被害想定」と、2013年策定の「南海トラフ巨大地震等による東京の被害想定」の見直しで、東京都防災会議(会長・小池百合子知事)の地震部会(部会長:平田 直・東京大学名誉教授)で検討を進めてきた。

新たな東京の被害想定の対象とした地震
新たな東京の被害想定の対象とした地震
東京における被害想定より「都心南部直下地震」。震度6強以上の範囲は区部の約6割に広がる(東京都資料より)
東京における被害想定より「都心南部直下地震」。震度6強以上の範囲は区部の約6割に広がる(東京都資料より)

 新たな被害想定では、「都心南部」でマグニチュード(M)7.3の直下型地震が発生した場合、都内の死者は最大で6148人、揺れや火災による建物被害は19万4431棟にのぼると推計(いずれも冬・夕方、風速8m/s)した。2012年公表の想定では死者数は9641人、建物被害は約30万4300棟(いずれも東京湾北部地震)だったが、都は、この10年間で住宅耐震化や不燃化の対策が進展し、全体として被害を3~4割軽減できると見込んでいる。
 いっぽう、高齢化、単身世帯の増加など人口構成の変化やタワーマンションの急増など、新たな都市リスク、脆弱性の課題も指摘している。

防災・減災対策による被害軽減効果。各種対策を推進することにより、被害を大幅に軽減することは可能
防災・減災対策による被害軽減効果。各種対策を推進することにより、被害を大幅に軽減することは可能

 住宅耐震化や不燃化対策を具体的にみると、特定緊急輸送道路沿建築物の耐震化率が81.3%から91.6%に、住宅耐震化率は81.2%から92%にまで高まった。この結果、建物全壊棟数は12万棟から8万棟へ減少。揺れによる死者は5100人から3200人にまで減った。不燃化については、木造住宅密集地域が約1万6000ヘクタールから8万6000ヘクタールに減少、不燃領域率は58.4%から64%へ増えたことから、焼失棟数は20万棟から12万棟、火災による死者数は4100人から2500人に減っている。
 このほか、都が推進する自助・共助の取組みの成果も反映させている。都はこうした取組みの推進で、さらなる被害軽減が可能だとしている。都は今後、同報告書を踏まえて地域防災計画を修正し、23年1月中にも素案を公表、23年度初めに決定する方針だ。

 なお、今回想定では、「震災関連死」については“注意”を示しているが、死者数に含んではいない(前回調査でも含まず)。近年の大規模災害で、例えば熊本地震では、死者273人のうち、80%以上の218人が災害関連死だったことを思えば、関連死によって死者数が大幅に増える可能性は否定できない。
 また、10年前と比べて新たなリスク要因として、オフィスビルやタワーマンションの増加によるエレベーターの停止台数が大幅に増やされている。

東京都:首都直下地震等による東京の被害想定(2022年5月25日公表)

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直下地震で「身の回りで起こり得る被害の様相 〜5つのシナリオ〜
被害想定「人的被害」の数字に“慣れるな”――自分ごとの災害死への想像力を

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 当然のことながら、被害想定の「想定される被害」――「建物被害・人的被害・交通インフラ被害・ライフライン被害」、そして「生活への影響、経済被害」は便宜上、あくまで方程式での解を求めるようなものだ。今回の東京都の想定のなかに「関連死」がないように、例えば列車脱線、混雑した駅・地下街、集客施設での群衆災害などは「定量化の想定外」となる。前回想定から、高齢化も進み、単身世帯が増えていることもリスク要因だ。

 報告書は、「現在の科学的知見では、客観的に定量化することができる事項が限られるため、被害数値のみをもって、首都直下地震等の発生時の被害実態とすることは、実際に都内で起こり得る被害の過小評価になる」と注意を促す。
 そこで、想定では今回初めて、発生後に起こりうる5つの「シナリオ」=「身の回りで起こり得る災害シナリオと被害の様相」を時系列で示している。5つとは、①インフラ・ライフラインの復旧に向けた動き(停電、断水、メール・SNSの支障など)、②応急対策活動(耐震性の弱いマンション、ビルの倒壊・閉じ込め、火災も)、③避難所での避難生活(スマホバッテリー切れ、衛生環境悪化など)、④自宅での避難生活(生活必需品の払底、携帯トイレも枯渇、在宅避難の困難も)、⑤帰宅困難者(二次災害に巻き込まれる、一時滞在施設が満員)
 などだ。このシナリオは、大規模災害で身の回りで起こり得る様相への想像力のふくらみを、自らの環境に照らしながら強化してくれる。ぜひお目通しを。

東京都:身の回りで起こり得る被害の様相(5つのシナリオ)

「身の回りで起こり得る災害シナリオと被害の様相⑤~帰宅困難者をとりまく状況」より。帰宅困難、安否確認困難、公共機関運休、余震による建物倒壊、火災延焼による二次災害などなどが示唆されている
「身の回りで起こり得る災害シナリオと被害の様相⑤~帰宅困難者をとりまく状況」より。帰宅困難、安否確認困難、公共機関運休、余震による建物倒壊、火災延焼による二次災害などなどが示唆されている

 本紙は創刊号(2010年9月1日号/No.1)で、2008年に米国カリフォルニア州が実施した初の地震防災訓練「ザ・グレート・シェイクアウト」を紹介した。「シェイクアウト」はいまでは日本も導入して防災訓練として各地で定番化している。その「シェイクアウト」の第1回訓練には530万人が参加した。この大規模防災訓練の誘因となったものは、米国地質研究所(USGS)が南カリフォルニアでのM7.5以上の大地震発生確率を今後30年間で46%とし、その被害想定の死者数を1800人としたことだった。また、阪神・淡路大震災発災のちょうど1年前の1994年1月17日に57人の死者を出したノースリッジ地震(M6.7/ロサンゼルス郊外で発生)を思い起こさせたことが、住民の危機感・防災意識を高めたという。

 ひるがえってわが国では、阪神・淡路大震災で6434人の犠牲者を出し、さらに南海トラフ地震の被害想定で32万人という想定死者数を告げられた。東日本大震災では死者1万5900人・行方不明者2523人、その後も、直近の想定で日本海溝・千島海溝地震津波で想定死者数19万9000人……人のいのちの重さに彼我の違いがあろうはずはない。

 しかし、自然災害で奪われるいのちの数字について、私たちは、”驚愕・衝撃”を忘れてはいないだろうか。あるいは、”麻痺”していないだろうか。わが国で相次ぐ「被害想定」報告書の膨大な「死者数」の受け止め方に、改めて警鐘が鳴り響く思いがする。

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