BOSAI+ TWEETS & TIPS

■Tweets & Tips/

 このページでは、防災ニュースレター《Bosai Plus》が発行・配信された時点で購読者に向けたダウンロード・サイトのご案内メール内に記載された本紙・編集発行人(M. T.)による「時事雑感:Tweets & Tips」を収録しています。
 ”Tweets”は、英語ではツイッターなどの「つぶやき」、”Tips”は「気の利いたアイデア」といった意味です。気が利いているかどうかはともかく、この雑感から、発行時点での防災動向がうかがえるかと思います。

 以下、掲載順は、直近号から既刊号へ遡っています(各号の P. 1 画像へのリンク付き)



▼《Bosai Plus》 No. 326/2024年03月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

【 大切なお知らせ 】
《Bosai Plus》 購読配信料の「無料化」(フリーペーパー化)につきまして

各 位

 いつも《Bosai Plus》をご愛読・ご支援たまわりまことにありがとうございます。

 さて、小紙定期購読料(年間24号・2400円)につきまして、本年(2024年)4月1日発行号より、ご購読・配信はすべて「無料」(フリーペーパー化)とさせていただくことをお知らせいたします。

 読者のみなさまからのご愛読・ご好評に励まされ、フリーペーパー化を機に、さらに多くの読者・防災関係者・報道機関等に《Bosai Plus》防災情報をお届けしたいという思いがあります。

 ”ボランティア”としての《Bosai Plus》発行となりますが、本紙といたしましてはこれまでと同様、誠心誠意、防災・減災の志を貫いて情報収集に努める所存です。
 ご賢察たまわり、今後とも小紙をご愛読・ご支援たまわりますようお願い申し上げます。

 なお、新たにフリーペーパー《Bosai Plus》配信ご希望の方は、その旨、メールにてお申込みのほどをお願い申し上げます。

【 新たに配信ご希望の方 申し込み要領 】
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② お住まいの都道府県・市町村
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④ 緊急的なお知らせの電話番号(任意)
⑤ 本紙を知ったきっかけ(任意)
⑥ 今後、ほしい防災関連情報について(任意)

 《Bosai Plus》 編集発行人 高嶋 三男 拝


●いま そこにある巨大災害の危機

 本号巻頭企画「いま そこにある巨大災害の危機」は、令和6年能登半島地震が1月1日元日、人びとが新年の挨拶をかわしているなかに発生するという、まさに自然災害の冷徹な不条理性を象徴的に示したことに触発された企画でした。

 そしてたまたま、土木学会が「巨大災害についての脆弱性評価」を2018年の「最貧国化」リスク公表に続く第2弾として3月14日に公表(中間報告=南海トラフ地震の分析は今回のとりまとめに間に合わず)、さらに、日本学術会議の公開シンポジウムが「人口減少社会と防災減災」をテーマにとりあげていることがありました。

 「いま そこにある巨大災害の危機」は災害多発国・日本の「国難」に通じるリスクであり、ある意味、「国防」と同義と言えるでしょう。
 果たしてわが国の防災体制はこうした巨大リスクに対応できるか、国民一人一人がまさに自分ごととして考えなければならないと思います。
 いま そこにある巨大災害の危機なのですから……

●速報

TBS NEWS:首都直下地震で日本経済に1000兆円超の被害か 土木学会が報告書公表 「政府は適切なインフラ投資で被害額減らせることを認識して」
(2024.03.14.)
 30年以内に70%の確率で発生すると言われている首都直下地震について土木学会は日本経済に1000兆円を上回る被害が生じるとする報告書を公表した。巨大地震や大規模な洪水・高潮について……

   (M. T. 記)


▼《Bosai Plus》 No. 325/2024年03月01日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●「対口」は中国語で「ペア」を意味するのだそう……

 近年、「公助」の被災地支援でよく耳にする「対口(たいこう)支援」ですが、この「対口」、中国語で「ペア=英語の pair=対」の意味なのだそうです。
 初めてこの「対口支援」という用語を聞いたとき、日本語として違和感があったのですが、つい辞書を引くことまではしませんでした(mouth to mouth? 最近は「対ロシア支援」と間違えられそう)。

 本文で説明しましたが、「対口支援」は「大規模災害で被災した自治体と支援側の自治体がパートナーとなって各種の復興支援を実施するための手法」。これが中国語なのは、中国にその起源があるからです。
 中国では1970年代末から政府により行われていた被災地支援手法で、復興にあたって被災した市町村と、被災することなく経済発展を進めた市や省などをペアにして支援の責任を負わせることで、大きな成果を出した――
 これが日本で注目されるようになったのは2008年の四川大地震でのことで、この手法に学ぼうということでした(「支援の責任」までは負わせませんが)。

 「対口支援」は現在、わが国では「応急対策職員派遣制度」として制度化されていますが、こちらはいかにもお役所用語で、通称としては「対口」のほうが身近に感じられます。

●忙中閑話

国土交通省:道の歴史
 日本の道は日本人の社会・経済・生活・文化活動を支え、歴史的発展を遂げてきました。本ページは日本の道の歴史をたどり、各時代における道のあり方や道路制度、道路・交通政策について紹介……

MEDICAL TRIBUNE:日本人の76歳の健康度は世界の65歳の健康度に匹敵
(2019.03.27.)
 高齢化が社会に及ぼす影響を調べるためには、寿命だけではなく、加齢に関連する疾患や認知機能低下のインパクトを合わせて検討する必要がある……

   (M. T. 記)


 

▼《Bosai Plus》 No. 324/2024年02月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●「巨大災害を迎え撃つ気概」⇔「意を決しての防災主流化」

 本号巻頭企画は、改めて「巨大災害によるわが国の最貧国化」の可能性について取り上げました。土木学会が2018年に公表した「技術検討報告書」で示されたことですが、これは「杞憂」でしょうか……
 杞憂とは、中国古代の杞の人が天が崩れ落ちてきはしないかと心配したという故事から「心配する必要のないことをあれこれ心配すること。取り越し苦労」の意味とあります。
 しかし、”天が崩れ落ちる”という表現はわが国では決して杞憂ではなく、実際に起こった巨大災害のイメージではないでしょうか。

 改めて確認しておくと、わが国は環太平洋火山帯に位置し、地震・火山・津波災害の多い国土で、急峻な地形から洪水も多発します(台風、大雨も)。
 日本の国土の面積は全世界のたった0.29%しかないにもかかわらず、全世界で起こったマグニチュード6以上の地震の18.5%が日本で起こり、全世界の活火山の7.1%が日本にあります。
 また、全世界で災害で死亡する人の1.5%が日本、全世界の災害で受けた被害金額の17.5%が日本の被害金額となっているそうです(総務省統計局「世界統計2022」)。

 土木学会の「技術検討報告書」によるわが国で想定される巨大災害の被害推計から、いったんこれが起これば国難、最貧国化は「杞憂」ではすまされないでしょう。

 本号ではこうした国難を想定して、あえて「巨大災害を迎え撃つ気概を」としました。
 国の「国土強靭化」という言葉のハード(堅い)イメージに対抗してレジリエント(しなやかな)防災という表現もありますが、能登半島地震の災中(渦中)にあって、原発問題も含めて、これからの防災・減災対策は「意を決しての防災主流化」を旨とすべきと考えた次第です。

●忙中閑話

警視庁警備部災害対策課(@MPD_bousai):「気象神社」お詣りをしてきました
(2024.02.05.)
 高円寺に「気象の神様」を祀っているとされている「気象神社」があります。祀られている御祭神は「晴、曇、雨、雪、雷、風、霜、霧」という八つの気象条件を司る「八意思兼命(やごころおもいかねのみこと)」……

日経BP:日本、国家ブランド指数で初の世界トップ その希望と課題
(2024.01.18.)
 この記事の3つのポイント――2023年、日本のブランド指数(アンホルト・イプソス国家ブランド指数(NBI))が世界総合トップになった/米国、ドイツ以外の国がトップになるのは初めて/「この国がグローバルな経済リーダーだと思う」も総合2位……

外務省:女性・平和・安全保障(WPS)タスクフォースの立上げ
(2024.01.29.)
 上川陽子外務大臣の下、省内横断的な連携を目的とした女性・平和・安全保障(WPS:Women, Peace and Security)タスクフォースを設置……
(本紙所感)上川陽子外務大臣について”麻生発言”関連の話題がにぎやかですが、メディアは同時期に彼女が外務省で立ち上げた「女性・平和・安全保障(WPS)タスクフォース」に注目してほしい。WPSは「女性や女児の保護や救済に加え、女性自身が指導的な立場に立って紛争の予防や災害復興・平和構築に参画することでより持続可能な平和に近づくことができる……」という趣旨の国際的な取組み。自民党を超越する時期首相候補になり得るビジョンをお持ちと思いますが、いかが。

北國新聞:石川と福井、大きさ逆転? 地震で海岸線隆起
(2024.01.20.)
 能登半島地震により珠洲市から志賀町にかけての海岸線が隆起したことで石川県の大きさが一時的に福井県を上回った可能性があることが関係者への取材で分かった。国土地理院によると昨年10月1日時点……

望月衣塑子:映画「福田村」が、日本アカデミー賞の作品・監督・脚本賞の三冠に
 関東大震災での大虐殺から100年の昨年2023年に映画「福田村」が日本アカデミー賞の作品・監督・脚本賞の三冠に……

   (M. T. 記)


永野海弁護士作成の「被災者支援カード(災害後の9つの支援制度)」より

 

▼《Bosai Plus》 No. 323/2024年02月01日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●令和6年能登半島地震「続々報」――施政方針演説 雑感

 国会で岸田文雄首相の施政方針演説が1月30日に行われ、冒頭、能登半島地震への対応が述べられました。
 その評価は報道メディアそれぞれですが、本紙が耳をそばだてたのは、「過去の災害対応に比べて、新しい取り組みがいくつも生まれており、強く印象付けられました」あたりから――

 「断水していても使える温水シャワーが避難者の疲れを癒やし活躍しています。生活用水を循環濾過し、再利用する技術をもつスタートアップ企業が持ち込んでくれました。アフリカや中東で展開している事業の逆輸入です。停電・断水でも使用可能なトイレトレーラーも全国から届けられました」とか……

 あるいは――
 「孤立集落での自衛隊の救助活動と連携した医薬品のドローン配送、立ち入り困難な現場の上空からの被災状況調査、無線中継ドローンによる携帯回線の応急復旧等、本格的なドローンによる災害対応が行われています」とか……

 そして――
 「これらに共通しているのは、日本人の伝統的な強みである『絆の力』がデジタル、スタートアップ、新たな官民連携、資源循環など新しい要素と組み合わされてパワーアップし、日本の新たな力となっている姿です」のくだり、など……

 いえ、あえて首相の上げ足を取るつもりはありませんが、確かに防災DXへの取り組みなどは現政権が訴えたいところかもしれませんし、そうした成果も防災DXの”スタートアップ”としても高く評価できることでしょう。

 しかし、このたびの大災害の”さなか=災中”にあって、「過去の災害対応に比べて、新しい取り組み」であるならばもっと抜本的・本質的な取り組みへの”火の玉”となっての決意を聞きたい、と思ったのは本紙だけでしょうか。

 そう、本号で取り上げた東日本大震災の深甚な教訓を踏まえた「防災対策推進検討会議」の最終報告にある「災害から国民を守り、国を守ることは政治の究極の責任」との“宣言”。さらに災害の脅威と向き合うことは「軍事的・人為的な脅威から国や国民を守ることに決してひけをとらない、国家の重大関心事項」という“為政者の覚悟の表明”への回帰と、新たな大規模災害への対策・対峙です。

 さらなる大規模災害は近い将来必ず起こるでしょう。高齢化・人口減少時代、それらは経済政策以上にわが国の盛衰に直接影響を与え得ます――為政者たるもの、50年後、100年後(次世代)を見据えた防災のあり方=ビジョン・理念を語ってほしいと思った次第です。
 いまは(政局)それどころではない、か。

●齋藤徳美先生からご寄稿

 齋藤徳美先生からご寄稿をいただきました。志賀原発へのご見解、わが意を得たり!デシタ。今後も折々のご寄稿、お待ちしております。

●もうひとつ関連情報

朝日新聞:「初動に人災」「阪神の教訓ゼロ」 能登入りした防災学者の告白
(2024.01.14.)
 初動に人災の要素もある――。防災研究の第一人者で、石川県の災害危機管理アドバイザーも務めてきた神戸大名誉教授の室崎益輝さん(79)は、能登半島地震の初動対応の遅れを痛感しています。自戒の念もこめて、今、伝えたいこととは……

(室﨑先生は日本防災士会の理事長です)
日本防災士会:理事長声明文と「第1回支援対策部会」報告

   (M. T. 記)


志賀原発-「PAZ・UPZの位置」

▼《Bosai Plus》 No. 322/2024年01月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●「令和6年能登半島地震」続報

 本号巻頭企画は「令和6年能登半島地震」続報です。
 元日発災から2週間を経過していまだ”災中”、大震災の様相を呈しています。
 テレビ報道である被災者の方が「年賀の挨拶中の大地震で、言葉もない」と話していました。胸中察するに余りあります。

 被害概要の数値などは毎日更新され、バイマンスリー(月2回)発行の本紙では追いつけませんので、視点を変えて「避難」を取り上げました。

 本文で取り上げた「一人ひとりが大事にされる災害復興法をつくる会」の広域避難提言は災害関連死を防ぐ意味で大変重要です。同会は「災害ケースマネジメント」(被災者を個別支援して生活再建につなげる取組み)の制度化を提唱するグループでもあります。

 ただ、広域避難には、一時的でも家族の分断につながる側面や、地方では復旧に向けたご近所との共助の分断という側面もあり、理窟どおりにいかないこともあるようです。
 今回の震災でも、受験期の子女、中高生の”疎開”が図られていますが、「父母と一緒に被災した家を片づけたいから、イヤ」という健気な中高生もいて胸が熱くなります。

●地殻変動の隆起でできた能登半島に志賀原発 珠洲原発計画もあった!

 いっぽう、能登半島地震のインフラ被害として道路損壊や土砂崩れによる交通途絶、孤立集落発生の問題もあり、即、避難困難に通じます。
 志賀原発が立地する志賀町(しかまち)で震度7と聞き、原発事故の心配をした向きは原発施設関係者だけではなかったと思います。本紙もそうでした。

 原子力防災を担う伊藤信太郎環境大臣が1月9日の閣議後会見で、今回の震災を原子力発電所事故時の避難対応での「検討課題としたい」と述べたと報道にありました。
 震度7から10日も経ってからの原発管掌大臣の事故可能性への言及は、そっけなさすぎませんか? あるいはメディアが無関心?

 さらに、志賀原発近辺での震度7は、半世紀ほど前の珠洲(すず)原発建設計画を改めて掘り起こしたようです。いまでこそ群発地震の中心地となっている珠洲市、そこに原発をつくろうという計画があった!
 本号巻頭企画の大見出しを「原発もうムリ!」としたワケをご理解いただけたと思います。

●能登半島地震勃発でボツになった本紙巻頭企画……

 昨年(2023年)は関東大震災から「100年」でしたが、本紙は当初、新年号(1月1日号)企画案キーワードを「関東大震災から101年」とする予定でした。

 本号・1月15日号は、阪神・淡路大震災から29年の周年を目前に、改めて東日本大震災での福島原発事故を想起しました。能登半島地震は地震規模(M)が7.6と阪神・淡路のM7.3を上回り、その被害様相はまさに“大震災レベル”(+津波被害)となっています。

 改めて、自然災害の多いわが国の防災を考えるにあたり、根底から「災害犠牲者ゼロ」の意味・意義を考えていきたいと思っています。

   (M. T. 記)


2024年1月1日16時10分頃の石川県能登地方の地震(気象庁資料より)

▼《Bosai Plus》 No. 321/2024年01月01日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●謹賀新年

 明けましておめでとうございます。
 波乱の年明けになりましたが、本年もよろしくお願い申し上げます。

●年明け元日の大災害勃発で、本号企画構成を大幅変更

 昨年末の最終号のこの欄で「次号は1月4日配信」を書き忘れました。
 本号は1月4日配信ということで、年末年始はレギュラーの新年号を余裕をもって本号を準備していたのですが、なんと元日夕刻に能登半島地震発災! 
 新年号のトップは通常「謹賀新年」ご挨拶ですがこれを「P. 4」へ移し、急遽、この大災害を[速報]のかたちで巻頭3ページで取り上げることにしました。

 思えば東日本大震災も3月11日の発災で、本紙刊行日(15日)の4日前(実質3日前)の大災害勃発。このときも用意していた企画を全面撤回し、大震災特別記事を”不眠不休”で作成して定期発行にこぎつけ、さらに臨時増刊号も発行しました。

 今回の能登半島地震は、2018年ごろから5年間も続くいかにもやっかいな群発地震の大暴発でもあり、被災地のみなさまの苦難・不安は筆舌に尽くしがたいものがあるものと察します。
 犠牲になられた方の無念に思いをいたし哀悼の意を表しますとともに、ご家族のみなさまにお悔やみを申し上げます。

 被災住民のみなさま、まずは多くの国民が陰ながらこころを一(いつ)にして共感・激励していることを信じて、災害という不条理を乗り越えていただきたいと思います。
 また、これから被災地の支援も本格化すると思いますが、プロの救助・救援隊をはじめ支援ボランティアも、余震の大揺れ、さらには再び起こるかもしれない津波への警戒などを怠りなく、安全第一で活動されますよう祈っています。

 本紙としては、防災・減災そして被災地支援のための情報提供を通じて「公助・共助・自助」を励まし支援することで、微力ながら防災メディアとしての役割を果たせればと思っています。
 災害と事故で明けた年であればこそ――お互い「備えつつ」いい年にしようではありませんか。

   (M. T. 記)


「The-Lancet-Countdown-on-Health-and-Climate-Change:2023-report」(YouTube動画タイトルより)

▼《Bosai Plus》 No. 320/2023年12月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●「トランス・サイエンス」おさらい

 本号では巻頭企画「核のゴミ 地層処分」と「新刊『南海トラフ地震の真実』は真実?」(P. 3)で、たまたま「トランス・サイエンス」がキーワードになりました。以前も取り上げていますが、改めて「トランス・サイエンス」をおさらいしてみます。

 「トランス・サイエンス」(trans-science)は米国の物理学者A・ワインバーグ博士が1972年に提唱した概念で、世の中には純粋に科学だけで解決できる問題と、一見科学的だが科学だけでは解決できない問題があり、現代ではむしろ後者のほうが多くなっていると考え、これをトランス・サイエンス問題と名づけました(接頭語“trans-”は「~を超える」の意味、「超科学」の訳も)。

 博士は次のような例を挙げています(以下、隈本邦彦・江戸川大学教授による解説から引用)――

 「原発の安全装置がすべて同時に故障すれば深刻な事態になることについて専門家の意見は一致する。サイエンス問題である。ところがそんなことがあり得るのか? という問いになると、それはトランス・サイエンス問題となる。確率がきわめて低いことは『科学によってわかる』が、ではそんな低い確率の危険に備えて、もうひとつ安全装置を追加すべきかどうかについては専門家の意見は分かれる。そこは『科学ではわからない』からだ……限られた科学的データをもとに社会が決めるべき問題なのである」

 「ワインバーグ博士は、トランスサイエンス問題に対して科学者が取るべき態度として『どこまでが科学によって解明でき、どこからは解明できていないのか、その境界を明確にすることが科学者の第一の使命である』としている。つまり、『わからないことは、正直にわからないと言う』こと。『そんな想定はしなくていいと安易に言ってしまわないこと』と言い換えてもいい」――(以上引用)

 もっとわかりやすく言えば、原発廃棄物の地層処理問題での「トランス・サイエンス」とは、例えば、平穏な暮らしを維持するために、私たちがどの程度のリスクなら受け入れるのかという科学者・研究者だけでは解決できない、私たちの問題だということでしょう。

 これを社会的に解決するには、そのリスクの詳細(理学的情報)と被害想定(工学的情報)が整理・提示されることが必須条件ということになります。
 つまり東日本大震災までは、理学・工学ともに、トランス・サイエンスの視点を欠いたことで「安全神話」が醸成されたと言えないでしょうか。

 その意味でも、「10万年地層処分」の不確実性を踏まえた「リスク・コミュニケーション」の手段としては、10万年の展望から見れば一瞬に過ぎない現政権下での「結論ありき」のごり押しは、まずはいったん拒否して、みんなで熟議してみることが賢明ではないでしょうか。

●『南海トラフ地震の真実』は”いかにもいかにも”刺激的

 『南海トラフ地震の真実』の広告宣伝文に、「南海トラフの発生確率は70~80%…数字を決めたのは科学ではなかった!……予算獲得のためにないがしろにされる科学――。地震学と行政・防災のいびつな関係を暴く渾身の調査報道」とあります。
 トランス・サイエンスの視点からは、”いかにもいかにも”刺激的……といった印象なのですが(?)いかがでしょう。

   (M. T. 記)


地層処分以外の処分方法(資源エネルギー庁資料より)

▼《Bosai Plus》 No. 319/2023年12月01日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●「トランス・サイエンス」おさらい

 本号では巻頭企画「核のゴミ 地層処分」と「新刊『南海トラフ地震の真実』は真実?」(P. 3)で、たまたま「トランス・サイエンス」がキーワードになりました。以前も取り上げていますが、改めて「トランス・サイエンス」をおさらいしてみます。

 「トランス・サイエンス」(trans-science)は米国の物理学者A・ワインバーグ博士が1972年に提唱した概念で、世の中には純粋に科学だけで解決できる問題と、一見科学的だが科学だけでは解決できない問題があり、現代ではむしろ後者のほうが多くなっていると考え、これをトランス・サイエンス問題と名づけました(接頭語“trans-”は「~を超える」の意味、「超科学」の訳も)。

 博士は次のような例を挙げています(以下、隈本邦彦・江戸川大学教授による解説から引用)――

 「原発の安全装置がすべて同時に故障すれば深刻な事態になることについて専門家の意見は一致する。サイエンス問題である。ところがそんなことがあり得るのか? という問いになると、それはトランス・サイエンス問題となる。確率がきわめて低いことは『科学によってわかる』が、ではそんな低い確率の危険に備えて、もうひとつ安全装置を追加すべきかどうかについては専門家の意見は分かれる。そこは『科学ではわからない』からだ……限られた科学的データをもとに社会が決めるべき問題なのである」

 「ワインバーグ博士は、トランスサイエンス問題に対して科学者が取るべき態度として『どこまでが科学によって解明でき、どこからは解明できていないのか、その境界を明確にすることが科学者の第一の使命である』としている。つまり、『わからないことは、正直にわからないと言う』こと。『そんな想定はしなくていいと安易に言ってしまわないこと』と言い換えてもいい」――(以上引用)

 もっとわかりやすく言えば、原発廃棄物の地層処理問題での「トランス・サイエンス」とは、例えば、平穏な暮らしを維持するために、私たちがどの程度のリスクなら受け入れるのかという科学者・研究者だけでは解決できない、私たちの問題だということでしょう。

 これを社会的に解決するには、そのリスクの詳細(理学的情報)と被害想定(工学的情報)が整理・提示されることが必須条件ということになります。
 つまり東日本大震災までは、理学・工学ともに、トランス・サイエンスの視点を欠いたことで「安全神話」が醸成されたと言えないでしょうか。

 その意味でも、「10万年地層処分」の不確実性を踏まえた「リスク・コミュニケーション」の手段としては、10万年の展望から見れば一瞬に過ぎない現政権下での「結論ありき」のごり押しは、まずはいったん拒否して、みんなで熟議してみることが賢明ではないでしょうか。

●『南海トラフ地震の真実』は”いかにもいかにも”刺激的

 『南海トラフ地震の真実』の広告宣伝文に、「南海トラフの発生確率は70~80%…数字を決めたのは科学ではなかった!……予算獲得のためにないがしろにされる科学――。地震学と行政・防災のいびつな関係を暴く渾身の調査報道」とあります。
 トランス・サイエンスの視点からは、”いかにもいかにも”刺激的……といった印象なのですが(?)いかがでしょう。

   (M. T. 記)


危機管理産業展2023での日本災害食学会ブースで(同学会資料より)

▼《Bosai Plus》 No. 318/2023年11月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●”目からうろこ”の「災害食」

 本号巻頭企画は「災害食の事典/災害食ISO」です。
 この両テーマは、日本災害食学会理事・副会長で日本防災士会副理事長、そして新潟大学大学院客員教授である別府 茂さんからの情報ご提供で可能となりました。

 別府さんとは日本防災士会を通じて、また「災害食」取材などを通じて長いお付き合いをさせていただいています(本紙創刊時からの読者でもあります)。
 本文で触れましたが、別府さんの「災害食」提唱に初めて触れたのは《Bosai Plus》創刊のさらに前、私が防災情報新聞記者として別府さんをインタビューした14年前になります。

 本文でリンクを貼ったそのときのインタビュー記事「非常食が変わる――あたたかく役に立つ『災害食』とは」からうかがえるように、記者としての私はそれまでの非常食の概念を根底からくつがえす「災害食」の考え方に、まさに”目からうろこ”、目が醒める思いを味わったことを覚えています。

 そして「災害食ISO」も然(しか)り。災害大国・日本発で世界各国の防災への取組みを後押しし、同時に災害食備蓄システムや災害食加工食品の標準化による海外版”地産地防”(本紙10月1日号/No. 315「巻頭企画」)にも展望が開けそうです。

 防災メディアの編集記者として私は、このように刺激的な知見に触れることで”記事ネタ”を得て編集企画をひねり出してします。ありがたきは知己=知見、そしてご鞭撻――その宝庫こそ読者のみなさまと言い換え得るものです。

●忙中閑話

○朝日新聞の全面広告(バスクリン「髪姫」 23.11.06付け)のキャッチコピーに「だまされたと思って一度お試しください」というものがありました。これってあり?
○商品広告に小さく「個人の感想です」ってありますが、これ、メイン・キャッチコピーにしたほうがいい……

   (M. T. 記)


▼《Bosai Plus》 No. 317/2023年11月01日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●巻頭企画――”ステルス津波”とは言い得て妙?

 伊豆諸島の鳥島近海で10月9日早朝に地震があり、千葉県から鹿児島県までの広い範囲で最大60cmの津波が観測されました。ただ、地震の規模が小さかったのに津波が広域で広がったことから、気象庁は「普通とは違う地震」と説明しました。

 震源に最も近い地震観測所は300kmほど離れていて揺れはほぼ観測されなかったので、いわゆる震度零(ゼロ)の無感地震(地震計は感応)として分類されるのでしょうか。ただ、この海域では小さな地震による津波がたびたび観測されているそう。海底火山との関係も推測されていて、今後の研究・解明に期待したいと思います。

 「ほとんどの人が気がつかない間に沿岸部に押し寄せる――その様は“ステルス津波”とも呼ぶべきか」と表現したのは週刊ポストでしたが、言い得て妙……でしょうか。
 いずれにしても今回は幸い津波による大きな被害はなかったようですが、気象庁は「地震活動は当面継続すると考えられる」と注意を呼びかけています。警戒するとともに、今後の同様の現象、津波発生メカニズムの教訓とすべきでしょう。

●大地震発生に季節傾向はある?

 巻頭企画で余談的に取り上げたNHKニュースの記事「災害は夜間と休日に多いってほんと?」と似たような素朴な疑問が、一般の方のブログ「地震は春・夏・秋・冬どの季節に多いのか調べてみた」にありました。

 それによると、気象庁地震データベースで1923~2017年の94年間での震度6弱以上の地震を調べたところ全部で66件あり、 1年6カ月に1回は震度6弱が発生しているとのこと。

 さて、どの月が多いか――月毎に多いのは3、4月(10回、12回、季節でいえば春!)7月(12回)。4番目は10月(8回)でそのほかの月は4、5回以下。有意とは言えないでしょうが、春が多かったとのこと。
 アマチュア地震研究家も、ユニークな視点を提供してくれます。
yamasaakiのブログ:地震は春・夏・秋・冬どの季節に多いのか

●追加「ClipBoard」(本紙採録に間に合いませんでした)

朝日新聞:核のごみ処分地「日本に適地はない」 地質学者ら300人が声明公表
(2023.10.30.)
 原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の処分地選びをめぐり、地球科学の専門家有志が30日、「日本に適地はない」とする声明を公表した。地殻変動の激しい日本では、廃棄物を10万年にわたって地下に閉じ込められる場所を選ぶのは不可能と指摘。処分の抜本的な見直しを求めた……

   (M. T. 記)


▼《Bosai Plus》 No. 316/2023年10月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●「関東大震災100年」も押し詰まり……

 日めくりカレンダーが日増しに薄くなったと感じる今日この頃。
 スーパーマーケットではおせち料理の予約なども始まっているようです。

 「関東大震災から100年」の今年も残り2カ月半となりました。本紙としては、年が明けたら「関東大震災から101年」と銘打って特別企画を続けたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。

●自然災害の凄まじさに世界は驚愕した年――人間同士の争いは”異次元”

 まだ本年の”まとめ”に入るのは早いのですが、世界は自然災害の脅威に驚愕した「年でも」ありました。「年でも」と言うのは、自然災害に劣らず、人間同士の飽くなき争いも同時進行しているからです。
 防災で「犠牲者ゼロをめざす」本紙としては、人間同士の殺し合い、陣取り合戦、まちの破壊に胸がつぶれる思いです。

 ロシアのウクライナ侵攻をはじめ、いま世界にはいろいろな紛争がありますが、その最たるものは目下急を告げるイスラエル・ハマス戦闘です。まさに”異次元”の殺戮の応酬としか言いようがありません。
 BSテレビの「世界のドキュメンタリー」に「暴力の人類史」というタイトルがあり、そこで意外な見方を知りました。「今日、私たちは人類が地上に出現して以来、最も平和な時代に暮らしているかもしれない」(スティーブン・ピンカー)というものです。逆説ではなく、”なおもて”現代は平和だというのです。

 イスラエル・ハマス戦闘に(不謹慎ではありますが)、かつて読んだ筒井康隆の短編「毟(むし)りあい」を想起しました。いかにも筒井康隆の世界ではありますが……(現実の人の殺し合いを前にやはり不謹慎、以下、ノーコメントとします)

●忙中閑話

日本経済新聞:中年Z世代「あえて酔わず」 30年後、ビール市場が半減
(2023.10.01.)
 「とりあえずビール」と、全員がジョッキで乾杯する宴会も今は昔。若者の間で「あえてお酒を飲まない」価値観が広がりつつある。ビール市場は2050年代に現在から半減し、ピークの10分の1に縮小する可能性が……

   (M. T. 記)


▼《Bosai Plus》 No. 315/2023年10月01日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●地域創生・振興と防災の二兎を追う「地産地防」 二兎を得るには……

 巻頭企画は「地産地防」――地産地消の”もじり”です。
 本文で紹介しましたが、「地産地防」は「地域の産業で地域の防災を進める」という意味。つまり政策的には、地域創生・振興と防災の二兎を追う趣旨もあります。

 ”二兎を追う者は一兎をも得ず”とも言いますが、岸田内閣のもとで2021年に構想された「デジタル田園都市国家構想」は「地産地防」とも連動し、「デジタル技術による地域活性化を進め、さらには地方から国全体へボトムアップの成長を実現する」というもの。
 「デジタル田園都市国家構想関連施策の全体像」という資料によれば、①デジタル基盤の整備、②デジタル人材の育成・確保、③地方の課題を解決するためのデジタル実装、④誰一人取り残されないための取組みという軸が示されていて、二兎どころではありません。

 政治のスローガンはかように、田園都市という牧歌的なイメージにデジタルという先端技術を組み合わせて「Win-Win」、「三方よし」どころではなく、「八方美人」(どこから見ても欠点のない美人⇔転じて、だれからもよく見られたいと愛想よくふるまうこと。また、そのようにふるまう人)に通じますので、要警戒(?)。

 とは言え、地域の防災力向上にこれからの時代、デジタル技術、IoTは欠かせません。ただし、わが国はDX(デジタル・トランスフォーメーション)において先進諸国と比べると何周遅れとも言われていますので、課題は山積でしょう。
 しかもその課題は、DXを進めたいという為政者自身の資質・体質・旧弊に根差しているとしか思えないのは、小紙だけでしょうか。

 停滞を突破する”ブレイクスルー(breakthrough)”は、為政者自身の自己変革から、ということでは?(がんばれ! ニッポンDX化)

●忙中憂話

CNN:米NY市に記録的大雨、街路や地下鉄で洪水発生 命脅かす事態
(2023.09.30.)
 米ニューヨーク市が29日、記録的な大雨による洪水に見舞われ下水管で処理しきれなくなった水が街路や地下鉄、学校などに押し寄せる事態となった。路上の車両も水に漬かるなど、全米最大の人口を抱える都市が混乱に……

CNN:2億5000万年後の地球、新たな「超大陸」は人類の住めない世界か 新研究が示唆
(2023.09.27.)
 今から約2億5000万年後、新たな「超大陸」の形成に伴って人類をはじめとする哺乳類は地球上から姿を消す可能性がある。研究者らがこのほど、そのような予測を発表した……

   (M. T. 記)


日立市役所全景(日立市役所資料より)


▼《Bosai Plus》 No. 314/2023年09月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●北アフリカの大地震と大洪水の同時発生

 本号巻頭企画は、わが国での言わば”通常災害”(大規模災害に対して)である台風・大雨被害を取り上げましたが、【話題1】では北アフリカのモロッコとリビアでほぼ同時期に発生した大地震と大洪水を取り上げました。それぞれ死者は4千人、9千人とも言われ、世界を驚愕させています。

 ひるがえって東日本大震災での死者・行方不明者数は関連死も含めば2万2千人を超えています。この人的被害は明治以降の日本の地震被害としては関東大震災、明治三陸地震に次ぐ3番目の規模の被害とのことで、改めてわが国の自然災害の脅威に震撼させられます。

 本号「ClipBoard」で取り上げていますが、自然災害のリスク評価を行う米国ムーディーズRMSは、関東大震災級の首都直下地震が発生した場合、経済損失が48兆5000億円にのぼると試算。これは東日本大震災の被害額の約3倍に相当するとのことです。
時事通信:経済損失48.5兆円 首都直下地震で―ムーディーズ試算
(2023.09.04.)

 5年前の2018年6月、土木学会が「『国難』をもたらす巨大災害対策についての技術検討報告書」を公表、南海トラフ巨大地震や首都直下地震が起これば「長期経済被害被害により”最貧国化”を否めない、対策に一刻の猶予も許されない」とし、大きな反響を呼びました。
防災プラス:「国難⇒最貧国化」の衝撃 巨大災害の被害推計
(2018.06.15.)

 モロッコ地震もリビア洪水も人災的要因が大きいようですが、災害で失われる命があってはならない――言い換えれば、地震そのもので人は死なない、建物・構造物の倒壊で命が失われます。
 洪水や津波で人は死なない、大雨や津波で浸水する土地に居住することで命が危うくなる――目先(私たちの時代)の利益のためにではなく、後世(子々孫々の時代)の安心・安全のために、災害対策・防災は根源的に見直す必要があるのではないでしょうか。

 「災害犠牲者ゼロ」をめざす本紙としてはまさに「 ゴールは遠いが、しっかり見える。」、”災害資本主義”(災害は資本主義の内から必然的に生じてくるという説)からの脱却を、愚直・頑固一徹にめざしたいと思います。

●忙中閑話

エフエム愛媛:防災ラジオ付きの自動販売機 愛媛県に四国 1号機設置!
(2023.09.14.)
 株式会社エフエム愛媛では、緊急地震速報を音声で知らせる自動販売機の設置に取り組んでいます。9月14日、愛媛県東温市の「フジ志津川店」に四国1号機となる防災ラジオ付き自動販売機が設置されました。これは緊急時にエフエム愛媛が放送する 「緊急地震速報」を、街中にある自動販売機を通じて、街行く人々にお届けすることができる、防災支援サービスです……

   (M. T. 記)


▼《Bosai Plus》 No. 313/2023年09月01日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●”お蔭様で”(心底からの感謝!)本紙は本号で創刊13年

 本号9月1日号(No. 313)で、本紙は創刊13年となります。
 読者のみなさまのご愛読・ご支援に心より感謝申し上げます。
 今後とも末永くよろしくお願い申し上げます。

●関東大震災から100年 首都直下、南海トラフ対策の原点に

 本号は特別構成として、9月1日「防災の日」=関東大震災100年ということで、防災の原点に立ち返ってこの大震災での「災害ボランティア」の”嚆矢”(こうし=はじまり)としての「学生救護団」を取り上げました。

 本紙提携紙であるWEB防災情報新聞には「周年災害」というわが国の災害史の総まとめとも言うべき膨大な資料が掲載されています(ライフワークとして執筆とりまとめにあたっている山田征男氏に多謝!)。

 WEB防災情報新聞「周年災害」では「関東大震災100年。特集/「周年災害」がひも解く大震災と防災」と題して、膨大な資料とともに大震災のさまざまな姿(側面)を取り上げていますので、ぜひご一読ください。本紙はその一部引用のかたちで本号巻頭記事を構成しました。

●東京帝国大学「学生救護団」とJVOAD

 関東大震災で東京帝国大学学生救護団は、単なるボランティアの枠を超えて、支援者の善意と被災者のニーズを結びつけ、災害支援全体を指導する役割を担っていたようです。
 本号では、『帝國大學新聞』の「永久に記憶さるべき東大学生の大活動」(見出しの旧字体を新字体に改め)と題した記事のカット写真を掲載しましたが、現代の東大新聞が、その役割は現代の「全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)」にも引き継がれていると言及しています。ご参考まで。

●忙中閑話

READYFOR:「女性用 立ち小便 補助具」で災害時の女性のトイレ問題を解決したい(女性防災士/看護師/保健師によるクラウドファンディング)
(2023.08.30.)
 多くの女性のために、大切な奥様や彼女のために、大切な娘さんのために、大切なお母様のために、トイレを我慢することで起こる健康問題を引き起こさないために、「女性用 立ち小便 補助具」にご支援を……

●本紙前号掲載「関東大震災 100年前の100人の新証言」の記事削除について

 経緯は本号P. 6「Bosai+Notice」をご覧ください。掲載要請に応えて掲載した記事について、情報提供元から「削除要請」があったという”想定外”でした。
 読者におかれましても、諸般ご斟酌のほどをお願いいたします。

【 訂正とお詫び 】
 本紙2023年7月1日発行(No. 309/P.5)「2023年 防災士功労賞を表彰」記事内のカット写真説明に間違いがありました。正しくは「賞状を受ける 上:団体受賞の日本防災士会京都府支部(田中英樹氏)、下:太田貴代子氏(愛知県)」となります。読者および関係者に深くお詫びして訂正いたします。

   (M. T. 記)


「関東大震災-100年前の100人の新証言」(日本赤十字社東京都支部資料より)


▼《Bosai Plus》 No. 312/2023年08月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●関東大震災から100年の災害教訓を”バックドア=変化球”で

 バックドアなどというマイナーな語句を巻頭見出しにしたこと、お詫びいたします。バックドアとは、ここでは野球用語、とくにMLB(メジャーリーグ)で出てくるピッチャーの変化球で、ボールのように見えて手元でストライクゾーンに入ってくる変化球のことを言います(反対語はフロントドアで、ストライクのように見えて外側、あるいは内側のボールゾーンにそれていくボール)。

 要するに、正統派の災害教訓であれば、災害・防災専門家による大震災の分析・評価・論考は”直球=ストレート”ですが、それらとはひと味異なり、地震という圧倒的な自然の不条理に遭遇した生身の人間の恐怖体験を生々しく取り上げようという趣旨で、前号に続いて本号は”バックドア教訓”の第2弾ということになります。

 それというのも、前号の発行と前後して、日本赤十字社東京都支部の生成AIによる『関東大震災 100年前の100人の新証言』公表、続けて西日本出版社の『一高生が見た関東大震災 100年目に読む現代語版 大震の日』と『写真集 関東大震災 被害→避難→救援→慰霊→復興』2冊の刊行情報、さらに劇映画『福田村事件』の全国公開情報などが続けて着信。
 これら関東大震災100年企画はまさに、これまでの”直球勝負”とは一味異なる新手の災害教訓の試みだと確信しました。

 次号はいよいよ関東大震災100年の9月1日号で本紙創刊記念日号ともなります。「関東大震災から100年」の総括としたいところですが、本紙なりの切り口を模索中ですので、あまり期待なさらないでお待ちください。

●マウイ島山火事、日本で学ぶべき災害教訓は

 マウイ島での山火事は、ハワイ州史上最悪の自然災害と言われています。この火災によって多くの人命や財産が失われ、歴史的な町も壊滅的な被害を受けました。自然環境への影響も甚大なものになるでしょう。

 ひるがえって、日本でも森林火災は年に約1000件発生しており、気候変動や地球温暖化の影響で自然発火が起こりやすくなっていると言われます。
 日本の災害史で「大火」と呼ばれる火災は、主に江戸時代から明治時代にかけて発生した都市部での大規模な火災がありましたが、近年は、1976(昭和51)年10月29日に山形県酒田市で発生した大火以降は、大きな大火は発生していません(阪神・淡路大震災での神戸市の同時多発火災を除く)。

 しかし例えば、もともと酒田市周辺は立地的に日本海から内陸部への風の通り道であることなど、温暖化を背景に強風・乾燥などの悪条件が重なると大火を招く要因を有する地域は少なくないと思われます。
 マウイ島の大火を対岸の火事とすることは、決してできません。

●忙中閑話

朝日新聞:(天声人語)熱波に名前は必要か
(2023.08.12.)
 今年の夏も日本に限らず、世界中が酷暑にあえいでいる。水分摂取や外出自粛を呼びかけても、熱中症などで命を落とす人が後を絶たない。この危険な暑さに対する市民の意識を高めようと、欧米などで熱波に名前を付けようという動きがあるそうだ……

   (M. T. 記)


東京日日新聞-市内付録-大正12年9月15日-(4p)-(避難者氏名)より


▼《Bosai Plus》 No. 311/2023年08月01日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●「大正関東地震」の揺れを”読む”

 関東大震災100年もいよいよ佳境、9月1日「防災の日」も近づきました(本紙創刊日でもあります)。

 本号巻頭企画は、関東大震災(大正関東地震)の揺れを”読む”というもの。
 今日、私たちは起震車でその揺れを物理的には体験できますが、それはあくまで”安全を確保したうえでの”疑似体験なのでリアリティに欠けます。
 そこで揺れを”読む”――当時の揺れを体験した著名人の”リアルな揺れのさなかの体験記”を読むことで、関東大地震の迫真の追体験ができるのではないか、というのが趣旨です。

●関東大震災と渋沢栄一

 2024年から使用される新1万円札の顔・渋沢栄一が改めて注目されるところですが、関東大震災について渋沢は、「震災は腐敗した人間社会を懲らしめるための天罰だ」とする天譴(てんけん)論を語っています。

 これに対して、小説家・劇作家で実業家としても文藝春秋社を興し、芥川賞、直木賞、菊池寛賞の創設に携わった菊池寛は「地震が渋沢栄一氏の云ふ如く天譴だと云ふのなら、やられてもいゝ人間が、いくらも生き延びてゐるではないか。渋沢さんなども……自分の生き残つてゐることを考へて、天譴だなどゝは思へないだらう」と鋭い皮肉を放ったそうです。
 実業家・渋沢栄一が天譴説を唱えたのに対し、ジャーナリスト文士・菊池寛が「天譴ならば栄一その人が生存するはずはない」と喝破したのは、時代を超えて”いいね!”を集めたことと思われます。

 もっとも渋沢は、地震発生時は日本橋兜町にあった渋沢事務所にいて、事務所の倒壊は免れましたがあわやのところを助けられ、周辺が火災延焼のなか王子にある家までやっと避難できたようで、よくぞ無事で……という状況だったそう。

 そして渋沢はすぐさま被災者の救助や支援に乗り出します。内務大臣後藤新平からの要請も受けて被災者支援活動に尽力、義捐金の募集・配分をはじめ政府の帝都復興審議会にも加わり、復興計画にも参画していきます。

●関東大震災と牧野富太郎

 本年4月15日号(No. 304)配信時の本欄で、メルマガ「今週の防災格言」を発行する「思則有備」の記事から「牧野富太郎と寺田寅彦の”ご縁”」を紹介しました。再掲すると――

 NHKテレビの連続テレビ小説「らんまん」の主人公・槙野万太郎のモデルとなった牧野富太郎博士は近代植物学の権威として知られますが、若い頃には植物学のほかに地理、天文や物理学などの西洋科学を学んでおり、地震火山といった天変地異にも大いに興味を持っていたとのこと。

 そして大正12年(1923年)、61歳となった富太郎は渋谷の自宅で関東大震災に遭遇し、「私はこれに驚くよりもこれを心ゆくまで味ったといった方がよい」という感想を自叙伝に書いているそうです。

 また、土佐(高知県)出身で同郷だった寺田寅彦(物理学者、地震学者)の記念館(寺田寅彦邸)の石垣には「天災は忘れられたる頃来る」と彫られた石碑が埋められているそうですが、「この字は牧野富太郎の筆によるという」のもおもしろい逸話で、改めて牧野富太郎博士に、そして”見流していた”朝ドラ「らんまん」に興味を持った次第です。

 これらの逸話、詳しくは――

「今週の防災格言」(2023.04.10.):関東大震災を体験した牧野富太郎の名言『 もう一度大地震に逢ひたい

   (M. T. 記)


2023年6月の海面水温図(上)、平年偏差図(下)(気象庁資料より)


▼《Bosai Plus》 No. 310/2023年07月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●地球規模の「大災害時代」?

 (本日)7月15日から16日にかけて東北地方で警報級の大雨が降る恐れがあるとして、気象庁は土砂災害や河川の氾濫に警戒するよう呼びかけています(15日午前2時現在)。これまでの雨で地盤が緩んでいるところもある北陸地方も、15日朝にかけて土砂災害に警戒が必要だそうです。

 この6月末から7月上旬・中旬にかけて梅雨前線、線状降水帯による大雨災害が九州・中国・北陸・東海地方にかけて各地で発生しています。
 関東地方では雷雨・突風被害も発生、いっぽう、東京都八王子市で12日に最高気温39.1℃を観測、10日に山梨県大月市で観測された38.7℃を上回り、今年全国で最も高い気温を更新したとのこと。
 そして直近の気象情報では、3連休の最終日17日(月)は東京都心で38℃の予報。体温を超える気温はまさに”災害級の暑さ”で、熱中症厳重警戒です。

 このような「異常気象」あるいは「極端気象」は、言うまでもなく地球温暖化への身近な警鐘となるものでしょう。
 身近ではないが、ひしひしと迫る不気味な怖さの意味での警鐘は、北極や南極の氷やヒマラヤの氷河が融け始めているという話題でした。ところがここに来て、「エルニーニョ」(その反対語の「ラニーニャ」)という言葉も急速に聞かれるようになってきました。

 本号では、まさに”ひしひしと迫る不気味な怖さ”を秘めた「エルニーニョ現象」のおさらいを試みました。
 エルニーニョもラニーニャも、スペイン語の語意は「神の子」「女の子」で怖いイメージはなく、むしろ愛しい響きがあります。もともと「エルニーニョ」という用語は、クリスマス時期にペルーとエクアドルの沿岸を南に流れる小規模な暖かい海流を指すものだったようです。
 しかし、地球温暖化とともにこの用語は進化し、現在では海面の温暖化を指すものとなったようです。

 直近の話題に「人新世(じんしんせい/ひとしんせい)」もあります。人類の爪痕が残る時代、あるいは人類による「第6の大量絶滅」を地球の歴史に刻む新たな地質年代となるのか――現代の空気感とともに、暗澹たる思いもあります。

   (M. T. 記)


2023年版防災白書〈特集1 関東大震災と日本の災害対策〉扉ページより


▼《Bosai Plus》 No. 309/2023年07月01日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●防災白書〈特集〉20年と、防災士制度20年

 本号巻頭企画は「防災白書」―ー2023(令和5)年版をメインにしましたが、その〈特集1〉が「関東大震災100年」、防災白書が1963年に刊行されてから60年(”還暦”)もからめて、これまでの防災白書「特集」一覧を紹介してみました。

 この特集とキャッチフレーズ一覧は、まとめてみると直近20年の暦年の、そのときどきの防災課題の変遷がよくわかります。
 想定巨大地震への備えから災害リスクの認識、自助・共助の大切さ、新しい公共としての防災――そして、2010(平成22)年版で初めて、小さいコラムでしたが、防災士が初めて白書で紹介されました。
 防災士制度推進の当事者であった私たちは当時、「やった~!」という感じだったことは否めません。

 というのも、防災士第1号が誕生したのが2003年10月ですから、こじつけかもしれませんが、2004年から始まった防災白書の「防災メッセージ」の歩みとほぼ軌を一にしていたとも言えます。

 そして、東日本大震災の勃発で、防災白書の特集は”キャッチフレーズ”をやめてストレートに「特集」を打ち出すことになりますが、防災士制度においてもまた、東日本大震災で再び(阪神・淡路大震災に続いて)あらわになった公助の限界を乗り越えるべく、パラダイムシフト転換が促されました。

 そのパラダイムシフトとは、公的資金を投入して住民に民間資格である防災士になってもらう――国・地方自治体は「自助・共助・協働」をモットーとする防災士の役割を高く評価し、自治体自らが防災士養成事業に次つぎと名乗りをあげ始めた――まさに、パラダイムシフトです。

 本号では防災士功労賞の表彰も取り上げています(P. 5)。総務省消防庁長官、内閣府統括官(防災担当)が来賓として出席、防災士への期待を述べられましたが、両氏の言葉の端々に、まことに率直な防災士への期待が込められていたように感じました。

●耳寄り情報

BBC:フランスで異例のM5超の地震 数百の建物が破損
(2023.06.18.)
 フランス西部で16日夜から17日朝にかけて地震が相次ぎ多くの建物が破損した。フランスで強い地震が起きるのは異例。北西レンヌから南西ボルドーまで揺れが感じられた。16日夜の地震の規模はM5.8……

   (M. T. 記)


家屋解体作業(PhotoAC-写真素材より)


▼《Bosai Plus》 No. 308/2023年06月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●「わがまちの災害リスク」を超えて「わが国の少子高齢化リスク」に抗う

 本号巻頭企画は「わがまちの災害リスク――空き家、老朽化マンション」問題を取り上げました。少子高齢化、人口減のリアルな現実がここに浮き彫りにされています。
 この問題は地域防災にとって当然大きな課題になりますが、それ以上に、わが国の近い将来の命運を暗示する深刻な状況でもあります。

 最近のニュースに、2022年に生まれた日本人のこども(出生数)は77万747人で、統計を始めた1899年以降で最少、初めて80万人台を割り込んだというものがあります。
 1人の女性が生涯に産む見込みの子どもの数を示す「合計特殊出生率」が1.26に落ち込み、データのある1947(昭和22)年以降では2005(平成17)年と並んで過去最低の水準で、少子化の加速が止まらない状況のようです。

 政府によると合計特殊出生率は2.07が必要とのこと。現状は、世界的に見ても日本は212位中194位(世界銀行発表データ)で、日本の合計特殊出生率は極めて低いようです。
 このままのペースで少子化が進めば労働力不足はより深刻化し、遠からず社会保障制度が行き詰まることはもちろん、わが国の経済規模縮小も避けられず(G7からの脱落)、いずれ国家財政の維持すら厳しくなることは避けられないとの予測もあります。

 いま政府は”異次元の少子化対策(出産・子育てへの資金援助)”でなんとかこの少子化を食い止めようとしていますが、果たして多くの国民はその深刻さを理解しているのでしょうか――
 政府のこれまでの不作為を責めるだけでは、国民自らの(そして次世代の)近い将来の”貧困化”を招くだけではないでしょうか。

 少子高齢化・人口減という国難の解決策は簡単には見つからないと思います。がしかし、小手先の若い人の支援ではなく、多くの国民が共に、日本という国の将来に夢と誇りを持てる「理念」を、時の政権は打ち出すべきではないのか。

 例えば、より平和志向・より人権志向・より多様性志向の理念を打ち出した新しい日本――それに向かって若い人たち、子どもたちが、夢と誇りをもって世界に胸を張り、生きる歓びを享受する――身の丈に合った、そういう理念づくりがいまこそ必要な気がしています。

 今回の巻頭企画をまとめながら、防災を超えて、そういう”勇み足”的な夢を見ました……

   (M. T. 記)


「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震における具体的な応急対策活動に関する計画の概要」より

▼《Bosai Plus》 No. 307/2023年06月01日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●日本海溝・千島海溝の”過酷被害想定”に備えて

 本号巻頭企画は、中央防災会議幹事会がとりまとめた「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震における具体的な応急対策活動に関する計画」を取り上げました。

 これまで本紙も何度か取り上げてきた巨大地震津波による過酷な被害想定を踏まえてのことですので、十分な事前計画づくりは当然だと思います。
 この「プッシュ型支援」計画にはぜひ、国としての防災・減災の「志=魂」を反映してほしいものだと思っています。

●原発「60年超」運転が事実上可能に

 いっぽう、参院経済産業委員会で5月30日、既存原発の「60年超」運転を事実上可能とする「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」が可決され、31日の参院本会議で可決・成立しました。
 これに先立って岸田文雄首相は原発の活用について、「安全神話に陥らず、リスク低減の活動に規制当局と事業者が継続的に取り組むことが重要だ」と述べたそうです。

 岸田さんの口ぐせで、「え~っと……」と合いの手を入れながらの発言だったかどうか知りませんが(おちょくってすみません)、あえて本紙に言わせれば、言葉はかようにも重そうで軽いものかと……

 たまたま北朝鮮が本紙校了日(関係ありませんが)の31日朝に打ち上げた「衛星」が墜落したようですが、その前日、中国の有人宇宙船打ち上げは成功したようです。
 それぞれ、国の威信をかけての”賭け”のようですが、ひと月ほど前のわが国のH3ロケットは残念ながら打ち上げ失敗でした。
 H3ロケットは国の威信を賭けたわけではないでしょうが、JAXAはじめ関係者は忸怩たる思いではあるのでしょう。

 科学技術は”正直”で、人は失敗しないはずと思いこんでいても、ちゃんと失敗の原因があって失敗するわけです――ですから、原発を推進する向きが原発の経済性や技術的安全性を強調しすぎなのが、逆に怖い。

 地殻変動帯にあるわが国の自然災害リスクはもとより、テロ、技術的な瑕疵(かし)、人為ミスなどが引き起こす「国の存亡にかかわるリスク」、そして「子々孫々にまで影響をもたらす廃棄物処理」などは目先の電力安定供給、経済性、技術的安全性などとはまったく別ステージで熟議すべきテーマのはずです。

 改めて、首相の「安全神話に陥らず、リスク低減の活動に規制当局と事業者が継続的に取り組むことが重要だ」という”決め台詞”に、首相自身が安全神話に陥っているのではと、不安が募る次第です。

   (M. T. 記)


▼《Bosai Plus》 No. 306/2023年05月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●「関東大震災から100年」、マジに再来を警戒……

 5月5日の能登半島の震度6強・5弱の連続地震、群発地震、そして同11日の千葉県南部の地震、さらに本紙校了日を急き立てるように11日あたりから続くトカラ列島近海での群発地震……そしてもう本紙の原稿締切り(14日夜)という段になっての八丈島近海での連続地震速報……

 トカラも八丈島もいずれも海域で起こった地震ですが、幸い津波は伴っていません。しかし、海域で起こる地震では地震の揺れと同時に津波の発生が心配です。
 たまたま校了準備をしているさなかの14日23時03分ごろと日付けが変わって15日01時22分ごろ、八丈島近海で再びそれぞれM5.2、M4.2の地震発生情報があり、筆者のパソコンの緊急地震速報(予報)が鳴りました(東京の予測震度はそれぞれ1/数値は防災科研「防災地震Web」より)。

 このところ群発とまでは言わずとも、一定地域で連続して発生する地震が多いような気がします。巨大地震の発生確率はあくまで確率ですが、発生回数が増えれば増えるほど、巨大地震に”当たる”確率は高くなるのでしょう。
 とすると……千葉県南部の地震関連で気象庁資料を調べたら、相模トラフで想定される巨大地震がこの周辺で起こることが付帯説明としてありました(今回の地震と関連づけるわけではなく)。

 相模トラフの巨大地震と言えば、1923年大正関東地震=関東大震災が反射的に頭に浮かびます。「関東大震災から100年」、マジ、再来警戒です。

●昨年3月福島県沖の地震の「デジャヴ」または「パラレルワールド」?

 本文でも書きましたが、東日本大震災から11年の周年を経た昨年3月16日夜の福島県沖の地震(M7.3)はまさに、最悪想定(東日本大震災の再来)も有り得べき悪夢のような地震でした。
 ほぼ1年後のいま、似たような状況が日本列島を”包囲”しています。それは「デジャヴ(既視感)」にも似て、「パラレルワールド(並行世界)」にも似た感覚です。
 そしてそれらの感覚は、警鐘と受けとめるべきもののように思えます……

   (M. T. 記)


▼《Bosai Plus》 No. 305/2023年05月01日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●5月は「水防月間(北海道は6月)」 今年こそ「防げたはずの死」をゼロに……

 本紙は前号4月15日号(No. 304/P. 3の囲み記事)で、関西大学社会安全学部とイギリスのレスター大学、「回避可能な死のネットワーク(Avoidable Deaths Network)」(ADN)が提唱する「回避可能な死の国際啓発デー」の大阪府泉大津市での立ち上げイベントを紹介しました。
 同イベントは「3月12日」を「回避可能な死の国際啓発デー」として、「防げたはずの死」の減少方策を考える機会を提供しようという趣旨です。

 開催地の泉大津市は、南海トラフ巨大地震津波による犠牲者が「避難意識が低い場合には約2000人と想定されるいっぽう、避難意識が高い場合は誰一人犠牲にならないと想定されています。
 この2000人という犠牲者はまさに「回避可能な死」であり、その数を減少するための取組み・検討を行おうというイベントでした。
関西大学:「回避可能な死の国際啓発デー」を開催

 本紙のスローガンである「災害犠牲者ゼロをめざす」は、正直言って”理想”ですが、とは言え「回避可能な」災害犠牲者という条件設定は大変興味深いテーマです。
 本号巻頭企画の流域治水(水害)の「自分ごと化」はまさに、毎年繰り返される水害リスクの回避=回避可能な災害死ゼロに向けて、重要なヒントとなるものでしょう。
 「3月12日~回避可能な死の国際啓発デー」については今後もフォローしていきたいと思っています。

●ハザードマップのユニバーサルデザイン化と「チャットGPT」

 「ハザードマップのユニバーサルデザイン化」は焦眉の課題です。本紙で取り上げた検討会の報告書は、いろいろな試行錯誤も含めて、その開発は開発途上のようです。
 検討会は本年3月でいったん報告をまとめましたが、その直前に、驚くべきデジタル技術がほぼ一夜にして爆発的に世界中を席巻しています。「チャットGPT(ChatGPT)」です。

 オープンAI(OpenAI)が昨年12月に公開したチャットボット「チャットGPT(ChatGPT)」は、サービス開始からわずか2カ月後の2023年1月にユーザー数が世界で1億人に到達。史上最も急速に成長しているインターネット・サービスだという推定もあるようです。

 すでにこれを日本語で試してみた人も多いと思います。筆者も試してみてその”実力”に驚きましたが、筆者はいまのところこの技術は「Wikipedia」の”高度化”という印象で、報道メディアとしては「Wikipedia」の情報を全福信頼できないように、「チャットGPT」の回答にも”裏取り”(ファクトチェック)が欠かせない、本紙の編集方針・企画は独自のもの(オリジナリティ)を堅持したいと思っています。

 検討会がこの技術を想定に入れたかどうかはわかりませんが、おそらく「ハザードマップのユニバーサルデザイン化」においても、いえ、防災の各種情報サービスのあり方の議論においても、今後、大きな可能性は秘めていると思います。

 あえて英語の慣用句で言うと、「We’ll see.」(成り行きを見守りましょう)というところでしょうか。

   (M. T. 記)


▼《Bosai Plus》 No. 304/2023年04月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●災害ゴミ対応は家庭ゴミ・分別対策から

 本号巻頭企画は「災害ゴミ」です。
 先ごろ、環境省が公表した日本海溝・千島海溝沿い巨大地震想定での災害ゴミ発生量推計と南海トラフ巨大地震、首都直下地震でのそれとあわせて、国・自治体の対応・対策を概観し、とくに地域防災とかかわる私たちが考えるべきことを考えてみました。

 膨大な災害ゴミ処理対策も、詰まるところ、事前防災としての防災まちづくりに立ち返ってきます。そしてその一環として、地区防災計画も防災タイムラインも事業継続計画(BCP)も、災害ゴミ対応にも応用できるというもの。
 いろいろやること、なすべき課題は多いのですが、それだけやりがいもあるという前向きな姿勢で来たるべき災害――そしてわが家の家庭ごみ分別対策に――備えることにしましょう。

●牧野富太郎と寺田寅彦の”ご縁”

 以前紹介させていただきましたが「思則有備」のメルマガ「今週の防災格言」に興味深い記事がありました。

 NHKテレビの連続テレビ小説「らんまん」の主人公・槙野万太郎のモデルとなった牧野富太郎博士は近代植物学の権威として知られますが、若い頃には植物学のほかに地理、天文や物理学などの西洋科学を学んでおり、地震火山といった天変地異にも大いに興味を持っていたとのこと。
 そして大正12年(1923年)、61歳となった富太郎は渋谷の自宅で関東大震災に遭遇し、「私はこれに驚くよりもこれを心ゆくまで味ったといった方がよい」という感想を自叙伝に書いているそうです。

 また、土佐(高知県)出身で同郷だった寺田寅彦(物理学者、地震学者)の記念館(寺田寅彦邸)の石垣には「天災は忘れられたる頃来る」と彫られた石碑が埋められているそうですが、「この字は牧野富太郎の筆によるという」のもおもしろい逸話で、改めて牧野富太郎博士に、そして”見流していた”朝ドラ「らんまん」に興味を持った次第です。
 これらの逸話、詳しくは――
「今週の防災格言」(2023.04.10.):関東大震災を体験した牧野富太郎の名言『 もう一度大地震に逢ひたい 』

●忙中閑話

建設通信新聞:リニアモーターで動く自走式エレベーター 3次元移動が高層建築を変える リニアリティー
(2023.03.01)
 次世代エレベーターが高層建築を変える――ベンチャー企業のリニアリティー(京都市、マルコン・シャンドル社長)は、ロープを使わずリニアモーターで直接駆動する自走式エレベーターの開発を進めている。軌道を垂直方向に限定せず、横、斜め、曲線とあらゆる方向に自由に移動できるのが特長……

   (M. T. 記)


▼《Bosai Plus》 No. 303/2023年04月01日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●究極の津波防災は「津波が及ばない高所に住むこと」

 本号では、巻頭企画で「防集」(防災集団移転促進事業)を取り上げました。
 本文で書きましたが、「究極の津波防災は本来、冷徹なまでにアナログで「津波が及ばない高所に住むこと」ではないでしょうか。
 古来、神社・仏閣などは沿岸部ではなく、高台や森の中に建てられていることが多いわけですが、まさに災害(地震、津波、洪水など)の多いわが国で、低頻度大災害から経験的に得られた先人の知恵でしょう。

 しかし、人間の性(さが)でしょうか、現世のなりわい(生計)を優先する私たち”庶民”は利便性の高い平地、沿岸部でまちづくりをしてきました。
 大災害は低頻度で起こりますから、あえて災害リスクの高い場所で住み続けるのであれば、災害被害はその土地に住む代償とも考えられ、被災住宅の公的資金による再建支援は、それが危険な地区での居住を続けさせることになるのであれば、本来の防災まちづくりに反することにもなります。

●防災は「次世代、次々世代ごと」という視点を

 さらにここでもう一度立ち止まって考えてみると、私たちはあまりにも自分の、同世代の、同時代の、目前の利便性にとらわれすぎてはいないでしょうか。
 三陸沿岸はこれまで、歴史的には”忘れる間もなく”繰り返し大津波被害を受けてきました。南海トラフ巨大地震の発生間隔はやや間延びしますが、ほぼ確実に再来するのでしょう。
 であるならば、次世代、次々世代のために、少しでも安全な地域づくりを、いま、しておくことが私たちの責任だろうと思います。

 本号では地球温暖化問題も取り上げて、大見出しに「私たちは次世代になにを残すのか」と加えましたが、原発回帰も、防衛費増額も、少子化対策も、男女格差も、人権も、ジェンダー・多様性も、憲法改正も……現世の、いま問題になっている諸課題は要するに「私たちは次世代になにを残すのか」と問いかけています。

 防災は「自分ごと」と言いますが、さらに一歩進めて、「防災は次世代、次々世代ごと」という視点も必要だと思っています……そう考える”お年頃(老境?)”になってきたようです。

●トンデモ閑話

朝日新聞:「水中核攻撃」試験を宣伝 北朝鮮「津波で艦船や港破壊」
(2023.03.25.)
 北朝鮮の朝鮮中央通信は24日、軍の新たな水中攻撃の試験が21~23日に行われたと報じた。「核無人水中攻撃艇を使った」とされている……核爆発で津波を起こして艦船や港を破壊する目的で……

   (M. T. 記)


▼《Bosai Plus》 No. 302/2023年03月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●「GX」は”原発トランスフォーメーション”?

 岸田政権の原発回帰への政策大転換は驚きでした。ロシアのウクライナ侵攻を理由として、エネルギー、国防両面での「熟議なき独断専行」は、岸田氏のイメージを大きく変えるものだったのではないでしょうか。

 寺田寅彦(1878年~1935年)は明治中期から昭和初期を生きた物理学者、地震学者、そして随筆家ですが、彼は小編『天災と国防』(1934(昭和9)年)のなかで、「(災害は)突然襲来するのである。それだから国家を脅かす敵としてはこれほど恐ろしい敵はないはずである…(中略)…陸軍海軍のほかにもう一つ科学的国防の常備軍を設け、日常の研究と訓練によって非常時に備えるのが当然でないかと思われる」と書いています。

 この一節に、東日本大震災の教訓を踏まえて策定された中央防災会議・防災対策推進検討会議の「最終報告~ゆるぎない日本の再構築を目指して~」(2012年7月31日)の“宣言”が共鳴するかのようです。
 その宣言とは――「災害から国民を守り、その営みを守り、さらには国を守る。こうしたことができる社会を構築していかなければならない。このことは、軍事的・人為的な脅威から国や国民を守ることに決してひけをとらない、国家の重大関心事項であるべきであり、政治の究極の責任の1つでもあると認識すべきである」。

 原発回帰、国防費拡大――守るべき国とはなにか。守るべき国民とはだれか。
 国防については本紙の守備範囲外なのでこれ以上触れません。しかし、防災で言えば、原発回帰は本文で手厳しく(?)指摘したように、安全神話への回帰としか思えません。

●原発処理水の海洋放出の風評被害について

 国は原発処理水の海洋放出を予定していますが、当然のことながら、風評被害をおそれる地元の反発は根強いようです。
 ちなみに、福島原発事故を受けた諸外国・地域で日本からの輸入規制をしているのは韓国、中国、台湾、香港、マカオの5カ国・地域となっています(外務省、2022年7月現在)。
 まずはこうしたわが国の対岸諸国の理解と輸入規制撤廃を図ることが先決のように思えますが、いかがでしょう。

●忙中閑話

 食品などの備蓄で「ローリングストック」という用語が一般化していますが、英語のrolling stockだと「鉄道車両」の意味です。英語で循環備蓄を言うのであれば、ストックローリングと単語を逆転させなければいけません。
 日本の防災を世界に広めようということであれば、これからでは遅いかもしれませんが、「Stock Rolling」にしませんか?(時すでに遅し?)

   (M. T. 記)


▼《Bosai Plus》 No. 301/2023年03月01日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●少子高齢化時代の「子ども自助防災」地域防災のテーマとして考えたい

 直近のニュースに「2022年の出生数(速報値)が前年比5.1%減の79万9728人で、80万人割れは比較可能な1899年以降で初めて、国の推計より11年早い」というものがありました。
 政府は当然、危機感をもってこの事態を受けとめているわけですが、少子高齢化は統計的には何十年も前から予見されていたことで、手厳しく言わせてもらえば、なにをいまさら……といった感があります。

 本号では、少子高齢化社会のもとで私たちの目には逆に目立ち始めた子どもたちの防災、子どもたち自身の自助防災の視点を取り上げました。
 そのきっかけはTAGというママ向け防災メディア『いつもしも』を運営する会社のプレスリリースでした。

 TAGは「ママ向け」を打ち出しているので、パパはどうしたの?という本紙の問いかけは本来筋違いかもしれませんが、独自の子ども向け防災学習コンテンツを展開していて参考になります。
 このコンテンツから、改めて、地域防災活動での「子ども自助防災」のヒントを得られることと思います。

●青信号で横断歩道をスタートダッシュする子どもたち

 ところで、子どもは交通事故から自分の身を守ることも大切な自助防災だと思いますが、残念ながらわが国の通学路などの歩道環境は、欧米と比べれば劣悪と言わざるを得ず、学校での交通事故対策や、子どもの指導教育も大変だと思います。

 そんななかで筆者は、信号・横断歩道のある交差点での子どもたちの行動パターンにある共通の挙動を見出しています。
 それは、赤から青信号に変わるのを合図に、ほとんどの子どもが”ダッシュ”する(駆け出す)ことです。これって、危ないですよね。

 手を上げて横断歩道を渡りましょう、はいいのですが、そのとき車のほうに視線を送る、車の運転手との「アイ・コンタクト」は指導されているのでしょうか。
 かたちだけ手をあげて渡るだけでは意味がありません。

 「子ども自助防災」はこのように、青信号でスタートダッシュしないこと、「手をあげる意味・理由」までを具体的に教えることから始まると思っています。

●忙中閑話

 筆者も対話型AI「チャットGPT」を試してみました。
 「ロシアのウクライナ侵攻をやめさせるためには?」の問いへの答えは――
 「ロシアのウクライナ侵攻を止めるためには、国際社会の協調と圧力が必要です。以下は、そのための可能性がある手段です……」と4つの手法を箇条書きで示したあと、「……以上の方法を含め、ロシアのウクライナ侵攻をやめさせるためには、国際社会の強力な取組みと協調が必要です」と、満点の回答でした。

   (M. T. 記)


■《Bosai Plus》 No. 300/2023年02月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●創刊から本号300号(+Extra 2号)

 本号は、創刊から通算300号という数の上では区切りの号になります(東日本大震災時に号外=Extra 2号発行)。
 これまで1号もお休みすることなく定期発行を継続できましたことは、読者のみなさまのご支援のたまものと感謝申し上げます(いっぽう、編集発行人が”五病息災”でもなんとかやってこれたお蔭と……手前みそながらツレアイに感謝)。

 だからといって100号・200号のときも、特大号とかは発行していません。あくまで「ゴールは遠いがしっかり見える」の通過点ということで、粛々と発行継続させていただきます。
 これからもご愛読のほどをよろしくお願い申し上げます。

●トルコ・シリア大地震――ひとごとではありません

 2023年はわが国では関東大震災から100年の年。私たちが改めて大災害への警戒を呼び起こそうというときに、トルコ・シリア大地震が発生しました。
 本号巻頭企画でこれを取り上げましたが、いまなお被害は拡大・進行中で、あまりの大災害の様相を前に、防災メディアとしてその一端の速報にとどまってしまったことを悔います。

 今後、本号で積み残した多くの重要課題・テーマを逐次取り上げながら、「関東大震災から100年」とからめつつ、”わがこと=わが国の災害環境と同次元の災害”として、トルコ・シリア大地震をフォローしていきたいと思います。

●「いのちを脅かすものを拒否」――「新しい戦前」への動きに警戒

 消費者団体の主婦連合会と日本消費者連盟が2月6日、東京都内で記者会見し、岸田政権が国家安全保障戦略(NSS)など安保関連3文書を閣議決定したことに反対する共同声明を発表したという小さな記事がありました。

 「消費者団体の活動は平和な社会が保障されてこそ可能。平和な暮らしを妨げ、いのちを脅かすものを拒否することが消費者運動の基本」と強調したとのこと。
 自然災害から命・生活・コミュニティを守ろうという防災活動でもまた、「いのちを脅かすものを拒否することが活動の基本」となるのではないでしょうか。
 防災活動にかかわるみなさま、「新しい戦前」への動きにも警戒を怠りなく。

   (M. T. 記)


■《Bosai Plus》 No. 299/2023年02月01日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●巻頭企画は「TOKYO強靭化プロジェクト」

 本号巻頭企画では東京都が2023年度予算案に組み込んだ「TOKYO強靭化プロジェクト」の概要を紹介しました。
 「関東大震災から100年」に関連づけて、都ではハード施策を中心に防災に大規模な予算を投じていますが、都民の防災意識の醸成に向けたソフト関連事業も進めるようですので、地域防災においても活性化が期待されます。

 小池百合子都知事は国政とのこれまでの”確執”もあり、少子化対策や教育費、環境対策などで国と張り合うような感もあります。いい意味での張り合いであれば、国民・都民としては歓迎です……

●「防衛問題」の最悪想定

 いっぽう、国の原発再稼働や防衛力増強への”前のめり”姿勢は、防災メディアとしては気がかりです。
 これまでも何度も本紙の見解は述べてきましたが、「だれ1人見逃さない、災害犠牲者ゼロをめざす」防災の理念に立つメディアとして、大規模災害と同様、いったん大事故が起これば”亡国”につながりかねない原発や、”人間の意図的な殺戮とまち・コミュニティの破壊”に通じる戦争・有事事態の惹起には断固反対です。

 本号(P. 5)で「ミサイル防爆シェルター」の話題を取り上げましたが、たまたまこの記事を起こす前後、朝日新聞の「声欄」に下記の読者投稿を見つけました。

朝日新聞:(声)ミサイル買うよりシェルターを
(2023年1月11日)
 教員(大阪府 67)
 日本の軍事費が大幅に増額されようとしている。以前は戦争体験や平和憲法が歯止めとして働いて、専守防衛とかGNP1%とかの話し合いが丁寧に行われていた記憶があるが、ここに来て岸田文雄首相が一気に増額を実行に移そうとしている……

朝日新聞:(声)出でよ、「シェルター」掲げる政党
(2023年1月30日)
 無職(東京都 86)
 日本の軍事費の大幅な増額案に対して、「ミサイル買うよりシェルターを」(11日)を読み、思わずグッドアイデアと叫んでしまいました。太平洋戦争を生き延びた人間としてあの苦しみを二度と後に続く世代に味わわせたくないと思うから……

 そう、86歳の投稿者の方は、「ミサイルを防ぐだけでなく、地震や津波など自然の災害にも役立つシェルター。清潔なトイレやキッチン、救急医療室、娯楽室なども備え……」とも提案しています――そんなシェルターを全国民用につくる――そういう防衛費増強ならばまだ、議論の余地はあると思います。

 私たちは、南海トラフ巨大地震や首都直下地震から人命を守ろうと、ハード・ソフト両面で懸命に事前防災の拡充を試みているわけですが、国の防衛計画では国民の安全は「Jアラート」で守れるというのでしょうか。
 本紙の趣旨は、国民の命を守ることが第一義であれば、巨額の防衛費の使い道は報復攻撃が想定される”スタンド・オフ防衛能力”よりもまず、国民の命を守る「ミサイル防爆シェルター」整備が先ではないかというものです。

 でも、しかし、もし「日本の防衛」が、国民の命を守ることが第一義ではないとしたら……国・政府に”理”があるのかもしれません。

   (M. T. 記)


防災科研の「防災クロスビュー(bosaiXview)『首都圏における面的推定震度分布』より『2021年10月7日 千葉県北西部を震源とする地震(M5.9)』


■《Bosai Plus》 No. 298/2023年01月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●2023年第2号は、第1号(1月1日号)に続いて特別構成

 本号は「防災DX」をテーマに5ページ特別企画となっています。前号の「関東大震災から100年」に続いての特別構成で、2023年の年初にあたり、今後の防災を展望する大きな課題として取り上げました。

●新語「DX」の連呼は「ないものねだり」?

 ここ数年「DX」という言葉が席巻しています。「デジタルトランスフォーメーション」のことですが、英語のDigital Transformationは「X-formation」と表記されることから、その頭文字を取って「DX」と略されるようになりました。

 「Transformation」が「X-formation」と表記される理由は「Trans」という言葉の由来にあり、ラテン語の「trans」が「変える」や「超える」といった意味で「cross」と同義。いっぽう、交差するという意味の「cross」の省略が「X」と表記され、同じ意味の「trans」も「X」で代用されるようになったようです。

 わが国で「DX」という用語の本格的デビューは、経済産業省が2018年、日本企業もデジタルトランスフォーメーション(以下、「DX」)を進めるべきであるとして、「DX推進ガイドライン」を公開したことに始まるようです。
 経産省はガイドラインのなかで、「DX」を「変化するビジネス環境に対応するためにIT技術を活用して業務改革を行い、競争力を高めるもの」として推奨したことから「DX」への注目度が一挙に高まりました。
 しかし、経産省の「DX」化期待は、現状では”ないものねだり”にも見えます。

●日本社会の変革を迫る「DX」からは程遠い?

 「DX」はもともと「IT技術の活用で人びとの生活をよりよく変化させる」という考え方で、経営・ビジネス環境、さらには人びとの生活・環境の改革をめざす理念にも通底するとも言われます。

 しかし日本企業、日本社会にとって「DX」化のハードルは高いようです。業務・生活・文化・環境の改革を迫る「DX」は日本風土に合わない――例えばはんこ文化や根回し・縦割り・年功序列(高齢者が意思決定者)組織、男性優位の社会システムなどが根強く、いずれも「DX」化の障壁となってくるからです。

 あえて言うならば、”ガラパゴス的”社会・風土に縛られる日本では、経産省がめざす「DX」は前途多難、ましてや日本社会の「DX」も――
 デジタル庁のマイナカード普及の苦戦に見られるように、いまだ”夜明け前”のように見えます(デジタル庁ホームページはいかにも”暗中模索”的)。

●期待は「防災DX」 防災科研の締めの言葉「防災で最も大切なのは自助力」

 いっぽう、「防災DX」には大いに期待が持てます。少なくともその”夢”がよりクリアだから。防災科研の「情報が災害対応現場を牽引する「CPS4D」=防災版サイバー・フィジカル・システム)は、「災害から命を守る」防災というゴールがはっきり見えるだけにわかりやすい。
 あとは具体的にその社会実装化の事例(研究成果)の快音・連打を期待です。

 本文(文末)で触れていますが、防災科研の志の締めの言葉に、「防災で最も大切なのは自助力」とあります。アナログ人間としては、力強い励ましの言葉でもありました。

   (M. T. 記)


関東大震災映像デジタルアーカイブ動画より宮城前の和田倉濠にかかる道に発生した地割れの様子(「關東大震大火實況」より)


■《Bosai Plus》 No. 297/2023年01月01日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●新年おめでとうございます

 コロナ禍の収束がいまだ見えないなか、2023年の幕開けとなりました。
 オミクロン株の動静も先行き不透明で、まだまだ気を許せない日々が続きそうですが、新しい年のみなさまのご健勝とご多幸を心よりお祈り申し上げます。

 実はこの口上は、2022年1月1日号の本欄からコピペし、「2023」だけ差し替えたものです(手抜き?)。
 オミクロン株は直近では亜系統の増加が懸念されているという変容はあるようですが、コロナ禍も満3年続き、マスク着用に象徴される「ニューノーマル」もすっかり根づきました。
 いずれにしても「感染しない・感染させない」のライフスタイルは当面続きそうですので、みなさまくれぐれもご自愛くださいますよう。

●本年は関東大震災から100年 通年でさらに防災への志を高く掲げます

 本号でも触れましたが、「災害周年」は一種の災害予知情報であり、かつ災害教訓のリマインダー(備忘通知)でもある。つまりは警告メッセージの定期便のようにも思えます。
 災害は忘れたころにやってくるのではなく、「忘れたからやってくる」――「災害周年」を備忘通知として見直したいと思います。

●「戦前ですかねぇ」――防災の立場で “前のめり”に反対!

 (本文から一部再掲)『ブラタモリ』のタモリさんが過日、テレビ朝日『徹子の部屋』で、黒柳徹子さんの「2023年はどんな年になると思いますか?」という問いに、「新しい戦前ですかね〜」と応じたそうで、そのやりとりがSNSなどで話題になりました。
 黒柳さんは「新しい戦前……」とだけ返したところで、次の場面に切り替わったそうです。

 政治的な話題は避けたいのですが、現政権の性急な防衛力(反撃能力)強化の動きや原発回帰の動きは、すなおに「防災」の立場で、反対せざるを得ないと思っています。
 万一、撃たれる前に敵基地を撃つ(敵基地攻撃)のも防衛だとすれば、真珠湾攻撃とどう違うのか。撃ったあとの敵の反撃は想定しているのか……戦争突入は必至ではないでしょうか。
 原発回帰も、討論会などでの賛成派は、あえてわが国特有の自然災害リスク(地震津波、噴火など)には触れないようにしているとしか思えません。

 報道によれば、安保戦略改定でこれからは有事への備えに重点が置かれ、自衛隊の災害派遣への対応力を縮小させるという動きがあるようです。「自衛隊の主たる任務は国土防衛、災害派遣は従たる任務」だから、です。

 また、政府がウクライナなど武力侵攻を受ける国に対し、殺傷能力がある防衛装備の無償提供を可能とする法整備を行う方向で検討に入ったとの報道も。
 わが国政府はだれを、なんのために、どのように守ろうとしているのか。

 まさに、本紙の黒柳さんの問いへは「どういう国をめざすか、わが国の“理念”が問われる年」と応じたいところです。

●忙中閑話

共同通信:報道自由度、日本は71位
https://jp.reuters.com/article/idJP2022050301000515
(2022.06.29.)
 国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」(RSF、本部パリ)は2022年の世界各国の報道自由度ランキングを発表した。対象180カ国・地域のうち、日本は昨年から四つ順位を下げて71位……

空間デザインエイト:世界の人口あたりの核シェルター普及率
https://takayakoumuten.co.jp/8877
(2022.10.16.)
 世界で多くの核シェルターは地下に設置され、収容人数が数千人規模のもの、一般家庭用の小型のものなど様々……スイス、イスラエルの人口あたりの核シェルター普及率は100%、ノルウェーは98%、アメリカは82%、ロシアは78%、イギリス67%、シンガポール54%、日本は0.02%……

   (M. T. 記)


防災100年えほんプロジェクト


■《Bosai Plus》 No. 296/2022年12月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●本号は、2022年の最終号です。

 暑い、暑いと言っていた今夏ものど元過ぎて、秋が顔をのぞかせたかと思ったらいきなりぐんと冷え込む昨今の朝晩。日めくりカレンダーも薄く軽くなり、いよいよ(たちまち)歳の瀬となりました。

 本号は本年の最終号となります。この1年、ご愛読・ご支援、ありがとうございました。新しい年もよろしくお願い申し上げます。
 なお、次号・2023年1月1日号(No. 297)は1月4日発行となります。ご了承ください。

●防災・災害文化の構築に向けて、共振

 本号巻頭企画「防災100年えほん」プロジェクトの提唱者である河田惠昭・人と防災未来センター長は、防災界第一線の研究者であることはもとより、防災省創設に向けた論客でもあります。

 河田氏は人防(ひとぼう)設立時(2002年4月)から20年、同センター長ですが、実はこの年、防災士制度も産声を上げました。2002年3月、日本防災士機構NPO法人設立総会が開催され、設立時会長として貝原俊民・元兵庫県知事(故人、阪神・淡路大震災時の知事)が就任しています。
 貝原氏は人防創設に奔走し、河田氏にセンター長を委嘱した人でもあります。

 防災士制度は「ボランティア元年」とされる阪神・淡路大震災の教訓から生まれた民間資格で、いまや防災士認証を得た防災士は全国で24万人(累計)を数えるに至っています。
 河田氏も防災士養成講座・講師として数多く登壇していて、防災士制度とも深いご縁があります。まさに河田氏の人防20年、そして防災士20年の歩みは、わが国の防災・災害文化の構築に向けて、共振してきたかのようでもあります。

●忙中閑話

 「原子力政策、大転換」へ動き 急(本紙は「反対!」です)――
 毎日新聞12月8日記事の翌日、朝日新聞に”続報”がありました。

毎日新聞:「経済産業省:原発建て替え推進案を大筋了承 60年超運転も 原子力政策、大転換」
https://news.yahoo.co.jp/articles/cba40087aaa3a501dcf49c526f8545bfcaa93b57
(2022.12.08.)
 経済産業省の有識者会合「原子力小委員会」は8日、今後の原子力政策の方向性を示した行動指針案を大筋で了承した。廃炉を決めた原発を対象とした次世代原発へのリプレース(建て替え)推進と……

朝日新聞:電事連、六ケ所村に1億円 寄付表明「協力自治体と共存共栄」
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15497388.html
(2022.12.09.)
 電気事業連合会は8日、青森県六ケ所村に1億円を寄付すると明らかにした。村内では、原発の使用済み核燃料の再処理工場を日本原燃が建設中。村の要請に応じたもので、地元企業の支援や人材確保に……

  (M. T. 記)



■《Bosai Plus》 No. 295/2022年12月01日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●すべての人にとってわかりやすいハザードマップとは

 本号巻頭企画では「誰ひとり取り残さない避難」につなげるハザードマップづくりの取組みを取り上げました。
 本年5月に、障害者が障害のない人と同じように情報を得られる社会をめざす「障害者情報アクセシビリティー・コミュニケーション施策推進法」が公布・施行されましたが、理想・理念を高く掲げる法の意義は大きいと思います。

 目標があれば、そのプロセスに試行錯誤はあっても、志をひとつに前進できます。今回取り上げた「ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会」も、ゴールは遠いように見えますが、防災・減災に向けた確かな一歩を踏み出したことは確かでしょう。

●ICTの活用がここまで来ている……

 今回の取材を通じて、改めてICT(情報通信技術)のめざましい進展を実感しました。
 とくに、障害者に対応したハザードマップの音声による伝達手法としての「デイジー(読み上げ音声付きデジタル図書)や「Uni-Voice」(スマホをかざして印刷物の内容を読み上げてくれるアプリ)、立体地図、触地図(道路、鉄道、河川などを浮き上がらせ、点字が組み込まれた地図)などが、視覚障害者向けのハザードマップづくりに実装化され、かなり実践的に試行されていることに驚きました。

 立体地図によるハザードマップは、3Dプリンターで比較的簡単に立体地図や触地図が作れるようになっているそうです。地理院地図から3Dプリンタ用データをダウンロードして、3Dプリンタで立体地図を作成することができ、また、国土地理院のサイトでダウンロードできる「画像から3Dプリンタ用ファイルを作成するプログラム」を用いて触地図を作製することもできるそうです。

 3Dハザードマップは当然、子どもから高齢者まで健常者にも”よりわかりやすく・伝わりやすい”ツールとなることは確かでしょう。

●それでも詰まるところ、「共助と地域の力」が不可欠

 ハザードマップのあるべき姿が「誰ひとり取り残さない避難」につながるとしても、有識者会議(検討会)は結語として、詰まるところ「共助と地域の力」が不可欠としています。
 もちろんその前提に、一人ひとりの「自助」があることは言うまでもないでしょう。

●忙中閑話

FLASH:ジャニーズ退社の滝沢氏 専門家は「『火山大使』になって」
https://smart-flash.jp/entame/208333/1
(2022.11.04.)
 ジャニーズ退社の滝沢氏に注目される「火山活動家」のキャリア――調査をともにした専門家は「『火山大使』になってくれたら」……

   (M. T. 記)


「S―uiPS(スイプス)」サンプル画像より


■《Bosai Plus》 No. 294/2022年11月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●「シングルボイス」と多彩な”ボイス”

 本号巻頭企画は、気象業務法に引っかかった最先端防災情報システムの話題。
 「S―uiPS(スイプス)」という画期的な都市浸水予測システムが開発され、研究チームが一般公開を宣言したところ、気象庁が気象業務法の「シングルボイス」に引っかかるということで、「待った」をかけたというもの。

 「シングルボイス」というのは、「気象庁以外の者」、つまり大学や研究機関も含め民間による予報業務は勝手にやってはダメ(許可が要る)、不特定多数の住民への提供は「慎重に検討すべき」というもの。
 研究チームは研究内容を関係省庁にも説明してきたそうですが、いざ社会実装へという段になっての「待った」は思わぬ事態だったそうです。

 「シングルボイス」が大事なことはわかりますが、ICT日進月歩の時代、すでに民間のテクノロジーでいろいろな防災情報が開発されていて、本紙もそうした新技術情報を追いかけてもいます。
 気象庁の許可が要る予報業務かどうか、気象庁にはガイドラインもあるようですが、なんとなくお役所が”お墨付き”を出し渋る感もなきにしもあらず……
 いずれにしても、防災・減災に向けて有益なテクノロジーであれば、さっさと許可を出してほしいところです。

●防災テクノロジーは国家機密?

 デジタル革命で軍事もデジタル化され、ドローンなど無人機での敵基地攻撃など、新たな倫理的な課題も議論になっています。

 いま国(国土交通省)はデジタルツイン技術を活用し、3D都市モデルをサイバー空間に再現できる「Project PLATEAU(プロジェクト・プラトー)」を主導して進めていますが、この技術成果は国家機密に価するのではないのかと、余計な心配がよぎります。
 今回取り上げた「S―uiPS」もそうですが、都市構造をスケルトン化する、さらに小紙も先の号で取り上げた衛星データ(SAR)で、液状化を中心とした地震被害箇所を抽出する地盤変動監視技術なども、実際にウクライナの一部区画で地表のどこが変化したか(砲撃被害)を抽出したようです。

 私たち防災は「災害犠牲者ゼロ」に向け「誰一人とり残さない(助けたい)」をモットーに日々努力しているわけですが、戦争はその真逆。今日のウクライナの状況には気が滅入ります。
 国家的正義という共同幻想のもとで人間の殺傷を戦果とし、営々と築き上げてきたコミュニティ、カルチャーをこなごなに破壊、無辜(むこ)の人びとを殺戮する、まち・地域コミュニティを破壊する――自然災害と闘う防災の真逆の非道が戦争です。
 防災テクノロジーが戦争の道具になりませんように。

●忙中閑話

朝日新聞:幼子2人を抱きかかえた熊本地震の夜 記者が防災士に挑戦
(2022.11.06.)
 九州・山口で近年、地震や豪雨など激しい災害が相次いでいる。長年暮らしている記者が危機感を持ち、防災士試験に挑んだ。防災士認証登録者は全国で約23万9千人(10月末現在)と広がりを見せる一方、課題もあるようだ…(中略)…機構はフォローアップのため、18年からメールマガジン配信を始めた。各地の防災士の活動状況や研修などの情報を提供する。だが23万人の防災士に対し、メルマガの受信者は5千人程度にとどまる。防災士でなくても登録できるという。まずはメルマガに登録し、問い合わせるところから始めたい。メルマガ登録は日本防災士機構のホームページからできる。
https://bousaisi.jp/information/magazine/top/

 朝日新聞、懇切丁寧です!
 僭越ながら日本防災士機構に代わって御礼申し上げます。

   (M. T. 記)


津波防災の日 スペシャルイベント

■《Bosai Plus》 No. 293/2022年11月01日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●大規模災害に備える大規模防災訓練 災害犠牲者ゼロをめざせ

 9月1日「防災の日」「防災週間」あたりから主な防災関連イベントが目白押しでしたが、11月5日「津波防災の日」「世界津波の日」で本年は一段落となりそうです。
 本号巻頭企画ではそうした防災イベントのうち、政府主催の「津波防災の日」スペシャルイベント(11月5日開催)、その前後に実施される地方公共団体等と連携した地震・津波防災訓練、10月1日に実施された大規模地震時医療活動訓練、そして9月1日実施の政府「総合防災訓練」「九都県市合同防災訓練」と、大規模災害に備える大規模防災訓練(実施済みを含む)を”改めて”取り上げました。
 
 毎年恒例となっているこうした訓練を本紙が”改めて”取り上げたのは、繰り返す訓練内容に新味はあるか、あるいは新味はなくても、マンネリ化はしていないか――振り返りの機会ともしたい意図があるからです。

 毎日新聞調査によると、「東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島の3県の沿岸市町村にある災害公営住宅(復興住宅)の約4割が、今後起こり得る最大級の津波で浸水にさらされる恐れがあることがわかった」とあります。

毎日新聞:被災3県の復興住宅、4割が津波で浸水の恐れ(2022.10.15.)

 こうした状況に鑑み、まさに津波防災訓練では避難がもっとも重要な課題になることでしょう。

 「津波防災の日」スペシャルイベントの講演会で基調講演予定の今村文彦・東北大学災害科学国際研究所所長はその演題を「津波防災を進化させる ―津波避難訓練等でタブーへも挑戦」とし、津波避難訓練は「誰のための何のための企画なのか」と問うています。ぜひ聴講したい講演会です。

●忙中閑話

 ローマ字のつづり方には主に「ヘボン式」と「訓令(くんれい)式」があって、両方がまじって使われていて戸惑うことがあります。
 日本のローマ字は米国の宣教医ジェームス・カーチス・ヘボン博士が作り明治時代に発行された和英辞典が「ヘボン式」のもとになったいっぽう、日本人が考えた表記をもとに、正式なつづり方として1937年に内閣訓令で示したのが「訓令式」だそう。

 小学校の国語では、内閣告示をふまえて訓令式を中心に学ぶようですが、パスポートの表記や道路標識など、社会生活では英語の発音に近いヘボン式が多く見られることから、現状を整理して混乱を避けるための考え方を示そうと、文化審議会が検討を始めているそうです。

 ヘボン式は「チ」を「chi」、「ツ」を「tsu」、「シ」を「shi」とするなど、英語の発音とつづりの関係に近い。訓令式だとタ行なら全部「t」で始まり、「ta」「ti」「tu」と規則性が高く、「シ」は「si」になります。

 ちなみに「防災士」「防災」の主な関係組織の英語表記は、下記のようになっています。
・日本防災士機構:Japan Bousaisi Organization
・日本防災士会:Nihon Bousaisi Kai
・防災士研修センター:Bousaishi Training Center
・防災プラス(本紙):Bosai Plus
 なお、内閣府(防災担当)のHPドメインは「bousai.go.jp」です。

   (M. T. 記)



■《Bosai Plus》 No. 292/2022年10月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●コロナ禍に打ち勝とう(!?) 防災ビッグイベント2題

 コロナ禍が収束に向かうのか、さらに第8波(直近の流行は第7波だそう)の”押し波”が寄せてくるか――今後ワクチン接種と感染を繰り返しながら、(変異がなければ)わが日本でも海外のような集団免疫に近づいていくと考えられてはいるそうです。
 マスク着用についても、TPO(死語ではないですね?)に応じて着けるか着けないか、微妙な「時機」になってきました。世の”空気感”に従うか従わないか……あなたはどうでしょうか。

 さて、第8波への不安をはらみつつ全国旅行支援(10月11日~)の話題が熱くなりつつあるなか、「危機管理産業展2022」が開催(10月5日~7日)されました。
 あいにくの雨の3日間で、5日の最高気温は23.4℃でしたが、後半の2日間はいずれも最高気温が14.1℃、12.8℃と、真冬のような低温。まさにビッグイベントの開催条件としては”逆境”の気象条件でしたが、コロナ禍にめげないわが国最大級の”リアル”展示会への期待もあいまって、お天気にもめげず、東京ビッグサイトの会場は熱気で盛り上がっていたようです。

 本号巻頭企画はその「危機管理産業展2022」リポートと、一転、同じ東京ビッグサイトを会場とする来年6月15日~18日の4日間開催予定の、5年に1度の消防防災のビッグな展示会「東京国際消防防災展2023」の予告としました。

●災害時トイレも原発も、”垂れ流し”から目をそむけない

 日本トイレ研究所の「トイレアーカイブ」の話題(P. 5)は、災害時のトイレ問題という、私たちがその問題の重要性は頭ではわかっていても「目をそむけがち」、でも「目をそむけてはいけない」”リアル”な大きな課題として取り上げました。

 この記事を起こしながら、最近現政権が前のめりになっている原発再稼働への動きを連想しました。原発は「トイレのないマンション」(放射性廃棄物の処分方策がない)と揶揄されるからです。
 いまの世の私たちの電力安定供給のために、放射性廃棄物の後始末を次世代――原発推進派、為政者自身の子ども、孫、子孫の代にまで責任転嫁しようとしていませんか? まさに”汚れもの”から目をそむけて易きに流していませんか?、と。

 ちなみに本紙は防災メディアとして原発の新増設・再稼働・運転延長に反対です。地震・噴火などの自然災害大国で、地震速報のたびにテレビ報道の「〇〇原発はいまのところ異状なし」という”安心情報”には”いまのところ”で引っかかります。

 報道などに見る論調は、推進派のみなさんは原発の経済性や技術的安全性を強調しすぎで、リスクにはあえて触れようとしない印象があります。
 ”日本の原発”を論じるときは、賛成派 vs. 反対派のディベート(異なる立場に分かれた議論=対論)ではなく、自然災害やテロ、技術的な瑕疵(かし)、人為ミスなどが引き起こす「国の存亡にかかわるリスク」、そして「子々孫々にまで影響をもたらす廃棄物処理」について、目先の電力安定供給、経済性、技術的安全性などとはまったく別ステージで熟議すべきではないでしょうか。

   (M. T. 記)


人と未来防災センター西館(Photo:Wikimedia)

■《Bosai Plus》 No. 291/2022年10月01日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●人と防災未来センターを”ハブ”に「ぼうさいこくたい2022」

 本号の巻頭企画は「阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター」の開設20周年を取り上げました。
 開設20周年の記念イベントは本年4月から始まっていますが、本年の「第7回防災推進国民大会(「ぼうさいこくたい2022」)」がHAT神戸(ハットこうべ)に立地する人と防災未来センターを”ハブ”として、この10月22日・23日に開催されるということで、併せてその広報も兼ねました。

 ちなみにHAT神戸は、阪神・淡路大震災復興事業として神戸市三宮地区を中心に開発された地区の名称で、西側のハーバーランドと対をなす東側の新都心となっています。「HAT」は「Happy Active Town」の略で公募で決定されました。

●「南海トラフ地震の本音の話」とは? DRI防災連続セミナー第3回で

 「人防」20周年記念事業として、これまでの活動成果を踏まえ、「迫り来る巨大災害で日本を終わらせないために! 人と防災未来センターの未来を探る」を全体テーマに防災専門家による連続セミナーが開催されています。
 全3回の連続セミナーは10月23日開催分が最終回=集大成となり、「ぼうさいこくたい2022」のセッションとして実施されますので、改めてご案内しておきます。センター長・河田惠昭先生がファシリテイタ―として登壇予定です。

DRI防災連続セミナー(第3回)「南海トラフ地震の本音の話をしましょう!」

●こぼれ話――人と防災未来センターと防災士制度のご縁

 ちょっと長くなりますが、本文で触れた河田惠昭先生との”独占インタビュー”でのこぼれ話を……

 「阪神・淡路大震災発災前年の1994年に神戸市は『二十世紀メモリアル博物館群』構想を発表。国家プロジェクトとして米国のスミソニアン博物館級の博物館を作ろうという壮大な計画で、全体を都市文明博物館群、科学技術文明博物館群、自然とくらしの文明博物館群の3群に分け、合計で10館程度整備するというもの。

 京都大学教授の梅棹忠夫さんや作家の小松左京さん、堺屋太一さんとかで委員会をつくって実現に向けて総事業費500億円で最終案までできていた。当時の兵庫県知事・貝原俊民さんは、阪神・淡路大震災が起こった後、政府に、防災を含めたこの施設をつくってほしいと提言したのですが、予算が大きすぎるということでダメになりました。

 しかし、この大震災の教訓をこれからの日本は活かさなければならないというので、140億円ほどを政府と兵庫県が50対50の分担として改めて構想されたのが人と防災未来センターです。大震災が貝原さんをして防災テーマの科学館に変えさせたのです。
 そのプロジェクトは当初、阪神・淡路大震災メモリアルセンターという仮称で、貝原さんの構想を受けて私(河田)が2000年に準備室長になりました。

 貝原さんは阪神・淡路大震災の教訓を発信しなければならないという思いを強く持っていました。そうしたなかで2001年7月に知事職を辞任された貝原さんは、02年3月に発足したばかりの日本防災士機構の初代会長に就かれています。
 私もそうした防災をめぐる人間関係のなかで防災士構想を聞き、防災士制度発足を機に防災士養成講座の講師を務めることになりました」……(文責:編集部)

 人と防災未来センター開設と防災士制度の発足がほぼ同時期という志の一致――”21世紀 防災元年”とも言えるかと思います。

   (M. T. 記)


石巻市震災遺構 門脇小学校と大川小学校

■《Bosai Plus》 No. 290/2022年09月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●「災害を語り継ぐ」――語り部が呼び起こす防災への志

 本紙前々号(8月15日号/No. 288)の巻頭企画「災害伝承施設への旅」、前号(9月1日号/No. 289=創刊12年号)の「関東大震災から99年」に続く災害教訓シリーズの3回目として、本号は「語り部」を取り上げました。

 私たちが災害教訓を学ぶ素材はいろいろありますが、一般的には有識者・専門家による災害調査委員会が個別災害についてとりまとめた報告書に始まり、地域に伝わる伝承・口伝、記念碑であったり、各種メディアによる取材記事であったり、最近ではデジタルアーカイブだったりします。

 ただ、こうした教訓は一般化・抽象化される傾向にありますが、語り部の方がたが語る災害教訓となると、それは”究極の”個人的・個別的な体験の集約から発信されるもので、本来、一般化・抽象化にはそぐわないのですが、そのリアルな個別状況・環境は、逆に災害の不条理性そのものを端的に示すものでもあり、その意味で、普遍的な教訓として昇華し得るのかもしれません。

●”究極の”個人的被災体験だからこそ、災害不条理性を実感

 例えば、本文で紹介したWEB防災情報新聞の「ユース語り部」記事中には宮城県石巻市に住んでいた当時高校1年生の男性(語り部)が、「津波で家ごと流されて、倒壊した家屋から祖母と2人で冷蔵庫の中にあったヨーグルトやコーラ、牛乳、水を口にしながら寒さに耐えて9日ぶりに救出された時の状況を話した」とあります。

 その話題は大震災当時、”奇跡の生還”としてメディアをにぎわしたのを記憶していますが、聞き手にとっては、究極のサバイバルすぎて災害教訓からはかけ離れているように思えます。
 しかし、それを当事者の”彼”が話すことで、災害の不条理性が直(ジカ)に伝わる気もします(筆者はこの記事の”聞き語り”にもかかわらず……)。

 奇跡の生還を果たした高1生がいま20代半ばの青年語り部としてその大震災からの生還体験を語る……まさに、災害不条理性の教訓そのものを示しているように思えます。

●忙中閑話

ウェザーニュース:南大西洋でM6.5の地震 津波被害の心配なし
(2022.09.04.)
 日本時間の9月4日(日)18時42分頃、海外で地震があった。震源地は南大西洋(大西洋中央海嶺中部)で、地震の規模はM6.9と推定される。各国の機関からの情報ではこの地震による津波被害の心配はない……

   (M. T. 記)


「関東大震災映像デジタルアーカイブ/関東大震災[返還映画版]より上野山下の街頭を埋めた避難民

■《Bosai Plus》第289号・2022年09月01日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●本紙は創刊12年を迎えました 持続は力、ゴールを見据えて……

 本号で、本紙は創刊12年となります。
 読者のみなさまのご愛読・ご支援に心より感謝申し上げます。
 今後とも末永くよろしくお願い申し上げます。

●関東大震災から99年 その最悪の教訓とは……

 本号巻頭企画は、関東大震災から99年、100年一歩手前でのその教訓の振り返りです。
 
 「災害教訓の継承」専門調査会報告書は、関東大震災時には朝鮮人が武装蜂起する、あるいは放火するといった流言を背景に、住民の自警団や軍隊、警察の一部による殺傷事件が生じました。
 報告書は、「流言は、断片的に得られる情報を背景に、流言現象に一般的に見られる『意味づけの暴走』として生じたとし、軍隊や警察も流言に巻き込まれ、また増幅した」としています。

 その一例として、演出家・俳優として知られた千田是也(1904―1994年)はあるインタビューで「(発災時)朝鮮人が襲ってくるからと夜警に引っ張り出されて東京千駄ヶ谷を歩いていたら自警団に遭遇し、朝鮮人と間違えられて『歴代天皇名を言え』と詰め寄られた経験から自らのペンネームを千田(千駄ヶ谷で)是也(コリヤ)にした」というエピソードを語っています。
 見回りグループ同士が互いに疑心暗鬼にとらわれるという、まさに流言飛語を風刺画に描いたようなシーンが各地で展開したのでした。

 報告書は「軍隊や警察、新聞も一時は流言の伝達に寄与し、混乱を増幅した。軍、官は事態の把握後に流言取締りに転じた。火災による爆発や火災の延焼、飛び火、井戸水や池水の濁りなど震災の一部を、爆弾投擲、放火、投毒などのテロ行為によるものと誤認したことが流言の一原因。空き巣や略奪といった犯罪の抑止のためには軍隊、警察、民間の警備は有効ではあったが、流言と結びついたため、かえって人命の損失を招いた」としています。

 そしてその教訓として、「過去の反省と民族差別の解消の努力が必要なのは改めて確認しておく。その上で、流言の発生、そして自然災害とテロの混同が現在も生じ得る事態であることを認識する必要がある。不意の爆発や異臭など災害時に起こり得ることの正確な理解に努め、また、テロの現場で犯人を捕捉することの困難や個人的報復の禁止といった常識を大切にして冷静、な犯罪抑止活動に努めるべきである」と。

●流言は山火事のよう……火種ひとつから山が一気に燃え上がる

 流言はよく乾燥した状況での山火事に例えられます。乾燥状況が非常時の「不安状況」であり、「流言」という小さな火種ひとつから山(社会全体)が一気に燃え上がるのです。
 確かな情報があれば鎮火できるのですが、非常時には情報と流言の判別が困難となります。現代は、関東大震災が起こった1923年の時代環境とは大きく異なり、また、インターネットを介したSNSやツイッター、ライン(LINE)などの登場でむしろ情報過多ですが、それに比例して流言も拡散(いまで言う“リツイート”)しやすくなっているのではないでしょうか。

 海外では非常事態での民衆の暴動による略奪・殺傷事例が少なくありません。日本とは文化が異なると簡単には言えない事例が、関東大震災ではありました。
 それは災害大国日本の最悪事例であり、かつ最大の教訓なのかもしれません。これから起こり得る大規模災害、さらにはリアルな国際関係の緊張下において、心して学ぶべき教訓です。

●忙中閑話

(本号P. 4で取り上げましたが……)
カクヤス:非常持ち出し袋にお酒も!派が約5割。その理由とは?
(2022.08.25.)
 なんでも酒やカクヤス調べ――災害への備えをしている人80.9%。実施してる防災対策第1位「水や食料、電池、生活用品の備蓄」、第2位「非常持ち出し袋の用意」。「非常持ち出し袋にお酒を入れたい?」Yes45.2%、その理由は?……

   (M. T. 記)


■《Bosai Plus》第288号・2022年08月15日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●本紙次号は創刊12周年号 本号はその”メモリアル”にも

 今回の特別企画は、東日本大震災の災害教訓を知り・学び・新たな災害に備えるための施設=災害教訓伝承施設のご案内です。
 宮城県に今年10月1日オープン予定の「南三陸311メモリアル」を機に、岩手・宮城・福島の被災3県が運営する震災伝承施設を中心に取り上げました。

 時系列的には、2019年9月開館の岩手県「東日本大震災津波伝承館」、2020年9月開館の福島県「東日本大震災・原子力災害伝承館」、そして2021年6月開館の宮城県「みやぎ東日本大震災津波伝承館」となります。
 直近3年間で3館開館ですから、東日本大震災からほぼ10年、”いっせい開館”と言ってもいいかもしれません。
 したがって……またコロナ禍もあって(言い訳がましい)、当編集部はこの3館のいずれの施設も訪れていません。”アームチェア・トラベラー”としてのリポートであることをご了承ください。

 本紙次号は創刊12周年号になります。本紙創刊(9月1日=防災の日)のおよそ7カ月後に東日本大震災が起こりましたので、本号はその”メモリアル”になったのかもしれません。

●過去記事ですが「保存版」でもあります

 だからというわけではありませんが、とくに東日本大震災後の小紙編集企画については、多少の自負とともに、読者のみなさまにも広く知らせたいと願う記事企画が少なくありません。
 その一例として本号では、小紙2017年6月15日号(No. 164)特別企画にもリンクを貼りました。こちらもあわせて保存版としてご参照いただければ幸いです。

《Bosai Plus》:ワン・クリック先の震災アーカイブ 53サイト

●「ClipBoard」より

朝日新聞:鳥居倒壊、防ぐには 建築基準、自治体まかせ 安全確保へ「全国統一を」
(2022.08.01.)
 大きな地震で神社の鳥居が倒壊する事例が相次いでいる。耐震性の「担保」となるのが建築基準法だが、鳥居については明文化されておらず、法を適用するかどうかの判断は自治体に委ねられる……

   (M. T. 記)


猛暑の夏の空(ACフォト0401)2332097_m

■《Bosai Plus》第287号・2022年08月01日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●脱炭素社会、生物多様性保全に「哲学・理念」の裏づけを

 本紙は3カ月前の5月1日号(No. 281)で、国連環境計画(UNEP)が公表した「Sand and Sustainability(砂と持続可能性)〜危機を回避するための10の戦略的提言〜」報告を紹介、人類は「砂不足」の危機に直面していると、巷間伝えられる”地球の砂漠化”とは真逆の警告を発していることを取り上げました。
 同報告は、「砂」は17の持続可能な開発目標(SDGs)すべてに直接的または間接的にリンクされていて、その戦略的重要性は大きいとされます。

 砂は、実は水に次いで最も人間に利用される天然資源で、その消費量は年間500億トンに及んでいますが、砂の浚渫(しゅんせつ)、調達、使用および管理はほとんど管理されておらず、多くの環境的・社会的影響をもたらしているのに、ほとんど見過ごされているのだそうです。
 このままでは河川や海岸線を破壊し、小さな島々を消滅させる可能性もあるとしています。

 本号では、わが国で最近にわかに政策課題となった脱炭素社会、生物多様性保全の問題を取り上げましたが、長い目では防災とも深くかかわるこうした地球規模の課題の先取りは、どうもわが国の為政者は苦手のようです(国民が苦手?)。
 日本が国際社会に向けて率先して課題提起するということではなく、一種の”外圧”として取り組まざるを得ない……という印象があります。

 わが国が”外圧”で取り組まざるを得なくなった政策課題はいくつもありますが、災害が多発するわが国で、防災については、被災経験が世界の防災・減災に貢献しているという事実はあるのでしょう。
 しかし、世界をリードし得る「防災哲学・防災理念」あるいは「防災文化」はあるのでしょうか(「核禁止」だけは別にして)。

 政治的な話題は避けたいと思いますが、常々わが国の為政者にはもう少し日本をどんな国にしたいのか、いろいろな分野で自らの「哲学・理念」を語ってもらいたいと思います。
 そうすれば、少なくとも現下の政治家と宗教団体の関係のあり方など、票集めが優先してしまうなどあり得ないと思うのですが。

●今回は”素振りとしての空振り” トランスサイエンスの課題はくすぶる

 7月24日夜の気象庁発表・桜島噴火「レベル5(避難)」情報が唐突に思われ、第1報に反射的に1914桜島噴火を想起しました。
 もともと火山噴火が唐突に起こることは、2014年御嶽山噴火での記憶も生々しく経験済みでしたが、いきなりの桜島噴火情報「レベル5」に最悪事態をイメージしてしまいました。

 3日後には「レベル3」に引き下げられ、素人考えですがこれは一種の”空振り”、あるいは緊急地震速報で言う”過大推定”(誤報)だったのだろうと思っています。
 気象庁批判ではなく、むずかしい判断だったろうという意味での、”素振りとしての空振り”です。
 トランスサイエンス――科学と社会のリスク・コミュニケーションのむずかしさに、改めて思い至った次第です。

●忙中閑話

FOOTBALL ZONE:【動画】「Sports Center」公式インスタグラムが公開、J3リーグで“衝撃の光景”…「鹿児島対相模原」のキックオフ直前に起きた噴火シーン(7月24日桜島噴火「レベル5」)

産経新聞:コスト削減で500駅から〝時計〟撤去 JR東日本、地元困惑「いい得ぬ喪失感」
(2022.07.29)
 駅の改札口やホームに設置されている時計が姿を消しつつある。JR東日本は今後10年間で約500駅を対象に時計を撤去し、コスト削減を進める計画だ……

 私も最近、よく利用するJR駅で「指針で時刻を示すアナログ式の時計」をほとんど見かけなくなっていることに気づきました。
 駅にアナログ式時計がない! 意外と不便ですよ~

   (M. T. 記)


橋梁のメンテナンス工事の様子(Photo:AC)

■《Bosai Plus》第286号・2022年07月15日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●「コンクリートから人へ」⇒「人からコンクリートへ」
 ⇒「人のためのコンクリート」へ

 7月初めに発生したauの携帯電話などの大規模な通信障害も防災に大きく関わる通信インフラの不具合でしたが、本号特別企画は、いわゆるハード面のインフラ老朽化の問題を取り上げました。

 わが国で高度経済成長が始まった1960年代にハード面のインフラは、ここぞとばかり整備されていくわけですが、生活を豊かにするいっぽう、”土建国家”との揶揄や公共事業の”どんぶり勘定”などの負の側面もさかんに言われました。
 それから半世紀を経て、その老朽化の問題が浮上し始めたころ政権交代があって、新政権は「コンクリートから人へ」という美しいキャッチフレーズを打ち出します。
 その理念は政治的には”土建国家”の対極に置かれたものではありましたがインフラの老朽化への懸念を抱えつつも、財政難の背景があったことも否めないと思います。

 そして再び政権交代があって、東日本大震災後の大規模災害対策と経済浮揚対策の柱のひとつとして「国土強靭化」が打ち出され、インフラ老朽化対策が本格化するという流れになっています(本紙流解説です)。

 いずれにしてもインフラ老朽化対策は防災・減災とも直結します。その有り様は、わが国の成熟国家としての負の側面、少子高齢化=いわゆる”人口オーナス”(オーナス:onusは「重荷・負担」との意味)とも呼応していて――本紙で再掲した2018年土木学会の大規模災害被害予測ともシンクロしているように思えます。

 インフラリスクについて本号では”さわり”程度にしか触れられませんでしたが、難題であることは間違いないと思います。

●え?! 世界もか?

 国連が7月11日に発表した推計では、世界人口の年間増加率が、統計を遡れる1950年以降で初めて1%を割り込み最低となったそうです。人口規模が世界最大の中国も長年の「一人っ子政策」などが響いて2022年から人口減に転じ、23年にはインドの人口が世界最多になると。人類史でも特異な20世紀の経済成長を支えてきた人口爆発は近く終わりを迎えるということです。

日本経済新聞:世界の人口増1%割れ 戦後成長の支え、転機に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM122RH0S2A710C2000000/?n_cid=NMAIL007_20220713_A
(2022.07.12.)
 世界人口の年間増加率が、統計を遡れる1950年以降で初めて1%を割り込み最低となったことが、国連が11日に発表した推計で明らかになった……

●新着情報

朝日新聞:東電旧経営陣、13兆円賠償命令 津波対策先送り「許されぬ」 東京地裁判決 原発事故、株主訴訟
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15355670.html
(2022.07.14.)
 東京電力福島第一原発事故をめぐり、東電の株主48人が旧経営陣5人に対し、「津波対策を怠り、会社に巨額の損害を与えた」として22兆円を東電に賠償するよう求めた株主代表訴訟の判決が東京地裁で……

朝日新聞:御嶽噴火「国の判断違法」 警戒レベル「気象庁の検討不十分」 長野地裁支部、遺族らの請求は棄却
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15355582.html
(2022.07.14.)
 死者・行方不明者計63人を出した2014年9月の御嶽山(長野・岐阜県境)の噴火災害をめぐり、遺族ら32人が国と長野県に計3億7600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が13日、長野地裁松本支部で……

   (M. T. 記)


image_復興庁資料より「福島県外避難者に係る所在確認結果」(2022年6月14日公表より、一部トリミング)

■《Bosai Plus》第285号・2022年07月01日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●原発事故避難者訴訟の最高裁判断 安全神話パラレルワールドの観

 本号では福島第1原発事故による避難者訴訟での司法判断に関連して、「原発事故を起こした責任は国にもあるのか」という大きな問題を契機に、災害・事故訴訟の”不合理性(あるいは非合理性?)”について考えてみました。
 本文でも触れましたが、6月17日の最高裁の司法判断の是非を論じることは本紙の手に余りますが、”安全・安心社会をめざす”、”災害犠牲者ゼロをめざす”本紙としてその視点から、今回の司法判断に疑問を呈さざるを得ません。

 原発事故(災害)リスクに関する判断について裁判所が判断するのは、過酷事故が発生する具体的危険があるか否かであり、原発政策の妥当性を判断するわけではないことは、百歩譲って理解できます。
 それでも、巨大地震・津波が原発に及ぼす影響について、裁判官に科学的妥当性が判断できるのでしょうか。想定された規模を超えた自然事象を、どのレベルから「想定外」と判定できるのか。

 裁判官が判断するのは、あくまで憲法に照らして、原発事故により人格権侵害の具体的危険があったかどうか、そして事故による被害の規模や住民への影響の大きさを判定することではないのか……

 本文で触れましたが、本紙は原発事故発生からまだひと月半後という2011年5月1日号で、当時の原子力安全・保安院ホームページに更新されずに残っていた広報「原子力災害発生時の住民としての対応」を引用し、今回もそれを再掲しました。
 そこから読み取れることはまさに「安全神話」にほかなりません。万々が一にも過酷事故などは起こらない(万一ではなく”万々が一”、ママ)という前提で、その一文は事故後も、安全神話の遺構のごとく、しばし残されていたのです。

 国(原子力安全・保安院)は当時、安全神話によって立って「国策民営」として原発稼働を推進した――そしていま最高裁は、その安全神話は”当時は正しかった”と、パラレルワールド的に裁定したとしか思えないのですが……

●NZの「ACC(無過失補償)」は「助かる防災」

 本紙は前号で「助ける・助けられる防災」から「助かる防災」へという課題提起をしましたが、本号で取り上げたニュージーランドの「ACC(無過失補償)」は、まさに「助かる防災」の先進事例と言えます。

 「災害資本主義」が必然的に災害リスクを生み出すとしたら、それは「助ける・助けられる防災」に帰結しそう(公助の限界)――でも「助かる防災」という第3の道(共助のイノベーション)があるとしたら、被災者救済も災害・事故検証も、訴訟という手段ではなく「無過失補償」への道が開けるのではないか。
 漠然としていますが、防災の本質的なあり方を考える興味深い視点だと思っています。

●忙中閑話

国土交通省:2022年度の宇宙無人建設革新技術開発を開始~近い将来の月面での建設を目指し、地上の建設技術を高度化~
https://www.mlit.go.jp/report/press/sogo15_hh_000326.html
(2022.06.22.)
 「宇宙開発利用加速化戦略プログラム」(スターダストプログラム)の一環として、2021年7月に決定された「宇宙無人建設革新技術開発推進事業」(国交省及び文科省連携)の技術研究開発の実施対象『継続・移行分』(計10 件)を決定……

読売新聞:福島のUFO研究所、「極めて可能性が高い」画像公開…合成の可能性は解析ソフトで排除
https://www.yomiuri.co.jp/science/20220625-OYT1T50202/
(2022.06.26.)
 未確認飛行物体(UFO)の謎を探ろうと昨年6月に開所した福島市の「国際未確認飛行物体研究所(通称・UFO研究所)」が1年間の調査結果を発表。寄せられた目撃情報は452件。「極めてUFOの可能性が高い」とされる写真・動画4点を……

   (M. T. 記)


日本全国の「災害リスクエリアの重ね合わせ図」(国土交通省資料より)

■《Bosai Plus》第284号・2022年06月15日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●「助ける・助けられる」から『助かる』防災へ

 本号特別企画は、わが国の国民運動としての防災・減災努力にもかかわらず、災害リスクエリアでの人口が増えていくという”日本の原罪”的な課題と、その解決に向けた可能性について考えてみました。

 つまり、国土交通省が公表した「中長期の自然災害リスクに関する分析結果」と、その住民による活用――「災害リスクについて自ら調べ、災害時の具体的な行動についてさらに考えるきっかけとする、また、中長期的な視点でより災害リスクの低い土地利用を集落などで話しあう際の参考資料としての活用」です。
 そして、住民の活用について、市民運動としての地域防災活動に「助かる防災」という概念の伸展の可能性を、2つの論考の紹介で試みました。

 いっぽう、国土交通省はこの分析結果の活用について、自治体、企業、住民による活用例を示唆しましたが、(本紙の知る限り)国自身の活用事例は示していません。国としてはどう対応しようとしているのでしょう。

 前々号で「災害資本主義」あるいは「防災社会主義」という議論を呼びそうな新語で問題提起をしました。
 もともと無秩序な市街化の拡大を抑制するために宅地開発を規制していた「市街化調整区域」が、規制緩和(経済成長の特効薬?)によって災害リスクエリアでの宅地開発をもたらす――まさに資本主義が災害リスク要因を必然的に生み出しているとしたら、国策としては「社会的共有資本」の拡充で対抗することになるのではないか。
 現政権は「新しい資本主義」を掲げましたが、その志はだいぶ後退したようでもあります。

●「男女共同参画」の「もはや昭和の時代の想定は通用しない」

 ウクライナ問題はもちろん、それに先立つトランプ危機に見られるように、民主主義の危機の問題も、このところ急浮上しているように思います。
 このコラムでは政治的な発言は控えたいのですが、民主的な選挙で選択されたはずの政権は、外(野党としておきましょうか)からの批判に対してハリネズミのように抵抗するのはいかがなものでしょう。

 本来、批判に対しては是々非々で対応すべきで、女性蔑視的な言動をする議員に対して、選挙が近いことで失点を恐れてか、曖昧な態度に終始するのはいかがなものか。また、”党議拘束”は民主主義と矛盾していないか、疑問に思うことしばしばです。

 男女共同参画について「白書」、「骨太の方針」、「防災・復興ガイドライン フォローアップ」と続けざまに政府系報告書の公開がありました。
 内閣府男女共同参画局は、政府の機関としては、”ずけずけと”モノを言うので、好感が持てます。もとより、小紙もメディアとして、批判の真意はよりいい社会に向けた提言・諫言のつもりでもあるからです。
 「女性版骨太の方針2022」の「もはや昭和の時代の想定は通用しない」に本紙としても快哉を叫ぶ思いです。

●忙中閑話

朝日新聞:女性と戦争「性暴力は戦争の武器・戦略」 テクノロジー化した戦争では男女の体力差は……柳原伸洋さん、秋林こずえさん、大塚英志さん(耕論)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15319318.html
(2022.06.09.)
 嘆き悲しむ母親、銃を持つ女性兵士――。ウクライナ侵攻下で語られる女性の姿に、私たちは感情を揺さぶられる。これは一人ひとりの実像なのか。戦争がつくりだす「女」なのか……

NHKニュース:藤田医科大学 全学生が「防災士」講習受講へ 愛知
https://www3.nhk.or.jp/tokai-news/20220604/3000022909.html
(2022.06.04.)
 愛知県豊明市の藤田医科大学は、地域防災のリーダーとなる「防災士」の講習をすべての学生が受講するカリキュラムに組み込み防災士として養成していく。大学では、災害時に地域に貢献できる人材を……

   (M. T. 記)


大都市・東京を襲う直下地震にどう備えるか

■《Bosai Plus》第283号・2022年06月01日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●被害想定の死者数への「想像力」と「災害犠牲者ゼロ」

 本号特別企画は東京都の首都直下地震の被害想定(P. 1-2)と、青森県の地震・津波被害想定(P. 3)の2本立てとしました。
 また「話題を追って 1」(P. 4)では出水期を迎えての防災気象情報の「改善」の話題。関連して「話題を追って 2」(P. 5)で、大雨や生活音のなかで聞き取りにくいとあまり評判のよくない防災行政無線の「聞き取り改善技術」の話題。

 「BOSAI TIDBITS」(P. 6)では新刊『宅地の防災学』と土砂災害対策の斬新な手法・アイデアの提唱、『宅地の未災学』を紹介しています。
 いずれも防災メディアとしては見逃せない、聞き逃せない新着情報として取り上げましたので、ぜひ読者のみなさまにもご一読いただきたいと思います。

 このように本紙は毎号、防災にかかわる読者のみなさまと有効な情報を共有することをめざして発行を続けていますが、たまたま本号・首都直下地震被害想定の記事末尾で、本紙創刊号(2010年9月1日号)で取り上げた14年前(2008年)に530万人の参加者を動員した米国発地震防災訓練「シェイクアウト」の話題を再掲しました(下記リンクのP.6。当時の手づくり感満載の紙面でご覧ください)。
《Bosai Plus》創刊号(P. 6):「ザ・グレート・シェイクアウト」

 この米国発「シェイクアウト」を創刊号で取り上げたのは、被害想定の死者数に危機感をかきたてられたという米国の主催者(創始者)の心意気とその成果・実績に感銘を受けたからです。日本の防災の日(9月1日)防災訓練を参考にしたとも聞いています。

 彼らにとっては想定死者数が1000人を超える、いえ、100人を超えても”驚愕に価する自然災害”なのだ、もしや、いのちの重さが違うのでは、と。
 同ホームページによると2022年の「シェイクアウト」参加登録者(予定含む)は世界で3千万人(日本を含む)にのぼっています。
Great ShakeOut
 本紙のモットー「災害犠牲者ゼロをめざす」の原点は、ここにあります。

●忙中閑話

J-CAST:「シン・ウルトラマン」に登場 「防災庁」公認防災セット(防災士監修)
(2022.05.29.)
劇中に登場する架空の省庁である防災庁が監修したというコンセプトのもと開発された防災セット。地震だけではなくゲリラ豪雨・台風などの災害時に役立つアイテムが約20点も入ったオリジナル商品に……

朝日新聞:女性活躍へ「昭和の想定通用しない」 「女性版骨太の方針」案
(2022.05.28.)
 政府は27日、女性活躍や男女共同参画分野で重点的に取り組む内容をまとめた「女性版骨太の方針2022」の原案を示した。女性の人生と家族の姿は多様化しているとし、「もはや昭和の時代の想定は通用しない」と指摘……

時事通信:防災部局「女性ゼロ」ずらり 市区町村で6割 内閣府調査
(2022.05.27.)
 防災・危機管理部局に配置された女性職員の割合は都道府県で平均11.2%、市区町村は同9.9%にとどまり、61.9%の市区町村では1人もいなかった。国は「女性の視点」の活用が進む自治体の事例を調べて……

(本紙近刊号で「防災の男女共同参画」を改めて取り上げる予定です)

   (M. T. 記)


東日本大震災で防潮堤を越えて仙台空港に押し寄せる津波(岩沼市/宮城県資料より)

■《Bosai Plus》第282号・2022年05月15日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●「災害資本主義」から「社会的共通資本の防災社会主義」へ

 前号のこの欄で「保育所・幼稚園の4割が浸水想定区域に立地」という新聞記事に触発されて、「”防災社会-主義”、あるいは”社会-防災主義”を論じたい」と書きました。
 本紙も何度か指摘してきましたが、市場経済の論理から安い土地・危険な土地に福祉施設が追いやられる現実があり、また、無秩序な合理性の追求によって浸水想定地域で人口が増えている現実もあります。

 一般的に「災害」といえば、私たちが想定できなかった原因や、想定できてもそれを超える外力で起こった自然事象、加えて人為的な経過によってもたらされる人的・物的損害でした。
 英語の「disaster(災害)」の語源は”dis「離れて」aster「星」”で、占星術で「良い星から離れることで生じる悪い事柄」と解釈され「大災害」を意味するようになったとあるように、「災害」は人知の及ばない「天災」だったわけです。

 ところが本文で触れたように、阪神・淡路大震災も東日本大震災(原発事故を含めて)も、文明社会だからこその、言い換えれば資本主義の内から必然的に生じてきた矛盾や社会の脆弱性が引き起こした事象のように思えます。
 かの寺田寅彦は90年ほども前に「文明が進むほど災害も激烈となる」と喝破していましたが、資本主義が内在する災害被害増幅作用を察知していたのでしょう。

 資本主義のみならず民主主義、個人主義、自由主義など、これまで私たちの”譲れない理念”とされてきた価値観に揺らぎがみられるいま、防災においては今後、「災害資本主義」という刺激的な”アンチ防災”用語が浮上しそうな予感もあります。

 現政権は「新しい資本主義」を打ち出していますが、どこまで資本主義の”見直し”に踏み込むおつもりか――いっぽう、これに呼応するように、故・宇沢弘文の「社会的共通資本」が再評価されつつあります。
 宇沢は鳥取県米子市出身ですが、わたくしごとながら、個人的に縁のある土地でして(それだけで)応援したい気持ちではあります。
 
●忙中閑話

朝日新聞:旧信越線トンネルを避難所に 浅間山の噴火や武力攻撃を想定
(2022.05.05.)
 長野県軽井沢町は浅間山の噴火や他国による武力攻撃事態を想定し、町民や観光客が一時的に緊急避難できる施設を指定。長野、群馬県境にある旧信越線のトンネルのほかホテルや美術館、大学の保養所など……

日テレ:女性初の「地震津波監視課長」就任 津波警報発表など重責を担うキーマンを直撃
(2022.05.06.)
 まさに24時間365日地震を監視し、津波警報などを出す気象庁の現場トップ「地震津波監視課長」に史上初めて女性が就任。地震津波監視課長は気象庁に近い「危機管理宿舎」で生活し……

   (M. T. 記)


静岡県社会福祉協議会による災害派遣福祉チーム(静岡DWAT)

■《Bosai Plus》第281号・2022年05月01日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●DWAT/DCATの深化で拓ける「福祉防災」の新たな展望

 「福祉支援防災 その3」として本号は「災害派遣福祉チーム(DWAT/DCAT)」を取り上げました。厚生労働省が本年度に、災害時の要援護者を支援する災害派遣福祉チームの取組みを集約する「災害福祉支援ネットワーク中央センター」を創設するという方針を受けた記事企画です。

 災害派遣福祉チームは基本的には専門家で構成されるチームですが、その活動を周りで支えるのは地域防災のいろいろな主体になると思います。その意味でも、福祉と防災のシームレスな連携がますます求められることでしょう。

 ただ、福祉と防災の連携について、立木茂雄先生が「”連携”は言うは易しだけれども、連携は結果であり、連携のための手段・方法こそ重要」と話されていました。
 国による各DWAT/DCATの管制塔となる「中央センター」創設で、福祉・防災連携の新たな展望が拓けることに期待したいと思います。

●”防災社会 主義”、あるいは”社会 防災主義”を論じたい

 読売新聞の記事に「保育所・幼稚園の4割が浸水想定区域に立地」という記事がありました。

読売新聞:保育所・幼稚園の4割、浸水想定区域に
(2022.04.18.)
 津波や大雨などで浸水の危険がある浸水想定区域に立地する保育所や幼稚園などが、全国主要都市で約4割に上ることが読売新聞の調査でわかった。同区域にある施設の2割弱は避難確保計画を作成しておらず……

 本紙はこれまで何度となく、浸水想定区域で人口が増えていることを指摘してきました。国(国土交通省)はハザードエリアから住宅などの移転を誘導する政策を打ち出していますが、わが国では多くの都市部が水災害ハザードエリア内にあることから、居住区域をハザードエリアから完全に除外することは困難なようです。

 しかしそうだとしても、福祉施設や学校などの立地は、市場原理にまかせられないはず。水害対策とまちづくりが一体となった取組みを最優先すべきでしょう。

 近年、いろいろな分野で資本主義の限界がささやかれます。現政権は「新しい資本主義」を掲げますが、防災分野での「新しい資本主義」はどうなるのでしょうか。
 もしかして防災分野では、”防災社会 主義”、あるいは”社会 防災主義”なるイデオロギーをもって災害対策を進めたほうがいいのでは……と考える今日この頃です。
 近刊号で、マジにこのことを取り上げてみたいとも思っています。

●忙中閑話

読売新聞:日本の地下駅300超、有事の避難施設に指定…地上から浅くミサイルには弱く
(2022.04.21.)
 ロシアによる軍事侵攻後、ウクライナの市民がシェルターとして利用している地下駅舎。日本でも、外国からの武力攻撃を念頭に、自治体による地下駅舎の避難施設指定が進む。昨年3月まではゼロだったが、この1年で300を超えるまでに……

朝日新聞:天声人語
(2022.04.27.)
 (要約)飛脚の時代には、馬が不足して運送に支障が出るのを「馬支(うまづかえ)」、河川が増水して渡れなくなるのを「川支(かわづかえ)」と言った。ネット時代にも、様々な「つかえ」はなくならない(ビデオ店や書店が消えて)……

   (M. T. 記)


「鳥取県版-DCMの流れ」(鳥取県中部地震生活復興支援リーフレットより)

■《Bosai Plus》第280号・2022年04月15日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●「福祉防災 その2」は、「災害ケースマネジメント(DCM)」

 本号巻頭企画は、「福祉防災 -その2- 災害ケースマネジメント」です。諸事情により、3月1日号の第1弾「福祉防災 -その1- 個別避難計画」からやや間が空いたことをお詫びいたします。

 「災害ケースマネジメント」(DCM:Disaster Case Management)は、米国の被災者支援プログラムを参考に日本が導入したものですが、このように米国をはじめ海外の災害対策・防災の仕組み、災害との向き合い方をわが国が参考にする例は少なくありません。

 近年では米国発の「シェイクアウト(ShakeOut)」(地震防災訓練)や「防災タイムライン(防災行動計画)」が、また英国発の「BCP」(事業継続計画)がわが国でも導入され、いまや広く普及しています。
 ほかにもいろいろありますが、どこのだれの発案であっても、災害大国・日本としては、防災・減災に有効なものならばどんどん取り入れるべきでしょう。

●「ICS」の”インシデント”の本当の意味

 やや専門的になりますが、災害・防災の専門家のあいだで知られるICS(インシデント・コマンド・システム)も米国で開発されたシステムで、あらゆる”インシデント”について「標準化された管理システム」であたることを言います。

 英語のインシデントの意味は「事件、出来事」で「重大な事件に至る危険のあった小事件」というニュアンスで用いられるそうですが、ICSを開発したFEMA(米国連邦危機管理庁)はインシデントを「生命・財産・環境を守ることが必要となる自然または人為による事件・事象のすべて」と定義しています。

 そしてこのICSは、米国の一般市民団体の自主防災組織をはじめ、医療施設、事業所、指定公共機関、指定行政機関などでも採用され、“自助、共助、公助”のすべてのレベルで広く普及しているそうです。

●「福祉防災」が志向する災害文化のシームレスな変革

 いっぽうわが国では、ICSのインシデントを「自然災害」に限定しがちです。さらに自然災害は、地震、津波、台風、土砂崩れ、噴火災害などと細分化され、被災者支援も災害種・被災程度ごとに縦割りに固定化される傾向があります。
 そんななかで象徴的に、社会構造・文化の垣根のためでしょうか、議論はされてもなかなか日本では実現しない制度に「防災省(庁)」創設があります。

 地震や台風などのような既定の災害だけが災害ではなく、いわば”想定外一般”が災害だととらえれば、事前対策、備え方も変わってくるはず。つまり、ICSでは事前に想定しにくいすべてをひっくるめて「オールハザード」としてとらえ、「起きてしまった災害」だけではなく、「これから起きるかもしれない災害」にも向き合おうという考え方なのです。
 「防災省(庁)」創設によって「オーハザード」への備えと、「シームレスな被災者支援」の実現可能性があります。

 あらゆる支援関係者の参画を期待する「災害ケースマネジメント(DCM)」も、まさに、縦割り打破志向の米国だからこその発想だったではないでしょうか。
 わが国でこのプログラムを具体化し実効性を高めるには、”災害文化革命”への志も求められそうです。

   (M. T. 記)


日向灘及び南西諸島海溝周辺

■《Bosai Plus》第279号・2022年04月01日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●常在戦場ならぬ「常在揺動」

 本紙は月2回1日・15日発行ですが、まさに東日本大震災から11年を経過し、その感慨も覚めやらぬ3月16日深夜(23時半ごろ)に福島県沖の地震が、その2日後の18日のほぼ同時刻ごろを測ったように、岩手県沖の地震が起こりました。

 22日には内閣府から「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会の最終報告」が、23日には群発地震が集中している能登地方を震源とする最大震度4の地震が発生、そして25日に地震本部から「日向灘及び南西諸島海溝周辺の地震活動の長期評価(第二版)」と「日本海南西部の海域活断層の長期評価(第一版)―九州地域・中国地域北方沖―」が公表されました。
(そして、ちょうどこの稿を書いている31日午後8時52分頃、千葉県で最大震度4を観測する地震が発生、都内23区は震度3とのこと)

 本紙は公的な機関とのやりとり(仕事)も多少はあり、その事務処理などで年度末は忙しいのですが、お役所の報告書とりまとめ作業も集中するようです。
 2022年度末はそれに加えて大きな地震、大きめの地震、震度4レベルの地震、その余波などが日本列島を揺るがし、災害・防災メディアにとってもまことに多忙な年度末となりました。

●根っこを揺らし、根こそぎ押し流す地震・津波

 福島県沖の地震と岩手県沖の地震は、とくに個人的にも三陸沿岸部に縁が深い本紙(筆者)にとっては文字通り”自分ごと”です。地震の揺れで家屋倒壊というのはよほどのことで、揺れの真の怖さは”生き物としての私たちの存在を根っこから揺する”ところにあると思っています。
 しかし揺れ以上に怖いのは、東日本大震災で起こったような津波ではないでしょうか。あらゆる存在を”根こそぎ”押し流す波の壁――「揺れたら津波!」は、根なし草のような筆者にとってほとんど条件反射的な反応です。

●常在戦場……それにつけても、リアルな戦争と防災、比べたら

 それにつけてもウクライナ戦争(紛争?)には気が滅入ります。国家的正義という共同幻想のもとで無辜(むこ)の人びとを大量殺戮(さつりく)する、まち・地域コミュニティを破壊する――
 私たち防災は「災害犠牲者ゼロ」をめざし「誰1人とり残さない(助けたい)」をモットーに日々努力しているわけですが、戦争はその真逆です。一人ひとりの命を軽んじ(人間の殺傷を戦果とし)、営々と築き上げてきたコミュニティ、カルチャーをこなごなに破壊する。まさに非道、酷(ひど)すぎます。
 正義・主義の名のもとに殺し合うことに大義はあるのか、人間はそれほど弱いのか、どれだけバカなのか。人間営為を超えた自然災害と対峙する防災、災害と闘う市民のほうがよほど強い、大義があると思うのですが――

●それにつけても……いいことない、戦争

井出留美:ロシアのウクライナ侵攻がSDGsを後退させる 世界の食料にもたらす影響
(2022.03.04.)
 「ロシアがウクライナに軍事侵攻」のニュースが日々報じられている。今回の軍事侵攻をSDGsのゴールに照らし合わせ、戦争はいかに社会を後退させるかということについて考えてみたい。SDGsのゴール、17のうち16番目は「平和と公正をすべての人に」……

セーブ・ザ・チルドレン:ウクライナ危機により世界の数百万人の子どもがさらなる飢餓に直面
(2022.03.02)
 ウクライナにおけるロシアの軍事行動により小麦の価格が高騰していることで、イエメンやレバノン、シリアなどに暮らす、世界で最も脆弱な状況に置かれた数百万人の子どもたちが極度の食料不足に……

   (M. T. 記)


FUTABA-Art-Districtプロジェクトより

■《Bosai Plus》第278号・2022年03月15日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●あれから11年 国の施策は今年度から5年間「第2期復興・創生期間」に

 3月11日の東日本大震災11年が通り過ぎました。だれもがあの日の”衝撃”を思い起こし、それぞれの感慨にひたったことでしょう。
 これからも「災害周年」を迎えるたびに、被災者・被災地を思い、自らを顧み、防災への決意を新たにし、次なる災害にどう立ち向かうか、思いを巡らすのではないでしょうか。
 「災害は忘れたからやって来る」とも言います。「周年」は少なくとも災害教訓を甦らせるという大きな意味を持っていると思います。

●「正常化の偏見 VS. 防災」――生涯で被災者となる確率は?

 いっぽう、NHKスペシャルは先日の3月12日、「あなたの家族は逃げられますか?〜急増 “津波浸水域”の高齢者施設〜」を放送しました。全国調査で東日本大震災後も津波の“浸水想定区域”に高齢者施設が次つぎとつくられていることを明らかにし「将来あなたが入るかもしれない施設は安全ですか?」と問うものでした。

 本紙は前号特別企画「福祉なくして防災なし」で、立木茂雄教授の「障がい者の被災が多かった宮城県で津波浸水域に多く高齢者施設が建てられていた」との指摘を取り上げました。
 また本紙もたびたび、浸水想定域の人口が増えていることを取り上げています。教訓はなぜ活かされていないのか……

 本号に寄稿していただいた平井雅也さんは、「私たちは常に災害と災害の間に生きていると考えられないでしょうか」「私たちは必ず災害にあう運命にあります」と警告を発しています。「だから備えが必要なのだ」と。

 防災科学技術研究所「地震ハザードステーション」は「確率の数値を受け止める上での参考情報」として「地震発生確率・地震動超過確率の評価値」を掲載しています(東日本大震災の直前時点のやや古い資料)。

 ここでは、交通事故による30年死亡確率は約0.2%という統計数値例が引用され、地震と交通事故を単純に比較できないものの、私たちの日常生活で交通事故リスクが身近であることを思えば、地震も日常的な危険としてとらえるべきという説明です。

 いっぽう、巽好幸・神戸大学海洋底探査センター長は、低頻度災害に関してその発生確率を考慮した「予想年間平均被害者数」を用いて、80年の生涯で一度は災害避難をしなければならない確率を求めると自然災害全体では約24%、つまり4人に1人が被害に遭うと計算しています。

 しかし、こうした確率論に刺激されて疑問もわきました。総体的な被災確率についてはいろいろな推計がありますが、個別(個人)レベルでの「被災経験」についてはどうだろう、と。生涯で被災経験のある人は全国民の何%くらいかと。
 80年の生涯で一度も大きな災害を経験せずに一生を終える人が4人に3人だとしたら、個人レベルで「自分は大丈夫」という正常化の偏見にも確率的に根拠があると言えなくもない(!)。

 よく「リアリティチェック(現実直視)」と言いますが、防災も単に「備えが必要」では、平穏に生涯を追える75%の人には効き目がない?……
 いえいえ、防災士としての基本に立ち返ると、要するにこうした災害はいつ・どこで起こるかわからない――だから、備えが必要という正論になります。

 ところがこの”正論”にも反論が出そう。本紙も取り上げた「吉備(きび)高原に首都移転、再燃か 岩石の磁気が地殻変動によって動いた履歴から約4000万年間の地盤安定が判明」(2021年8月15日号/No. 264)のように岡山県の吉備高原に住めば、まずは一生、地震の”難”を逃れることは十分可能なようです。
 ことほど左様に防災は、常に「正常化の偏見」の挑戦を受けざるを得ない宿命(さだめ)なのかもしれません。

●忙中閑話

TBS:米西海岸「The Big One」に備え広がる津波対策「垂直避難」
(2022.03.08.)
 “The Big One”とよばれる巨大地震に備え、アメリカ西海岸では11年前の東日本大震災をきっかけにある津波対策が広がりを見せている……
本紙関連記事 2015年10月1日号(No. 123):対岸のM9地震津波リスク

   (M. T. 記)


イメージカット

■《Bosai Plus》第277号・2022年03月01日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●「福祉と防災がスクラムを組む」

 本号は「福祉防災」テーマの特別構成です。次号との2部連携構成(予定)で、本号は「その1」となります。
 本文で触れていますが、本号では、①「個別支援計画(災害時ケアプラン)」を、次号では、②「災害ケースマネジメント」を取り上げる予定です。

 とくに本号は、防災に関わる人びとのあいだでの”フェーズフリー”の総連携が求められることから、「福祉と防災がスクラムを組む――福祉防災なくして防災なし」を合言葉とする協力・連携体制づくりにおいて、防災士の役割に期待したいところです。

●「福祉知らずに防災語れず」

 本企画関連のリサーチ中に「福祉知らずに防災語れず」という文言(福祉防災に特化する伊永(これなが)勉・ADI災害研究所の弁)を見つけ、衝撃を受けました。本紙もこれまで「福祉と防災の連携」を訴えてきましたが、福祉の実情を知ったうえでの訴えか――と、鋭い問いを突きつけられたように思います。

 そして立木茂雄先生の「これまでの福祉と防災の連携の取組みは連携が大切だということを言うだけ。連携は結果なのだが、どうすれば連携が可能なのかは、実は一言も言っていない」(本文参照)にもギャフンと首をうなだれるのみ。
 本紙モットーは「災害犠牲者ゼロをめざす」としていますが、その出発点は、いわゆる”災害弱者”の犠牲者ゼロに始まるのだ、と改めて気づきました。

●「ゴールは遠いが、しっかり見える」

 本紙は「災害犠牲者ゼロをめざして」防災情報に特化し、これまで愚直にがんばってきたつもりですが、ウクライナ危機にはなんとも憤りと同時に無力感に打ちひしがれてしまいます。
 自然災害ではない、人間が自ら意図的に起こす紛争・戦争が原因で、たちまち多くの犠牲者が”つくり出される”なんて――まったく酷い話ではないか。
 しかも、ロシア軍がチェルノブイリ原子力発電所を掌握したという情報に、戦略だが戦術だが知らないが、人間の業(ごう)の深さに暗澹(あんたん)とするばかり……

 しかし本紙はそれでも「災害犠牲者ゼロをめざす」というモットーのもとで、一歩一歩、一途な志を貫くしか道はありません。「ゴールは遠いが、しっかり見える」、それは間違ってはいないと確信しています。
 もちろん、ウクライナ危機の、人間の英知による解決を祈りつつ……

   (M. T. 記)


AIスマートグラス「3rd-EYE」

■《Bosai Plus》第276号・2022年02月15日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●デジタルテクノロジーは「諸刃の剣(もろはのつるぎ)」?

 本号特別企画は、SFの世界を次つぎと現実化するデジタルテクノロジーの防災応用の話題です。
 タイトルカットの写真は「(人の)捜索支援」テクノロジーの最先端をうかがわせるものですが、一見すると”軍事用”と見まごうかのような装備です。もちろん自衛隊や消防・警察との連携を想定した装備であり、印象的には軍事的な要素と紙一重かもしれません。

 いっぽう、本文で取り上げた「インフラサウンド」は、 津波や土砂災害の早期検知に大きな可能性を秘めていますが、もともとは核実験検知を目的に研究開発されたようで、軍事的な要素を孕(はら)んでいます。
 宇宙船打ち上げロケットとミサイル実験の違いが紙一重なように、子どもたちの夢をふくらませる宇宙開発と、覇権狙いの宇宙軍の創設が同時進行なのは皮肉です。

 原子爆弾と原子力発電を比べるまでもなく、ことほど左様に、テクノロジーは「諸刃の剣」の側面を持っています。ただ、防災面で開発されるテクノロジーは、願わくば純粋に「減災」をめざしてほしいものです(自然の克服ではなく)。

 本紙は寺田寅彦の箴言のいくつかを何度も取り上げていますが、そのなかに、「文明が進むほど災害は激烈になる」というものがあり、そのさわりを特別企画大見出しで引用しました。
 寺田は小編の「天災と国防」のなかで、次のように述べています――

[戦争はぜひとも避けようと思えば人間の力で避けられなくはないであろうが、天災ばかりは科学の力でもその襲来を中止させるわけには行かない。いついかなる程度の地震暴風津波洪水が来るか今のところ容易に予知することができない。最後通牒も何もなしに突然襲来するのである。それだから国家を脅かす敵としてはこれほど恐ろしい敵はないはずである…(中略)…陸軍海軍のほかにもう一つ科学的国防の常備軍を設け、日常の研究と訓練によって非常時に備えるのが当然でないかと思われる]

 本紙はモットーとして『 ゴールは遠いが、しっかり見える。』を掲げていますが、”はっきり見える”ではなく、”しっかり見える”としたことに多少の意味を込めています。
 「しっかりゴールを見据えて進む」という志こそ、テクノロジーにも求めたいところでもあります。ゴールとは「災害犠牲者ゼロ」です。

●忙中閑話

防災科学技術研究所と東京海上ホールディングス、合弁会社設立
(2021.11.01.)
 国立研究開発法人防災科学技術研究所と、東京海上ホールディングス株式会社は、双方の強みを活かして社会のニーズに合わせた新たな防災・減災サービスを提供する合弁会社『I-レジリエンス株式会社』を設立……

朝日新聞:気候変動、SFから警告 ピンとこぬ未来の危機、共有させる手法
(2022.02.11.)
 「地球温暖化が危機的だ」「社会の脱炭素化が必要だ」といわれてもなかなかピンとこない。多くの人にイメージを共有してもらうにはどうしたらよいのか。ドラマや小説など、あえて現実ではないものを通してリアルに感じてもらう……

CNN:2000年かけてできたエベレストの氷河、25年で融解 新研究
(2022.02.04.)
 世界最高峰エベレストの頂上周辺に存在する氷河について、形成に要した時間のおよそ80倍のペースで融解しているとする新たな研究が発表された。人間が引き起こしている気候変動に原因があるという……

   (M. T. 記)


在日本トンガ大使館ツイッターより

■《Bosai Plus》第275号・2022年02月01日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●「居安思危/思則有備/有備無患」=想像力で備える

 本号特別企画は、南太平洋トンガ諸島付近のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ海底火山噴火を契機として、巨大災害への”想像力”をテーマに据えました。

 トップのタイトルにある「居安思危/思則有備/有備無患」は、防災界で知る人ぞ知るメルマガ「週刊防災格言」の発行元”防災意識を育てるWEBマガジン”『思則有備(しそくゆうび)』にヒントを得ています。
思則有備

 昨年6月、同マガジンから本紙に寄稿要請があり、拙稿を掲載させていただきました(2020/06/26)。
 それを機に故事成句「思則有備」の前段・後段を知り、本号の大見出しに引用させていただいた次第です。発行後となりましたが、この欄を借りて『思則有備』マガジンに御礼を申し上げます。

●一般ビルの耐震化――だれが声をあげるべきか

 本号は特別企画で地球規模の大災害を主題に置きましたが、「見過ごされている一般ビルの耐震化」(P. 3)では逆に、耐震化されていないブロック塀どころではない日常的な重大リスク、深刻な一般ビルの耐震化問題を取り上げました。

 阪神・淡路大震災は早朝起こっただけに住宅での人的被害が大きくなったと言えますが、日中に起こっていたら……と考えれば、一般ビル倒壊の深刻さの様相はさらに増すのではないでしょうか。

 本文で「市場原理にまかせていいのか」としましたが、「だれが、なぜ、どのように、一般ビル耐震化の遅れを見過ごしているのか……だれがその代償を払うのか」――まず、そのような危ないビルで日々、仕事をしている勤労者、テナントが自ら「恐い」と声をあげなければ、状況は改善しないのではないか。

 私は以前、ある役所の防災担当部署を取材で訪れ、外見からしていかにも旧耐震ビル、かつ壁にひびの入ったビルの、机に書類が雑然と積み上げられている部屋のなかで仕事をしている職員のみなさんに、「これはアウト!」と思ったことがありました。

 いまでこそその役所は耐震補強されたと聞きましたが、だれが声をあげたのか、それをだれが聞いて、だれが耐震補強を決断したのか、決裁過程を明らかにしたいと思いました。

●忙中閑話

NHKニュース:「終末時計」“残り1分40秒” 3年連続最短 米科学雑誌が警告
(2022.01.21.)
 米国の科学雑誌は、人類最後の日までの残り時間を象徴的に示す「終末時計」(Doomsday clock)の時刻について、これまでで最も短くなった過去2年と同じ「残り1分40秒」と発表、核兵器や新型コロナウイルス、気候変動の脅威に……

朝日新聞:トンガは「リスク度」3位 1位はどこ、日本は?
(2022.01.20.)
 トンガ諸島での海底火山の大規模噴火は、トンガに津波と降灰による大きな被害を与えた。トンガは大型サイクロンや地震も頻発する「災害大国」。世界各国を災害リスクの観点から順位付けする「世界リスク報告」(2021年版)で……

   (M. T. 記)


雪処理の担い手の確保・育成のための克雪体制支援として、長野市では、雪害救助員が安心して雪下ろし作業ができるように、雪が積もる前に高齢者世帯などの住宅を現地調査し、支援が必要な世帯の住宅の情報を共有する「除雪住宅カルテ」(屋根の特徴、雪止めやハシゴの位置、注意点などを記録)を作成している。また、命綱アンカーの取付け金具を自ら開発し、これを設置した「命綱アンカー設置モデル住宅」を整備、ここを拠点に周知・提案を図るほか、雪害救助員を対象に、安全帯と命綱の重要性を伝えるための除雪安全講習会などを行っている

■《Bosai Plus》第274号・2022年01月15日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●「克雪」への永い闘い――「ゴールは遠いが、はっきり見える」

 本号特別企画は、この時季の恒例ではありますが「克雪」がテーマです。
 コロナ禍(→オミクロン禍)を背景に、除雪ボランティアの活動もままならないと聞き、今回は多少切り口を変えて公助としての「雪の防災気象情報」と「克雪支援対策」を主に取り上げました。

 そのなかで公助の新しい試みとして、長野市を事例に非常勤「雪害救助員」派遣制度と「除雪住宅カルテ」に注目、豪雪地帯(と周縁地帯)の防災士のみなさまの地域活動の参考としても取り上げました。

 東京(首都圏)在住ですと、今冬はとくに豪雪地帯のみなさまには申し訳ないほどお天気が対照的(大雪・吹雪と快晴)です。豪雪地帯の高齢の親戚からの便りも「雪かきが大変」と……東京の快晴の空を眺めつつ、大雪・吹雪のニュースに心を痛めています。

 ITCの時代、DX、AI、デジタル田園都市……最先端テクノロジーはいろいろ先を見ますが、「克雪」は言わずもがな、地震・津波、台風、噴火などなど自然災害について、その発生を抑えることはムリとしても人的被害想定〇万人(直近の日本海溝・千島海溝では最悪19万の犠牲者!)という、百年前の被害規模と変わらない、いえ、それ以上の想定死者の数字が当然のようにまかり通っています。

 阪神・淡路大震災27年を迎え、その犠牲者数をはるかに超える被害想定がいまだになされることに、私たちはもっと敏感になるべきではないでしょうか。

●忙中閑話(この項、ご好評をいただいていますので……)

 最近号で「小惑星からの地球防災」を取り上げましたが――
CNN:幅1kmの小惑星、来週地球に最接近 190万km先を通過
(2022.01.12.)
 幅約1kmと推定される小惑星が今月18日、地球に最接近する。米航空宇宙局(NASA)の地球近傍天体研究センターによると、地球から約190万kmの距離を時速約7万6000kmで通過する見通し……

ねとらぼ:ゴジラの名前が付いた岩が国際的に認可 地球史上最大、海底で発見
(2022.01.06.)
 国際会議で、日本が新たに提案していた「ゴジラメガムリオン地形区」を含む18件の海底地形名が正式に承認された。海底地下のマントルが露出したドーム状の岩である「メガムリオン」に、“ゴジラ”の名前が国際的に登録されたのは初めて(日本政府ではすでにこの名前で呼んでいた)……

ナショジオ:3600年前の超巨大「ミノア噴火」、津波の犠牲者をついに発見、エーゲ海
(2022.01.04.)
 約3600年前の後期青銅器時代、エーゲ海の火山島が噴火し破壊的な津波を引き起こした。その津波による犠牲者の遺骨が、最近になって噴火したティラ火山(現在のサントリーニ島)から160km以上離れたトルコの海岸で初めて見つかり……

   (M. T. 記)


2022謹賀新年(Bosai Plus 賀状)

■《Bosai Plus》第273号・2022年01月01日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●新年おめでとうございます

 コロナ禍の収束がいまだ見えないなか、2022年の幕開けとなりました。オミクロン株の動静も先行き不透明で、まだまだ気を許せない日々が続きそうですが、新しい年のみなさまのご健勝とご多幸を心よりお祈り申し上げます。

 この”災害”に対して私たち市民は、「感染しない・感染させない」の”実践的精神論”(?)で耐えるしかないようです。
 みなさまのなかには不運にもすでに感染されたという方もおられるかもしれません。お見舞いを申し上げますとともに、後遺症などの早期完治・克服をお祈りいたします。

●本号は「1月1日発行」ですが、1月4日配信です

 昨年末の本欄で書き忘れましたが、《Bosai Plus》1月1日号は例年どおり、1月4日の配信となります。ご了承ください。

●「ブラタモリ」を活きた教材に!

 2022年度から高校で新学習指導要領が実施され、新設の「地理総合」が必修科目になるそうです。地理総合の主要なテーマのひとつが「防災」になるとのこと。大変喜ばしいことです。

 少し前、NHKテレビの「ブラタモリ」のタモリさんと制作スタッフに国土地理院が功労者として感謝状を贈呈したというニュースがありましたが、確かに視聴者が地図や地理に興味を持つきっかけになり、さらには災害・防災を考える動機づけにもなっていると思います。

 ただ、「ブラタモリ」がすごいと思うのは、防災のみならず、まちの成り立ち・人びとの暮らし、魅力を探ると同時に地政学的な視野を広げてくれるところではないでしょうか。防災は社会のインフラという視点からは、防災もあらゆる分野に紐づけられるという意味でも、「ブラタモリ」を応援したいと思っています。

●忙中閑話 その1

 本年は「寅(虎)年」ですが、たまたま「虎斑(とらふ)」という言葉を知りました。「虎斑」とは横縞のような模様で、ナラやオーク材などのブナ科にみられる模様。虎の毛のように見えるものを指すそうです。木の栄養を含んでいる場合に出る模様で、質の良い木材であることを意味するとされます。

 この「虎斑」から「南海トラフ巨大地震」を思い起こしました。言われてみると、海溝も「虎斑」柄に似ています。これを年賀状にモジろうかと思いましたが、やや不穏なのでやめました……

●忙中閑話 その2

CNN:洪水に強い「水上都市」の計画を認可 釜山
(2022.01.03.)
 韓国の釜山市が、野心的で新しい海上への移住計画を認可した。2022年に最初の区画の作業が始まる予定だ。設計者によれば、今回提案されている「水上都市」は一連の相互接続されたプラットフォームで形成され、最終的には1万人を収容できるようになる。沿岸部にとっては、海面上昇によってもたらされる脅威への大胆な解決策となりそうだ……

共同通信:北極圏で気温38度、最高と認定 昨年6月にロシアで観測
(2021.12.14.)
 世界気象機関(WMO)はロシア極東サハ共和国のベルホヤンスクで昨年6月20日に観測された38度を、北極圏の観測史上最高気温と正式に認定した。南極半島にあるアルゼンチンのエスペランサ観測基地……

   (M. T. 記)


首都圏外郭放水路(防災地下神殿)

■《Bosai Plus》第272号・2021年12月15日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●「首都圏外郭放水路」(防災地下神殿詣で)、行ってきます

 本号特別企画は「首都圏外郭放水路」の見学の話題。これは、東武鉄道のプレスリリースをきっかけとする記事で、私もまだこの放水路を見学していませんので早速申し込みました。いずれツアー参加リポートも掲載させていただきます。

 首都圏在住の方はこの機会にぜひ、というところですが、同施設の見学は常設で催行されていますので、焦ることはありません。今回の紹介記事はあくまで、同施設まで春日部駅発着の無料巡回バスを期間限定で利用できるという実証実験企画に乗ってみようというものです。

 「首都圏外郭放水路」は、最近のヒット映画「翔んで埼玉」や「平成版仮面ライダー」のロケ地にも使用されているとのこと(残念ながらいずれも見ていませんが)。機会があればどうぞ。

 海外メディアも紹介しているということなので、ちょっと調べてみたら、直近では米国 CBS NEWS が今年の4月19日付けで「Japan’s underground flood diversion project」(日本の地下洪水放水プロジェクト)と題して取り上げています。
CBS NEWS:Japan’s underground flood diversion project

 ご参考まで、英語で「首都圏外郭放水路」は Metropolitan Outer Area Underground Discharge Channel となっています。

●米国の竜巻被害――竜巻防災のブレイクスルーはないものか

 米国の竜巻被害に心をいためています。竜巻街道(トルネード・アレイ)と言われるほど竜巻常襲地帯で再び悲劇……前号の「サイエンスフィクション」と「サイエンスファクト」ではないですが、米国らしい竜巻防災のブレイクスルーはないものでしょうか……

●忙中閑話

Forbes:月に超小型原子炉、NASAが設計案を募集
(2021.12.12.)
 米航空宇宙局(NASA)が月面での原子炉設置に向けて、原子力業界や宇宙業界にシステムの設計案を募っている。NASAは2030年までにこうした原子炉を設置し、月面探査などの電力源にしたい考えだ……

朝日新聞:羽根なし風力発電機に注目 取り付けた円柱、強風でも回転数抑え運転
(2021.12.10.)
 プロペラがない風力発電機「マグナス式風車」の開発が進んでいる。平たい羽根の代わりに自転する円柱が風を受け、強風下でも発電できる。台風に襲われやすい離島の再生可能エネルギー電源として……

 4年以上前の記事ですが、NASA DART がらみで再発掘……
CNN NEWS:空中に浮かぶビル、米で構想 地震や津波からも解放
(2017.04.05.)
 地上に縛りつけられた生活から抜け出し、空中に浮かぶビルで自由に暮らせたら――。そんな願いをかなえる未来型の建物の構想が発表され注目を集めている。米ニューヨーク建築事務所「クラウズ・アーキテクチャー・オフィス(CAO)」が発表した「アナレンマ・タワー」はなんと、地球周回軌道に乗せた小惑星からケーブルでビルをつり下げるという構想……

   (M. T. 記)


■《Bosai Plus》第271号・2021年12月01日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●「サイエンスフィクション」と「サイエンスファクト」

 前々回(11月1日配信時)、このコーナーで高水裕一・著『物理学者、SF映画にハマる』(光文社新書)を紹介しました。
 同書の帯に「フィクションが未来の科学を導く!?」とあります。人間の想像力は実に壮大で、ときに映画で描かれる世界からとんでもない着想がひらめくことも……と。

 本号特別企画は、NASAの「DART」(実にうまい命名!)による「地球防災」がテーマ。本文でも触れているように小惑星衝突の話題は2019年5月15日号(No. 210)でも取り上げています。
 小惑星地球衝突という設定はまさに映画『アルマゲドン』ですが、この場合、すでに当時の先端科学でも小惑星の地球衝突リスクは顕在化していたのでしょうから、映画はそのリスクをSF化したということでしょう。

 科学者ですら、SFが科学的な思考のブレークスルーのヒントになることを認めていると言います。事実、『ドラえもん』から『2001年宇宙の旅』、そして幾多のハリウッド制作ディザスター映画まで、創作者の発想(思いつき)とテクノロジーの相互作用で、フィクションが現実のものとなった例は枚挙にいとまがありません。
 「サイエンスフィクション」から「サイエンスファクト」へ、あるいはその逆、「DART」もそういうことかと思います。

 小松左京『日本沈没』は何度かのリメイクを経て、いまテレビドラマでも佳境を迎えているようです。日本沈没は科学的には”飛びすぎ”かもしれませんが、日本人の危機管理という視点で見れば、その構想の大きさに感嘆します。
 現実の災害は大規模であればあるほど、人知(防災科学)を超えて被害を発生させます。私たちは大災害のたびにその“まさか”を思い知らされてきました。

  いっぽうディザスター映画は、想像力をバネに科学を跳び越え、災害の不条理性を暴くところにその本質があるように思っています。同時に自然の不条理な脅威下で、人間の行動規範(愛、正義、勇気、誇りなど)、危機管理手法(情報管理、分析、リーダーシップ、行動力など)の検証をRPG的に試みるところに”ファクト”もあると――

●忙中閑話

CNN:南極にエアバスA340型機が着陸、史上初
(2021.11.24.)
 エアバスA340型機が史上初めて南極の大地に降り立った。運航を担ったのはハイフライ航空。同社は機体だけでなく乗組員や保険、メンテナンスなどもまとめて手配して貸し出す「ウェットリース」を専門……

朝日新聞:宇宙飛行士 門戸広がる 学歴・体重・泳力など不問 JAXA 13年ぶり募集
(2021.11.22.)
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)が13年ぶりに募集する飛行士の募集要項が発表された。米国と進める将来の有人月探査を想定し、国際チームの中で協調性とリーダーシップを発揮できることや、極限環境でも柔軟な思考で的確に行動……

三陸新報:一夜にして防波堤50m倒壊
(2021.11.04.)
 気仙沼市鹿折地区の小々汐防波堤の一部が無くなっているのを、地元のワカメ養殖業者が2日朝発見した。通報を受けた県などが調査した結果、海側に倒れて沈んだことが分かった……

   (M. T. 記)


『気象庁Webサイトの使い方』より
『気象庁Webサイトの使い方』より

■《Bosai Plus》第270号・2021年11月15日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●『コロナ禍でもすぐできる!女性の災害への備え』

 本号特別企画で取り上げた『コロナ禍でもすぐできる!気象庁Webサイトの使い方』『コロナ禍でもすぐできる!災害時のSNSリテラシー』は、大変わかりやすい気象庁ウェブサイトのガイドです。とくに気象庁サイトを”迷宮”のように感じている向き(筆者も?)には明快なトリセツ=図解サイトマップだと思います。

 本紙としては、気象庁の科学的知見・資料データと対比的に”SNSリテラシー”を取り上げていること、さらには疑似科学、陰謀論にも触れていることに感心しました。

 このガイドをまとめたTBWA HAKUHODO、FUKKO DESIGN社は、これまでに『防災アクションガイド』として「大雨&台風」「熱中症」「天気の急変」「冬の荒天」「地震&津波」「女性向け防災」など、自然災害のための対策集をまとめています。

 本号ではそれぞれの詳細に触れられませんでしたが、このなかで『コロナ禍でもすぐできる!女性の災害への備え』は今年の「男女共同参画週間」(毎年6月23日から29日までの1週間)にあわせて発表されました。災害時の、とくに避難所生活での女性が困る生理まわりや衛生面、性犯罪での対策をまとめています。

 もちろん、女性だけではなく男性も含めすべての人に知っていただきたい内容になっています(とくに防災士など地域住民の避難、避難所運営にあたる活動家には必須)。

SNSで発信できる!『コロナ禍でもすぐできる!女性の災害への備え』

 なお、本紙として、あえてこのガイドにさらに付け加えたいコンテンツは「少女」への配慮です――避難所の質の向上をめざす国際基準「スフィアプロジェクト」でも「すべての男女」と並列で「少女」への配慮をあげています。

 もちろん「少年」への配慮も求められますが、あえて「少女」と銘記するからには、それなりの理由があることでもありましょう。

   (M. T. 記)


UNDP広報動画より「A-message-to-humanity-from-Frankie-the-dinasaur」
UNDP広報動画より「A-message-to-humanity-from-Frankie-the-dinasaur」

■《Bosai Plus》第269号・2021年11月01日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●「気候変動対策をためらうあなた(私)の言い訳(EXCUSE)」と向き合う

 昨日(10月31日)からCOP26が、英国グラスゴーで始まりました。本号特別企画で取り上げたように「一致して平均気温上昇1.5度をめざせるか」が焦点とされています。

 本号ではやや趣向を変えて国連開発計画(UNDP)がCOP26へのメッセージとして公開した啓発動画「Don’t Choose Extinction(絶滅を選択するな)」を紹介しました。
 日本のテレビニュースも、恐竜が国連で演説するという設定をおもしろがって断片的にこれを取り上げたようですが、本来、もっと深掘りして取り上げるべき内容だと思っています。
 というのも動画の後半で問われる「気候変動対策をためらう言い訳(EXCUSE)」が、いちいち具体的に”自分ごととして刺さる”からです。

 本紙の知る限りまだその日本語訳はないようなので、多少長くなりますが以下、全19言い訳の原文(英語)と日本語訳(本紙による意訳)をここで紹介します。

EXCUSE 1  I’m already doing as much as I can.
 (私ができることはやっている)
EXCUSE 2  We’ll lose too many jobs if we phase out fossil fuels.
 (化石燃料をなくしたら失業者が増える)
EXCUSE 3  I’m just one person, I can’t make a difference.
 (私だけではなにもできない)
EXCUSE 4  We need fossil fuels for our economy.
 (経済活動に化石燃料は必要)
EXCUSE 5  I won’t see the effects of climate change in my lifetime.
 (私の人生に気候変動の影響はない)
EXCUSE 6  Where I live won’t really be affected.
 (私が住む所では深刻な影響はない)
EXCUSE 7  I’m just a kid, no one will listen to me.
 (私はまだ子ども、声をあげてもだれも聞いてくれない)
EXCUSE 8  I don’t want to give up holidays or my car.
 (休暇やドライブをあきらめたくない)
EXCUSE 9  Fossil fuel companies are too powerful for us to change.
 (化石燃料を扱う企業は強大、とても変えられない)
EXCUSE 10 Soon we have the technology to just reverse climate change.
 (いまに気候変動を逆転させるテクノロジーが出現するよ)
EXCUSE 11 Climate change is too complicated for me to understand.
 (気候変動問題は私にはむずかしすぎる)
EXCUSE 12 I’ve heard renewables aren’t reliable or affordable.
 (再生可能エネルギーには頼れない、賄えないと聞いている)
EXCUSE 13 It’s too late for us to change.
 (もう手遅れ)
EXCUSE 14 We’re already doing enough to stop global warming.
 (地球温暖化抑止のためやるべきことはやっている)
EXCUSE 15 It still gets cold so clearly our planet isn’t warming.
 (地球には寒いところもあるし、温暖化はしていない)
EXCUSE 16 Climate change is a natural thing.
 (気候変動は自然の営為だからなるようになる)
EXCUSE 17 Climate change is a conspiracy. It’s fake news.
 (気候変動はだれかの陰謀、フェイクニュースだ)
EXCUSE 18 The world adapt to climate change.
 (世界は気候変動に適応する)
EXCUSE 19 I’m too busy to do anything about climate change.
 (忙しすぎて気候変動問題にかまけていられない)

●忙中閑話

高知新聞:四万十市で「防災婚活」
(2021.10.09.)
 四万十市は24日、独身の男女に防災への知識を深めてもらいながら出会いをサポートする「BOUSAI de 縁結び(防災婚活)」を同市内で開く。参加無料。防災食の試食や防災施設見学などを予定。定員は男女とも10人……

高水祐一・著『物理学者、SF映画にハマる』~「時間と宇宙」を巡る考察
 フィクションが未来の科学を導く!? タイムトラベルから星間飛行まで、物理学者と探るSF世界の可能性。科学の目で見直せばSF映画はもっと楽しく……

   (M. T. 記)


気象庁資料「想定される最大規模クラスの地震の震源域・過去の発生状況」より

■《Bosai Plus》第268号・2021年10月15日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●「災害は忘れたからやってくる」――想像力のバージョンアップ

 10月7日午後10時41分頃に発生した千葉県北西部の地震は、首都圏で最大震度5強を観測。首都圏は10年前の東日本大震災(2011年東北地方太平洋沖地震)以来の大揺れでした。

 気象庁によればマグニチュード(M)5.9で、地震本部は「首都直下で想定するM7級よりひと回り小さい。M6級だともっと大きな被害が」と。
 東日本大震災でのM9超巨大地震による東北地方のケタ外れの被害は別格として、この震度5級の揺れは、私たちに改めて想定首都直下地震を想起させました。首都圏でM7ともなると、相当の被害が生じ得ることを思い知った感があります。

 関東大震災(M7.9)から100年の周年を2年後に迎えます。関東大震災の実体験の記憶を持つ人はすでに百数歳、人それぞれの記憶はいずれ消え去るのみです。
 それでも「災害は忘れたからやってくる」――リアルな感性で記録された伝承・教訓は残されていて、それらへの想像力は生き続け、バージョンアップ(更新)できます。
 いずれ必ずくる大災害への備えの原動力は「忘れない=常にバージョンアップされる想像力」にあると思います。

●地震発生時のテレビ局、リアル・ウォッチング

 本欄で何度か、地震発生時のテレビ局(震源に近い支局オフィスなど)の揺れの様子が映されるのを見て、揺れのさなかでのテレビ局スタッフの所作対応について、社会的なロールモデルとしてヘルメットをかぶってほしいと言ってきました。

 今回の首都圏の大揺れで、たまたま見ていたある民放局では、地震の臨時ニュースを伝えるスタジオの女性アナウンサーがヘルメットを着用しました。またそのオフィス内の映像で、十数人いると思われるスタッフのうち2人(いずれも女性)がヘルメットをかぶって対応作業を始める様子が放送されました。

 小欄の声が届いたか(?!)とも思われましたが、まさか……でも、そうした声がテレビ局にもあって、緊急地震速報時はヘルメットを着用するようにということになってきたのかもしれません。
 なお、このときチャンネルを変えてみましたが、NHKではヘルメットを着用するアナウンサーやスタッフはいないようでした。NHKの建物は免震構造だということですが、免震構造だろうがなんだろうが、地震発生時は公共放送の危機管理として、スタッフはヘルメットを着用してほしいところです。

   (M. T. 記)


■《Bosai Plus》第267号・2021年10月01日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●台風16号接近中 関東地方は要警戒

 台風16号が南関東に接近中。伊豆諸島や関東南部は9月30日夜から荒れた天気となる恐れがあり、10月1日は伊豆諸島で災害クラスの風が吹き荒れ、関東でも交通機関に影響が出るくらいの暴風の可能性があるとのこと。ご注意ください。

●本号は「温故創新」をテーマに

 令和防災研究所第3回シンポジウムにちなんで、本号特別企画は「温故創新」。
 紙面スペースの都合で、基調講演やパネルディスカッションの内容を、だいぶはしょってしまいましたが、ここで加藤孝明先生の基調講演から「創新の方向性」についてひと言だけ補足すると――「防災『も』まちづくり」、「災害に強いまちはいいまち」、「隠し味・防災風味・結果防災の防災まちづくり」などがキーワード。
 つまり、都市(まち)の評価において、これからは防災の日常化、主流化がポイントということでしょう。

 なお、本文でも触れましたが、廣井 悠先生の「地域の多様性が”創新”を生む」との発言について、令和防災研のパネラーにも女性参画を期待したいところ。
 また、ほかの登壇者からもいろいろ貴重な発言・発表がありました。このシンポジウムの記録動画(YouTube)をHPで保存・一般公開していただけたら……

●「防災は日本が世界をリードする」と宣言した新総裁

 自民党新総裁(時期首相)・岸田文雄氏は、2015年に仙台市で開催された国連防災世界会議に外相として出席、「防災の主流化」を提唱し「防災は日本が世界をリードする」と宣言しています。
 総裁選中に表明した防災への姿勢は国土強靭化路線の踏襲のようですが、「災害の世紀」渦中のわが国の防災立国に向けて、「防災省(庁)」創設などの大胆・革新的な方策を打ち出してほしいところ……

   (M. T. 記)


防災士による危険箇所投稿のイメージ(ヤフー広報資料より)

■《Bosai Plus》第266号・2021年09月15日号発行!(同P. 1「もくじ付き」へリンク

●防災士30万の高みを展望――「応援協定」も多様化時代

 本号では「災害時応援(協力)協定」を取り上げましたが、自治体中心の応援協定の説明は概要にとどめ、具体例としては自主防災の代表選手としての「防災士(会)」を例に、自治体や大手メディアとの「災害時応援(協力)協定」の概況をリポートしました。

 ”災害時応援”の協定が本来の趣旨ではありますが、大規模な自然災害はめったには起こりませんから、自主防災のケースでは、地域単位での平時の活動が応援・協力の基本になると思います。
 つまり、自治体と連携した平時の日常活動こそが大切=”平時応援(協力)協定”が基本、災害時はそれが活かされるということになります。

 自主防災組織の平時の活動は、倦(う)まず・疲れず、継続にこそ価値があると思います。自治会・町内会などとの交流や小中学校の防災訓練への協力・指導、防犯、福祉、子ども・お年寄りの見守りなど、”防災のお隣”のまちづくりグループとの「応援協定」も大切になることでしょう。

 本号で取り上げた防災士(会)とNHKやヤフーとの協力関係は、防災士の信認性をさらに高めることに役立つはずですが、それはあくまで付随的なもの――防災士30万を展望するこのパワー、これから具体的にどう活かし育てるか。本紙も含めて、防災士のみなさん一人ひとりの課題になりそうです。

●防災士としては”聴き捨てならぬ”災害リスク下の介護施設

 厚生労働省による介護施設での「防災リーダー」養成事業支援という方針は、まさに防災士の活用にぴったりではないでしょうか。
 山形県や宮城県での実績を参考に、各地の日本防災士会支部で同事業と連携ができそうです。

 最近、「東京23区内にある特別養護老人ホームの約4割が、国や都の想定で洪水時に最大3m以上の浸水が見込まれる場所に立地」、また全国的にも、「津波・洪水の浸水想定区域や土砂災害警戒区域に特別養護老人ホームなどの介護施設が立地している自治体は、約1000市区町村にのぼる」との報道がありました。
 防災士としては聞き逃せない実態ではないでしょうか。

●ますます意気軒昂、伊藤和明さんの新刊

 おなじみ伊藤和明氏による最新書下ろし『平成の地震・火山災害』(近代消防新書、定価・税共990円)がこのほど刊行されました。平成約30年間にこれだけの災害事象が起こっていた……令和も警戒怠ることなかれ……防災情報に携わる本紙にとって大先輩の警告、肝に銘じています。
近代消防新書:伊藤和明・著『平成の地震・火山災害』
https://www.ff-inc.co.jp/syuppan/sinkan.html

●忙中閑話 2題

朝日新聞:台風の目に航空機から水や氷 弱体化させ災害ゼロに、発電構想も
https://digital.asahi.com/articles/ASP9B546PP8HPLBJ001.html
2021年9月12日
 地球温暖化でますます凶暴になっている台風をコントロールし、勢力を弱くしたり、被害をゼロにしたりできないか。2050年の実現を目標に、そんな壮大な挑戦が始まっている。台風が持つエネルギーは、全世界の消費電力の1カ月分とも言われ、発電に生かそうという構想もある……

わんわん救命士(YouTube)
https://www.instagram.com/p/CTMZ0Erl9nw/?utm_medium=copy_link

   (M. T. 記)


GNS[2017年版]

■《Bosai Plus》第265号・2021年09月01日号発行!(同P. 1(「もくじ付きへリンク」

●創刊11周年 「十年一日、日々是防災」

 本紙は2010年9月1日に創刊しました。
 創刊号から1年間は「Vol. 1」となり、2021年9月1日発行号で11周年=「Vol. 12」=本号から12年目に入ります。

 顧みれば「十年一日」……10年余が1日のようの短く感じられるという意味かと思っていましたが、辞書によれば「十年一日のごとく平凡な生活が続くこと」、「成長や進歩がないこと」とも。
 でもいっぽう「10年間同じことを繰り返す」という意味から、「ひとつのことを辛抱強く努力し続ける」、「忍耐強く守り続ける」ことを言うともあります。

 本紙はまさに「十年一日」、「持続は力」という定期刊行物の鉄則を死守してきました。同時に「日々是好日」ならぬ「日々是防災」で、愚直に「ゴールは遠いが、しっかり見える。」のキャッチフレーズを貫いてきました。
 それもこれも、読者のみなさまのご支援・叱咤激励があってのことで、創刊11周年を期して、改めて深謝申し上げます。

 ところで「日々是好日」の読みは、正しくは「にちにちこれこうにち」だそうで……私はこれまで「ひびこれこうじつ」だと思い込んできました。
 専門の校正係がいない本紙ですので、校正ミスにはいろいろ突っ込みどころもおありかと思います。ご指摘は大歓迎で、とくに防災の考え方について異論をお持ちの方からのご指摘は、真摯に対応させていただきます。

●「災害リスク指標」のソースデータに「自助・共助の浸透度合い」を

 本号では「都市の災害リスク評価」を取り上げました。とくに地盤工学会の研究者グループによる安全指標「GNS」の開発は大きな可能性を秘めていると思い、巻頭で取り上げました。
 こうした指標のソフト面のソースデータとして、「地域防災力」をうまく指標化できないものでしょうか。住民による自主防災組織のカバー率のほか、防災訓練参加率、さらに自助・共助の浸透度合い、防災教育の普及度合い、防災士資格取得率などを検討していただければと思います。

 いっぽう、東北大学災害科学国際研究所所長・教授の今村文彦先生が提唱する「防災 ISO(国際標準化)規格」の動向にも注目しています。
 防災メディアとして、こうした研究・開発を粛々と進める研究者の方がたとも、「日々是防災」感を共有させていただければと願っています。

●忙中閑話

 「防災の日」に下記、2題。

毎日新聞:都知事の追悼文見送りに抗議 関東大震災朝鮮人追悼式典の実行委
(2021.08.23.)
 関東大震災時に虐殺された朝鮮人の追悼式典の実行委員会は23日、小池百合子知事が2017年以降、式典に追悼文を送っていないとして抗議声明を発表……

JX通信社:「想定外の超弩級プリニー式噴火」福徳岡ノ場衛星写真連続撮影結果を火山学者(小山真人・静岡大学教授​​)が解説
(2021.08.26.)
 株式会社JX通信社は、宇宙ベンチャーの株式会社アクセルスペースとの協同で、今月13日に噴火が確認された小笠原諸島付近の海底火山「福徳岡ノ場」の……

 今後とも本紙をご愛読・ご支援のほどをよろしくお願い申し上げます。

   (M. T. 記)


千島海溝モデル想定地震津波より「震源域の地盤変動量分布」(北海道資料より)

■《Bosai Plus》第264号・2021年08月15日号発行!(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

【 Tweets & Tips 】

●改めて、いつ起こっても不思議はない不条理・巨大災害

 前号(8月1日発行号)で、日本時間7月29日にアリューシャン列島(米国、アラスカ半島)で起こったM8.2と推定される巨大地震を契機に「遠地津波」を想起し、1960年チリ地震津波、1700年“みなしご”元禄津波(カナダ・カスケード地震津波)に触れました。
 本号ではその余韻もあって、北海道の千島海溝に起因する巨大津波想定の話題を特別企画で取り上げることにしました。

 たまたまですが、昨日(8月14日、日本時間)20時58分頃、アリューシャン列島で再び、M7.0と推定される大きな地震が起こりました。7月29日の巨大地震活動の一部と見られているようです。幸い、津波発生はなかったようです。
 また、日本時間同日の21時29分頃、カリブ海の島国ハイチでM7.2の大地震が発生し、海外報道によれば被害も発生しているようです。

 ちなみに気象庁は21時24分に海外で起こったこの2つの大地震について「遠地地震に関する情報」を発表しています。

 気象庁ホーム>防災情報>地震・津波>地震情報(遠地地震情報も含む)(「震源・震度情報」の地図を世界地図に拡大)

 このところ三陸沖や福島県、茨城県、千葉県沿岸、またこれまで地震が比較的に少ないとされる中国・四国地方でも、中規模の地震が多く起こっているような気がします。”ビッグワン”(巨大地震)の前触れではないことを祈りますが、想像力は活かしておかなければ……

●テレビドラマ「日本沈没」が10月スタート

 「吉備高原」の本文で触れましたが、小松左京原作の「日本沈没」がTBSテレビドラマとなって10月から始まります。「日本沈没」は海外ではよく見られるドキュドラマ(ドキュメンタリ・タッチのドラマ)の素材としてもおもしろく、危機管理と同時に、最新の科学的な知見が織り込まれれば、さらに楽しめるので、ちょっと期待しています。

●改めて、「地球温暖化」を「地球炎熱化」or「地球ヒートドーム化」に

 IPCCの評価報告書第1弾が公表されました。いずれこの報告書については特別企画で取り上げますが、本号では紙面の都合で簡単に触れました。
 前号のこの欄で「地球温暖化」は気候変動の用語としては生やさしい、ゆるい、「地球炎熱化」あるいは「地球ヒートドーム化」といったインパクトのある用語に変えたほうがいいと書いたら、読者から「賛成!」のお声をいただきました。

 防災メディアとしてこの提言をしつこく続けることで社会が動けば……と思っています。ちなみに地球温暖化は英語でも「Global Warming」です(日本語はその翻訳?)。世界も動かさないといけませんね……

   (M. T. 記)


「火災積乱雲」が形成される仕組み(カナダ・ヴィクトリア州気象局資料より)

■《Bosai Plus》第263号・2021年08月01日号発行!(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●「地球温暖化」を言い換え「地球炎熱化」or「地球ヒートドーム化」に

 猛暑の頻度や深刻さは、気候変動によって増していると言われます。気候モデルによっては、来世紀には地球上の広範囲が人間の居住に適さなくなると予想されているそうです。

 日本社会は「SDGs」(エス・ディ・ジーズ=持続可能な開発目標)をファッショナブルな流行語として、たちまち”消費サイクル”に組み込んでしまった観があります。しかし、気候変動も地球温暖化も持続可能な開発も、事態はもっともっとさらに深刻化してはいないか。

 温暖化やSDGsについては真摯な(科学的な)懐疑論も聞かれます。
 いっぽう、防災は本質的には最悪想定に立って災害対策を考えますが、地球環境について、政治家や社会的な影響力のある財界・各界の有識者、社会運動家などは、正常化の偏見に陥ってはいないか。私たち(彼ら)の子ども、孫、さらにはその子どもたちが生きる世界への想像力に欠けてはいないでしょうか。

 本号の話題「気候変動」はそもそも北海道で続く猛暑日から発想されました。(世界を)見回してみると、7月はヨーロッパの洪水、中国での1時間雨量200ミリ(と伝えられる)大雨洪水、北米の異常高温、そして森林火災のニュースであふれていた……
 これはまさに気候変動の”顕在化”ではないか、というのがきっかけです。

 本紙はもともと「地球温暖化」は気候変動の用語としては生やさしい、ゆるい、と思っていました。「地球炎熱化」あるいは本文で触れた「地球ヒートドーム化」といったインパクトのある用語に変えたほうがいいと思っています。

●「心配はない」――安心情報(の発信)は、要注意

 7月27日夕に菅首相がぶら下がり会見でコロナ感染拡大による五輪への影響について「人流は減少している。心配はない」と断言するのをテレビ報道で見ました。
 (政治的立場は別にして)思わず筆者は「言いましたよね!、言いました!」とテレビに向かって念押ししました。
 その翌日から東京での感染者数はうなぎ登りに記録更新中です(五輪競技の記録更新と張り合うがごとく)。

 防災・危機管理関係者ならば、「安心情報の発信は要注意」であることを知っているはずですが……そして3日後、何度目かの6都府県への緊急事態宣言に追い込まれることになりました。
 その記者会見では「(宣言が)最後となる覚悟で」とのこと。その何度目かの「覚悟」がいずれまた、問われることになるのでしょう。
 (あくまで危機管理の視点からの小紙の雑感です)

   (M. T. 記)


7月3日午前、静岡県熱海市の伊豆山(いずさん)地区で大規模な土砂崩れが発生し、約130軒の住宅や車が土砂に流され、土石流は相模湾にまで達した。7月14日現在、11人の死亡が確認され、17人の安否が分かっていない。上画像は、国土地理院地図より、熱海市伊豆山地区における「梅雨前線に伴う大雨による崩壊地等分布図(第3報)」(集水域あり)より。国土地理院が2021年7月6日に撮影した空中写真から、地山・土砂が見えている部分を判読したもの(崩壊地の位置を把握するための資料で、人家等に被害のない箇所もプロットしたもの)

■《Bosai Plus》第262号・2021年07月15日号発行!
同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●自然災害の不条理と人災

 熱海市は、市域内はほとんどが丘陵で、相模灘に面して眺望がいいことと温泉も豊富なことから、別荘地・首都圏の奥座敷として発展しました。一般住宅も高台に密集して建ちますが、勾配の急な坂が多く、海岸線も後背地はすぐに丘となる所がほとんどです。

 そうした地理的・文化的な条件が、結果的には(必然的に?)大規模な土砂災害を引き起こす要因になりました。その熱海市の伊豆山地区で土石流が発生、大勢の命が犠牲となり、多くの住宅・家財が被災してしまいました。
 被災されたみなさまには心からお悔やみ、お見舞いを申し上げます。

 ただ、いっぽうで、土石流が流下したルートは静岡市のハザードマップ上の「土石流危険渓流」エリアとほぼ重なる場所だったという厳然たる事実があります。自然災害は、人間の営みが自然のハザード(力)の影響を受けるときに起こります。いつ打つかわからない自然の寝返りの”際(きわ)”に人間の営みがあるとき、その寝返りにつぶされたとして、それは災害、あるいは不条理とは言えないのではないでしょうか。

 まさにこの場所は”土石流が流下する危険渓流”の際(きわ)だった。その直接の原因が大量の雨を含んで崩れた規制違反の盛り土だったとしても、「危険渓流沿いにつくられたまち」の被災であること、つまり住民のみなさんには酷な言い方ですが、この災害像には”人災”の様相が濃いことを直視すべきかと思います。

●「熱中症警戒アラート」に「緊急安全確保」の備えを

 ここ2週間ほど、米国西部が熱波に見舞われています。日本の大雨もそうですが、気候変動により今後、大雨・猛暑の頻度や深刻さはさらに増すことが予想されるそうです。
 MITテクノロジーという米国科学誌が「人間の耐えられる暑さの限度とは?」という記事を配信しています。
 MIT TECH:猛暑襲来、人間の耐えられる暑さの限度とは?

 「恒温動物の哺乳類である人間の体温は、常に37度前後。人体は、だいたいこの体温で適切に機能するようになっており、熱損失と熱利得の間に一定のバランスが保たれている」、「人体が熱を迅速に発散できなくなると支障が出始める。中核温(体の内部の安定した体温)が上昇しすぎると、臓器から酵素にいたるすべてのものが機能しなくなることがある。猛暑は腎臓や心臓だけでなく、脳にも深刻な影響を与えることがある」……

 気象庁と環境省は「熱中症警戒アラート」の運用を本年4月末から全国で開始しています。「熱中症警戒アラート」は「暑さ指数33以上」(気温とは異なる)と予測した場合に発表されます。
 熱中症の危険性が極めて高い暑熱環境が予測される場合に暑さへの「気づき」を呼びかけ、国民の熱中症予防行動を効果的に促すものです。

 いよいよ各地、梅雨明けとともに熱い夏を迎えます。「猛暑は腎臓や心臓だけでなく脳にも深刻な影響を与えることがある」――気づかないうちに熱中症に!?
 ――とくにコロナ禍のなか、お互い要注意です!

   (M. T. 記)


東京下町の低地の地下の埋没谷形状(産総研資料より)。産業技術総合研究所(産総研)研究グループが、東京都心部の地下地質構造を3次元で立体的に見せる次世代地質図「3次元地質地盤図~東京23区版~」を公表した。3次元地質地盤図は、だれでも閲覧でき、東京23区の地震ハザードマップや都市インフラ整備などで活用されることが期待される。いっぽう、衛星や地図情報を組み合わせた新しい防災情報サービスを、地図情報のゼンリンや衛星放送スカパーJSAT、建設コンサルタント・日本工営が始めた。防災・減災テクノロジーの新ステージだ

■《Bosai Plus》第261号・2021年07月01日号発行!
同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●防災テクノロジーの新ステージ

 いろいろ課題はありそうですが、国の「DX」化推進・デジタル庁発足に合わせ、多方面の分野でデジタル化が一気に進みそうです。
 本紙前号で予告したとおり、本号から国の新防災強靭化に向けた「1WG+4チーム」の提言概要をシリーズで紹介していきますが、その第1弾は「デジタル防災(未来構想/社会実装)」としました。

 そして巻頭特別企画は、いわばデジタル防災テクノロジー新時代を迎える兆しとしての「地質・地盤」”深掘り”の話題と、衛星を活用した防災・被害想定の試みを取り上げました。
 「東京都心部(23区)3次元地質地盤図」によると、23区東端の江戸川区小岩エリアは一般的には地盤が軟弱と思われていますが、意外に埋没谷の上にはなく、地質地盤は決して悪くないのだそうです。

 地震動は地盤の影響を受けるので、建物敷地周辺の地盤構造を知ることが重要です。「3次元地質地盤図」ではボーリングデータの深さは深いところで100mのようですが、超高層ビルが林立する埋立地エリアの長周期地震動などの発生・影響はどうなんでしょう。専門家の知見が待たれます。

●お待たせしました、「防災用語ウェブサイト」(水害・土砂災害)がオープン

 本紙6月1日号(No. 259)の巻頭企画で取り上げた「防災用語ウェブサイト」は、運営する国土交通省情報によれば”出水期までに公開”とのことでしたので、本紙では同情報の近刊号での掲載予告をしていましたが、本号発行直前の6月30日に公表・公開されました。
 次号でその詳細を詳細紹介予定ですので、ご了承ください。
 なお、同サイトのアドレスは下記となります――

防災用語ウェブサイト(水害・土砂災害)
https://www.river.go.jp/kawabou/glossary/pc/top

●新耐震基準施行から40年 新・新耐震基準は?

 新耐震基準は1981年6月1日に導入されていて、わが国の地震防災はこの新耐震基準に沿う建物とすること、旧耐震基準建物をなくすことに精力を注いできました。しかし、初期の耐震基準で建てられた建物も40年を経て老朽化してきたのではないでしょうか。
 国のデータによれば、”耐震化”(新耐震基準化)した建物は8割、9割となっていますが、40年を経て、耐震基準設計の更新も必要ではないでしょうか。

 防災関係者やメディアから、新耐震基準施行から40年という”問題意識”があまり聞かれませんが、耐震基準が「最低基準」であっていいのかという問題も含めて、事前防災の”理念”を踏まえた再設計が必要ではないでしょうか。

●忙中閑話

 巻頭企画で取り上げた衛星防災情報の日本工営が会員になっている建設コンサルタンツ協会が「土木×落語」を創作したという話題。一般のみなさんに「土木」に関心を持っていただき、知っていただくための企画だそうです。
 下記サイトで「土木×落語」をお楽しみいただけます。
https://www.n-koei.co.jp/news/document.html?year=2021&id=20210424-abf92e07

   (M. T. 記)


「防災強靭化 新時代」への提言公表

■《Bosai Plus》第260号・2021年06月15日号発行!
同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●国土強靭化 新時代へ 道はなかなか険しい

 本号特別企画は、これまで中間報告として報じてきた5つの有識者検討会(1WG+4チーム)報告書の一括公開(全5件)の話題。いずれも本紙にとっては重要なテーマで、本紙の限られた紙面スペースではすべての内容紹介ができないので、今後、数回に分けて取り上げさせていただきます。

 この検討会座長が連名で公開した「前書き」の冒頭部分は、この種の報告書としてはなかなか”文学的な印象”で、みなさまにもぜひご一読をお薦めしておきます。
 なお、この「前書き」には、防災・減災に向けた長い・大きな取組みのなかでは、今回の報告書自体も中間報告のようなもの、とあります。
 大規模災害への切迫感・危機感と同時に、焦燥感も感じとれる「前書き」です。

●内閣府「防災女子の会」の提言 男子はしっかり受け止めたい

 「国土強靭化 新時代」構想とは直接関係しませんが、「防災女子の会」も時期を同じくして発足し、ほぼ同時に防災担当大臣に手交された提言にも本紙は注目しました。
 というのも女子の会提言の冒頭部分の”書きぶり”が、前述の検討会座長連名「前書き」と呼応するからです。しかも、座長連名が「……だからこそ国民の総力を挙げて立ち向かいたい……」としたのを受けて、女子の会は”甘い!”と叱咤するように、「現実は理想とは程遠いのではないだろうか」と厳しい見方を示しています。

 わが国の男女格差の根は深そうで、防災女子の闘いは始まったばかり。グラスシーリングならぬ強靭なコンクリートの壁が立ちはだかっていそう。
 本紙はその闘いを応援します。

●国が高齢者向けスマホ講習会? 希望者へのスマホ無料支給が先では?

 本号「BOSAI TIDBITS」でスマホの防災活用の話題を取り上げました。スマホは防災情報伝達の重要なツールとして欠かせないものになりました。

 ワクチン予約での混乱(それ以前に、わが国のデジタル化の周回遅れ)もあって、国はばたばたと「DX化」(デジタルトランスフォーメーション)を急いでいます。いまさらの観がありますが、総務省は高齢者向けにスマホ講習会を全国展開するそうです。
 しかし、そのターゲットの高齢者の身になってみると、講習会よりもスマホ本体の無料支給と通信料の補助が先じゃないかと……そもそも高齢者はスマホを持っていませんから。

   (M. T. 記)


防災用語ウェブサイトの「洪水」の例

■《Bosai Plus》第259号・2021年06月01日号発行!
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●『防災用語ウェブサイト』の公開は現時点で未定

 本号の特別企画『防災用語ウェブサイト』は、本紙の”見込み”で巻頭企画に持ってきたものです。検討会の提言は「6月からの出水期に併せて」インタネット上に開設」とのことでした。
 国土交通省担当部署に開設時期を問い合わせたところ、まだ制作中で開設日などは未定とのこと。開設され次第、本紙でもご案内させていただくこととします。

 ちなみに、国土交通省検討会は防災情報(用語)の認識・理解について国・自治体と報道機関の間での共有が重要で、それをもとに住民に伝えていく、とありますが、当然、その情報伝達の仲介者として防災士など地域防災活動家がいます。
 そういう地域防災活動家、自主防災にとっても、防災用語の認識・理解・共有は重要との考えから本紙はこれを巻頭に取り上げました。

●次号予告に代えて……

 本紙特別企画テーマ確定直後の5月25日に、国は「防災・減災、国土強靱化新時代の実現のための提言」を公表しました。これは本紙が最近号で取り上げてきた「自然災害に備える3WG(ワーキンググループ)」の総まとめです。

 本来であればこのテーマで本号の特別企画を構成するところですが、今回ややタイミングがずれましたので、次号で取り上げる(予定)とさせていただきます。
 その”予告編”として、同提言のなかの「防災・減災、国土強靱化 WG・チーム提言 前書き」にある下記の文章をご紹介します。

 直接死も関連死もなくしたい。
 この思いで提言する。
 本当につらいことは津波のように一瞬で我々を飲み込みほとんど何もさせてくれない。
 言うまでもなく巨大自然災害への対応は人間にとって極限状況になる。
 だからこそ国民の総力を挙げて立ち向かいたいと思う……

●新型コロナウイルスは地球を周遊し周回を繰り返す?

 コロナ禍がなかなか収束に向かいません。個人的には、イメージとして、コロナウイルスは津波のように自律的に地球を周遊し周回を繰り返すのではないのかと。

 ひるがえって、宮城県がまん延防止規制解除になった理由・背景の検証が行われているのでしょうか。ある規模の都市での”成功例”を徹底的に検証せずに(少なくとも成功例として政府・専門家・マスメディアが取り上げることなく)、都市部の感染対策が漫然と延長されることに疑問を感じています。

●忙中閑話

 民間放送各社の労働組合でつくる民放労連女性協議会が全国の民放テレビ局127社の女性割合を調査した結果――女性役員がいない民放テレビ局は91社(全体の71.7%)、役員の女性割合は全体で2.2%!

 大阪市議会で本会議中の大地震を想定した防災訓練で、議員がタブレット端末で天井からの落下物から頭を守りながらの避難! たしか国会は最近、ヘルメットを用意しているはず……

 ちなみに本紙はこれまでくどいほど、地震発生時に放送されるNHK各地方局オフィス・スタッフの対応行動について、「まずはヘルメット着用」を訴えています(ロールモデルとしても!)

 朝日新聞「朝日川柳」より――
 トーチ泣く この火なんの火不思議な火(大阪府 和泉悦代)

   (M. T. 記)


■《Bosai Plus》第258号・2021年05月15日号発行!
同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

●「防災3WG」への期待(邪期待?)

 本号特別企画は、昨年末に小此木内閣府特命担当大臣が記者会見で発表した3つのワーキンググループ(以下「WG」)の、これまで5カ月間の進捗状況(概要)を紹介しました。

 概要とまでも言えないおおざっぱな内容ですが、ここはあえてこういうWGがいま作業中という情報提供にとどめています。それぞれのWGのホームページにリンクを貼りましたので、恐縮ですが、さらに詳しくはそちらをご覧ください。
 各WGとも、6月をめどにとりまとめを行う予定のようですので、その段階で(7月ごろ)本紙も改めて取り上げたいと思います。

 本文で触れましたが、「防災DX(デジタル化)」も「事前防災・複合災害」も「防災教育・啓発」も、私たち防災にかかわる者にはとても関心の深いテーマであるだけに、期待は大きいものがあります。
 とくに近年は、デジタル化、ジェンダーに加えて、感染症がらみでの危機管理・差別・風評被害などの問題が浮上していますが、これらはそのまま防災の課題でもあり、とても”ひとごと”ではありません。

 「デジタル防災技術(社会実装)WG」の資料に「ベース・レジストリ」という用語が出てきます。これは”社会のあらゆる基本データ”と理解すればいいようですが、これを「いつでも防災にも使えるように整備」することをめざすようです。

 以前、国は「災害情報の標準化」を合言葉にしていましたが、それが一挙に災害(防災)の垣根をとり払って、”情報全方面化”による防災体系の構築をめざすということでしょうか。
 こうした課題を考えるとき、現状の縦割り行政は論外、逆に”ベース防災”として、司令塔としての「防災省(庁)」の創設が、論理的必然として浮上すると思うのですが。

●「君は君、僕は僕、されど仲良き」

 報道によると、立憲民主党の安住淳国会対策委員長と共産党の穀田恵二国対委員長が会談して選挙協力も含めて今後も連携を深めていくことを確認。その際、安住氏が「それぞれの違いは理解しながら、武者小路実篤じゃないけど、『君は君、僕は僕、されど仲良き』」と述べたそう。
 政治的な話・立場は別として、「君は君、僕は僕、されど仲良き」――”多様性容認”を表すのにいい言葉じゃないですか?

   (M. T. 記)


■《Bosai Plus》第257号・2021年05月01日号発行!
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●ある連想――「線状降水帯」⇒「常在戦場」⇒「常在防災」

 気象庁によれば、「線状降水帯」は「非常に激しい雨が同じ場所で降り続いている状況を表す」用語として社会に浸透しつつあるということで、今回の新たな防災気象情報となる「顕著な大雨に関する情報」のキーワードとなっています。

 「線状降水帯」は、(ムリクリですが)よく政治家や社長さんが言う「常在戦場」と語呂が似ています。「常在戦場」は「いつも戦場にいる気持ちで事に当たる」という意味で、多くの四字熟語が中国の古典由来であるのに対して、「常在戦場」は日本発祥の四字熟語で、長岡藩牧野氏の家風として伝えられてきた成句だそうです。

 「線状降水帯」は気象庁の予報用語ですが、近年、「線状降水帯」由来の大雨災害が頻発してメディアがそのメカニズムを解説しながらもそのまま使ったことで、私たちにもおなじみの用語になりました。
 専門的な用語が浸透して私たちになじめば、それはそれでいいのですが、新しい防災気象情報として「顕著な大雨に関する情報」が登場して、それが「線状降水帯」の発生を確認したときに発表……となると、ややこしい。

 本号で「防災気象情報の伝え方に関する検討会」が検討結果をとりまとめたことをリポートしましたが、本紙校了直前とあって、またその検討結果の内容がよくわからなかったこともあって(!)、リンクだけ貼っておきました(ごめんなさい)。
 この検討会、報告書「概要」に<中長期的な検討事項>として「警戒レベルを軸としたシンプルでわかりやすい防災気象情報体系へ整理・統合」をあげていますが、あれ? それこそが喫緊の検討課題ではなかったのか?……

 いずれにしても、防災気象情報のわかりにくさは変わらないように思います。ただ、「キキクル」はわかりやすい。要は「危機来た!」とわかって、情報の受け手がどう「避難行動をとるか」ですね。
 「常在防災」で行きたいものです。

●防災力向上に資する「地理」の必修化 知識・知恵の備蓄

 来春から高校の授業に「地理」が必修化されるそう。ほぼ半世紀ぶりの復活ということで、国内外で相次ぐ大規模災害や南海トラフ巨大地震に備え、一人ひとりの防災意識やその実践力を高める狙いもあるそうです。
 「21世紀は災害の世紀」――現在の青少年、子どもたちがわが国を担う成人となる頃までに想定巨大災害が起こりそう……知識・知恵の備蓄も必要です。

   (M. T. 記)


「百年防災社」HPより、オンライン受援訓練の様子
「百年防災社」HPより、オンライン受援訓練の様子

■《Bosai Plus》第256号・2021年04月15日号発行!
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●女性が活躍できないわが国は、”後進国”になる……いいの?

 本号巻頭企画は「女性主宰」グループの防災活動事例を取り上げました。国が先進事例として紹介するものとは趣きが異なるかもしれませんが、防災分野の男女共同参画の最近の事例として見ていただければと思います。

 内閣府男女共同参画局の活動理念は高く評価され、防災分野での施策もいろいろ打ち出されていますが、それがなかなか、ほかの分野同様、社会に反映されません。
 同局が最近まとめた「男女平等と投資パフォーマンスの向上を同時にめざすジェンダー投資」によると、「投資顧問会社や生命保険会社などの機関投資家の過半数が、投資の際に女性の役員・管理職比率といった女性の活躍にかかわる情報に注目している」とのこと。

 調査結果では、投資判断に際し、女性の活躍についての情報を採り入れている機関が過半数を占めたいっぽう、幹部の比率だけでなく、すべての階層での比率、男女平等を職場で進めるための人事方針、具体的な目標といったさらなる情報の開示を求める声もあがっているそうです。
 そして、役員の女性比率が高い企業のほうが、ROE(自己資本利益率)が高いという調査結果もあり、ジェンダー投資は欧米を中心に広がっているとのこと。

 わが国は現与党を中心に経済成長率を高めることを”国是”として国策運営を行ってきた印象があります。男女共同参画が経済成長を促すということであれば、政策も一気呵成にそちらに舵を切りそうですが、なかなかそうはいかないのはなぜ?

 経団連の「副会長」に初めて女性が就いたとの華々しい(?)報道がありましたが、経団連副会長は20人もいる(しかも2人増やしたうちの1人が女性)ということをメディアはあまり伝えていません。マスメディアの責任も大きいものがあります。

 筆者(男)も反省するところは多々ありますが、わが国の男女格差の根本的な原因は詰まるところ「男の利権死守」という経済的・構造的な問題にありそう。
 女がその牙城崩しに自ら挑むのはなかなかむずかしそうですが、牙城がこのまま”不落城”だと日本は近い将来、後進国に甘んじることになるのでしょう……いえ、もしかすると、世界遺産レベルの”ガラパゴス国家”として観光立国?

●忙中閑和――非常食に「ポテチ」

 東京都板橋区は湖池屋や東京家政大学と連携して、災害時の非常食としてポテトチップスを活用するよう区民に呼びかけるそうです。ポテトチップスの賞味期限は6カ月間あり保存性が高いことから、非常食の備蓄を手軽に始めるきっかけにしてもらうとのこと。
 あ、そのローリングストックなら、もうやってます?

   (M. T. 記)


「IAA PDC 2021」はオーストリア・ウィーンで来たる4月26日~30日に開催される。小惑星や彗星のような太陽系小天体の地球衝突問題がテーマの国際会議で、そのホームページに開催日までのカウントダウンが掲載され”臨戦感”を演出している

■《Bosai Plus》第255号・2021年04月01日号発行!
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●『リップル〜もしも○○が起こるとしたら?〜』

 NHK総合テレビで3月23日放送の『リップル〜もしも○○が起こるとしたら?』は「小惑星が衝突したら……」という想定外がテーマのバラエティ番組。防災上、想定外が大きなテーマでもある本紙は必見だと思い、ビデオも録りました。

 番組では小惑星は日本のどこかに衝突するという設定、しかもそれほど規模は大きくないので、内陸直下地震の想定と同じようなもの。ゲストたちが考える対策・想定も、地震対策とほぼ共通するもののようで、やや肩透かしでした。

 本文でも触れましたが、小惑星の地球衝突リスクについては国際的な科学者の共同研究も行われており、それを紹介する、あるいは映画「アルマゲドン」のような日本や地球存亡の危機に、あなたはどうするかを議論したほうがおもしろかったのでは、と思います。

 私見では、ディザスター映画は想像力をバネに科学を跳び越え、災害の不条理性を暴くところにその本質があると思っています。同時に自然の脅威下で、人間の行動規範(愛、正義、勇気、誇りなど)、危機管理手法(情報管理、分析、リーダーシップ、行動力など)をRPG的に検証し得るところに深みがあります。

 最先端科学の知見を踏まえたプロットと高度なCGを駆使して自然の脅威を大型スクリーンいっぱいに展開するディザスター映画は、映画のカテゴリーとしてはもちろん、想定外への想像力を養う防災教材としても注目していいのではないでしょうか。

●トヨタ「Woven City(ウーブン・シティ)」の降灰対策が知りたい

 トヨタが、富士山麓・静岡県裾野市の自社工場の跡地を利用して、最先端技術を集約した「Woven City(ウーブン・シティ)」というまちづくりを始めました。
 本号で富士山火山噴火想定の改定の話題を取り上げましたが、トヨタのこのまちづくり構想に富士山噴火想定・火山災害対策は組み込まれているのでしょうか。
 当然、想定はされているのでしょうが、とくにデジタル都市の降灰対策などは興味深いところ、いずれ取り上げたいと思っています。

 なお、トヨタのこの試みはわが国では斬新な試みとして注目されていますが、本紙は2015年10月に、米国での似たような先行事例「CITE」(the Center for Innovation, Testing and Evaluation)を紹介しました。米国中西部ニューメキシコ州の砂漠地帯に人口3万5000人規模を想定した先端技術を装備した小都市をつくろうというものですが、5年を経ていまのところ具体的な進捗はないようです。

 本紙は本号でも「防災省創設」を”推し”ましたが、その本部の立地は日本のどこかまっさらな地に求め、ゼロから防災モデル都市づくりを始めてみるというのはいかがでしょうか。

   (M. T. 記)


東京電力報告書より「福島第一原子力発電所における津波の再現計算結果(浸水深および浸水域)」
東京電力報告書より「福島第一原子力発電所における津波の再現計算結果(浸水深および浸水域)」

■《Bosai Plus》第254号・2021年03月15日号発行!
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●災害周年/周年災害

 ひと月前の2月13日の福島県沖地震で脳裏をめぐったものは「津波」と「F1」でした。2011.3.11以来、大きな地震の発生速報を目にするたびに、この2つが脳裏を横切ります。それは「だれしも……」でしょう。そして東日本大震災から10年となる2021.3.11を迎えました。

 「災害周年」は、単に”あれから何年”ではありません。記憶の風化、実感の風化は避けられないとしても、”あれから何年”を機に、それぞれがなんらかのかたちであの日の災害記憶・実感の更新を試みる、あるいは記録から災害の実像を想像してみる、災害死者・被災者に思いをいたす――それが教訓としての災害周年の意味かと思います。
 防災情報新聞の「周年災害」はその意味で、大変価値のあるアーカイブだと思っています。

●危機管理、彼我の差

 本号トップ企画記事で取り上げた「柏崎刈羽原発で社員が他人のIDカードを使って不正に中央制御室に入った」問題――
 本稿筆者が反射的に思い浮かべたことは、わが国では銀行窓口周辺では警備員は表には出ず、腰の低い懇切丁寧なホテルのコンシェルジュのようなスタッフが客の応対をするけれども、米国では警備員はむしろ目立たなければならない存在で、威圧的に客を睥睨(へいげい)するということ――

 危機管理のあり方、その“思想”にこれだけの彼我の差があるということ。わが国の危機管理は、「厳格な警備業務を行い難い協調・同調圧力志向の風土」から脱却できるのでしょうか。

 いっぽう、原発災害を中心とした福島県の公立展示施設「東日本大震災・原子力災害伝承館」(福島県双葉町)の展示内容について、原発事故の負の側面――事故前の備えの不足や原発の安全神話に対する教訓部分が乏しいとの指摘が多く、見直されるということです。
 国の予算を使って県が運営する原子力災害伝承館、ここだけは”忖度”があったとは考えたくないところです。

●忙中閑話

 国家公務員試験 出題予想の漢字――忖度、収賄 更迭
 (朝日新聞「かたえくぼ」和光・やかんかやさんの投稿より)

   (M. T. 記)


津波浸水想定「ここまで」の致命的錯誤
津波浸水想定「ここまで」の致命的錯誤

■《Bosai Plus》第253号・2021年03月01日号発行!
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●東日本大震災から10年 本紙と提携紙のアーカイブに注目を

 本号は「東日本大震災から10年・特別構成」で10ページ建てになっています。
 災害を「周年」ごとに思い起こし、犠牲者を供養・追悼する意味ではもちろん、防災の視点からもその記憶を更新し、次の災害に備えて検(あらた)める(=検証する)ことは大きな意味のあることだと確信しています。

 本紙が共同編集する「防災イベント 2カ月カレンダー/その日起こった災害 付き」はその意味でも大変高いご評価をいただいています(ただいま新サイトへ移転のため「工事中」。しばらくお待ちください)。

 防災情報新聞の「周年災害」は、わが国の災害史について、発生年の「10年単位」で過去の大災害や特異災害、防災関連の施策の概要などをアーカイブ化し、継続して更新するという膨大な情報量を有するアーカイブです。
 この「周年災害」を2005年から連載・更新してきた山田征男氏が東日本大震災10年を機に、「周年災害~東日本大震災から10年」を書下ろしました。

 本紙は紙面に限りがありその一部の転載になりましたが、WEB防災情報新聞には全文が掲載されますので(3月5日アップ予定)、ぜひ本紙と併せてご覧ください。なお、今回の本紙掲載分はは第1部で、第2部は「福島原発事故」、本紙では次号で掲載予定です。

 山田氏はこの「周年災害」をベースに、「日本の災害・防災年表」を7つの災害カテゴリでまとめていて(こちらも常時更新)、これもわが国最大級の情報量を誇るアーカイブに成長していますので、みなさまの参考資料にしていただければと思います。

>>WEB防災情報新聞:日本の災害・防災年表

●「3.11」を「防災教育と災害伝承の日」に

 東日本大震災が発生した3月11日を「防災教育と災害伝承の日」に制定しようと、今村文彦・東北大災害科学国際研究所所長を代表呼びかけ人として、私たちにはおなじみの5人の防災有識者が、賛同者の募集を始めました(本紙 P. 2 参照)。

 阪神・淡路大震災の発災日「1.17」が「防災とボランティアの日」になったように、「3.11」を「防災教育と災害伝承の日」に、というもの。みなさまも賛同者として登録されてはいかがでしょう(本紙は登録済み)。
 近刊号でその動向の続報を予定しています。

   (M. T. 記)


■《Bosai Plus》第252号・2021年02月15日号発行!
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●福島県沖地震 M7.3 低頻度大規模災害が頻発の予感

 2月13日午後11時過ぎの福島県沖地震 M7.3に、だれしも「2011年 東北地方太平洋沖地震」(東日本大震災)”デジャヴ(既視感)”を味わったことと思います。「東日本大震災10年」のほぼひと月前で、改めて私たちに自然災害の不条理への”覚醒”を促すような地震でした。

 本号校了直前の大地震でもあり、編集企画の変更も迫られました。本号ではたまたま、挑戦的な研究開発「ムーンショット」(P. 2参照)を巻頭企画に予定していましたが、ボリュームを縮小しての掲載になりました。

 「ムーンショット」は2050年ごろまでを展望する長期プロジェクトで、「破壊的イノベーションの創出による困難な社会問題の解決」を華々しく打ち出しているので、当然、防災分野(減災)も主要なテーマになることを期待しているのですが、どうやら”デジタル技術”そのものを目的化したプロジェクトのようで、”羊頭狗肉”の感があります。

 その意味で、今回の地震はたまたま逆説的に「ムーンショット」の限界を浮き彫りにしたのかもしれません。2050年までにはおそらく間違いなく何度か経験するであろう大規模広域災害――さらなる日本海溝沿いの巨大地震、そして南海トラフ巨大地震、首都直下地震、不意の内陸活断層地震など――への課題解決という視点は「ムーンショット」にはどうやらないようです。
 そうであれば、本号の「福島県沖地震・速報」と「ムーンショット」の抱き合わせ企画は、皮肉にも的を射ているのかも。

 いずれにしても、自然災害リスクは虎視眈々と私たちの生活のかたわらに伏してスキを狙っていて、その脅威を嗅覚で予感せよと、私たちを促すかのようでもあります。

●コロナ禍で、改めてスポットライトを浴びる濱口梧陵

 濱口梧陵さん(本号P. 3-4)は、防災のほかにもいろいろ大きな社会貢献をされました。防災意識が日常生活の主流であればこそ、「防疫」にも「人材教育」にも気が回るということでしょう。
 梧陵さんのもうひとつの顔、ぜひ知っておいていただきたいと思います。

●《Bosai Plus》ホームページ、「防災イベント 2カ月カレンダー」サイトの再開、依然「工事中」です。いましばらくお待ちくださいますように。

   (M. T. 記)


■《Bosai Plus》第251号・2021年02月01日号発行!
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●攻めるオンライン防災広報――”総合的・俯瞰的”広報に期待

 本号特別企画は「オンライン防災広報」――コロナ禍の「ニューノーマル」は、社会、そして国のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の大波とも重なって、社会的な大変革をもたらそうとしています。その例に漏れないのが「防災分野のDX化」です。

 本紙は昨年10月15日号(No. 244)で「コロナ禍の防災見本市」を取り上げました。防災は言うまでもなく「不要不急」の対極にあり、防災・減災対策に遅滞は許されない――という趣旨で、リアル会場での実施・開催のあり方、ノウハウの事例を取り上げ、あるいはオンライン開催といった”新しい様式”での開催を模索するケースを紹介しました。

 本号では政府広報活動のポータルサイト「チームNEXTステップ」開設を機に、続編ともなる「防災啓発・教育・研究」分野での各種広報・イベントのオンライン化動向・事例を探り、期待も込めて”攻めるオンライン防災”としました。

 ただ、広報はあくまで広報ですから、広報主体の主張・見解が前面に打ち出されるものです。情報の受け手としては、それこそ”総合的・俯瞰的に”受けとめ、それぞれの是々非々の視点も必要かと思われます。

 今回は紙面制約の都合で触れられませんでしたが、学会系や民間系の防災サイトでもオンラインでの広報、シンポジウム公開などが盛んです。いずれまた、こうした動向も取り上げたいと思っています。

   (M. T. 記)


■《Bosai Plus》第250号・2021年01月15日号発行!


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●「女性視点」の防災は、「女性視点」のみに矮小化されてはいけない……

 いま国は、2021年度「男女共同参画週間(6月23日〜29日)」のキャッチフレーズを募集中(1月12日~2月26日)です。これにちなんでというわけでもないのですが、本号特別企画は、「女性視点の災害対応力強化」。そのサブタイトルを「ことさら女性視点は変、男女協働防災が”初期設定”」としたのはキャッチフレーズ応募候補作としていかがか……というつもりもあります。
 冗談はともかく、本企画趣旨は、男女共同参画局公表の「災害対応力を強化する女性の視点 ~男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン~」の紹介にあります。

 ただ以前、本欄で書きましたが、避難所運営の改善などで唱えられた「女性視点の防災」は、ややもすれば、男性視点での女性視点ではないか……という、やや、ややこしい(笑)異論も交えました。

 つまり本来、防災は「男女協働」であって、女性の属性に基づく「女性視点」(例えば女性専用更衣室や授乳室の必要など)ではなく、防災施策・方針決定などについて全般的な発言力を認める、「男女を問わない視点」扱いとしての「女性の視点」が出発点にあるはずだということ。
 その意味では、都道府県防災会議をはじめ自主防災の運営幹部会などに女性が少ない、男性偏在であるということは、”あるべき防災”ではないと思っています。

 極論ですが、国会議員をクオーター制どころか全部女性にしよう……という有識者(男性)の提言を聞いたことがあります。そうなったら確かに世界が変わるでしょうね、しかも、いい方向に。

●自治体のみなさんは「防災省」設置に賛成?

 防災から復旧・復興までを担う「防災省」は必要か――共同通信のアンケート調査によると、全国自治体の61.4%は、災害の備えから復興までを一手に担う国の専門機関「防災省」が必要と考えていることが分かったそうです。
 その理由として多くが、防災業務が複数省庁に分散する縦割り行政の弊害を指摘したそう……本紙も同感です。
>>共同通信(1月10日付け):「防災省」設置必要、61% 縦割り弊害指摘

   (M. T. 記)




■《Bosai Plus》第249号・2021年01月01日号発行!
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●明けましておめでとうございます

 2021年=令和3年の年明けです。
 旧年中は新型コロナウイルス感染症蔓延の年となり、まさに歴史的な災異の年となりました。
 読者のみなさまにおかれましては、新型コロナウイルスの影響やいかがかと案じております。くれぐれもご自愛のうえ、新しい年のご健勝とご多幸をお祈り申し上げます。
 そして、ニューノーマル20年代の始まりの年であればなおのこと、引き続き本紙をご愛読・ご支援たまわり、多難な時代により安全・安心社会をめざして、ご一緒に新たな一歩を踏み出す年とさせていただければ幸いに存じます。

Webブラウザで PLATEAU のCityGML(Geography Markup Language) データをプレビューできる「PLATEAU VIEW」
Webブラウザで PLATEAU のCityGML(Geography Markup Language) データをプレビューできる「PLATEAU VIEW」

●防災の近未来 向こう20年を”俯瞰”して

 AI(人工頭脳)やデジタル・ITの日進月歩ぶりは、日進月歩という旧世代の用語が通用しないくらいに先を行くものですが、逆に、社会の仕組みがそれに追いつかないという現実もあります。
 例えば、自動運転の車と車の運転が好きな人が自由意志で運転する車は、同じ走行車線で共存できるのでしょうか。自由意志で走る車(人)が自動運転車に対してあおり運転をしたらどうなるのでしょうか……

 本号で取り上げた「DX」はあくまで整合性のとれた仕組みのなかで効果が発揮されるものですが、人間がその回路にからむと複雑系の「DX」になるのでしょう。
 防災の「DX」も、イメージとしては「災害犠牲者ゼロ」がはるか遠くに究極の目標としてあって、それが北極星のように輝いて導いてくれれば、「DX」はそれをめざして試行錯誤しながらも近づいていくのでしょう。

 21世紀も5分の1が過ぎました。次の5分の1の20年間にはおそらく南海トラフ巨大地震、あるいは首都直下地震が起こるかと思われます。あるいは、両方が次の20年間に相次いで起こる可能性も高くなってきました。
 新年早々、縁起でもありませんが、警戒するに越したことはありません。次の20年はすでに始まっているのですから。

●忙中閑話 SPの危機管理の担当範囲は

 昨年末の菅首相らの会食に世論の批判が高まり、マスコミの論調はもっぱらご本人の責任を指摘しました。その批判は当然のこととして、その取り巻きの人たちの無神経さ(見識のなさ)を指摘する声は少なかったようです。
 あえて本紙に言わせてもらえば、危機管理の観点から、首相のSP(セキュリティポリス)が身体を張って首相の会食出席を阻むべきだったと思う次第……!

   (M. T. 記)


防災士認証登録者の推移(日本防災士機構HPより)

■《Bosai Plus》第248号・2020年12月15日号発行!
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●防災士になるー―「防災士研修講座」のすすめ

 本号巻頭企画は「防災士 累計20万人突破」というニュースを受けて「防災士」を支援する本紙として、感慨をもって防災士制度小史に触れてみました。

 私自身が防災士資格を取得したのは防災士の研修史から言えば比較的早い時期でしたが、実際に受講して、学ぶ(知る)歓びと言いますか、”目からうろこ”の知恵・知識を得る充実感を深く感じたことを思い出します。

 当時、阪神・淡路大震災の衝撃・記憶が風化とまでは言わないまでも、記憶は薄れがちで、防災への熱もそがれがちの風潮でした。私が防災士になったきっかけは防災士制度を推進する一翼である防災情報新聞に仕事としてかかわったことからですから、「防災士になる」ことは当然の帰結ではありました。
 しかし、それが単なる資格ではないことが、研修講座を受けることではっきりしました。防災士研修講座の内容(講義内容、講師陣、運営など)の充実ぶりに感じ入ったのです。

 たとえ理学や工学系の防災研究者でも、あるいは救命・救助のプロである消防官や警察官でも、例えば自主防災や被災者支援、復興の法的課題、災害史といった防災の別な側面では改めて勉強も必要です。
 防災士研修講座で用いる「防災士教本」を見ればわかるように、研修は”オールハザード”を扱い、防災について知っておくべき多方面・多様な知識・情報を、豊かな実践経験の裏づけを持つ講師から学ぶことができます。

 防災士は民間資格でもあり、必ずしも”就活”に効果があるとは思えません。しかし、あなた自身の、そして家族の、大切な人の「いのちと安全」に深くかかわる資格であることに疑いはなく、さらには「安全・安心な社会づくり」に役立つ資格、社会貢献の「志」を励ます資格だと、あえて断言しておきます。

   (M. T. 記)


東京都の「日常備蓄だよ!貝社員」触って楽しむクイズ動画より

■《Bosai Plus》第247号・2020年12月01日号発行!
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●「備蓄」は大切です! 「今やろう! 日常備蓄」

 本号巻頭企画で取り上げた東京都の「日常備蓄」は、備蓄に「日常」が付加された分、これまでの「備蓄」の考え方より新鮮、「新しい防災様式」として響きます。

 「備蓄」のなかでとくに食料について、以前は3日分の備蓄が推奨されていましたが、大規模広域災害が想定されるいまは、被災地ではなくても、生産・物流の寸断で食品・日用品が店頭からなくなる可能性があり、全国民的に(全国的に)最低1週間は必要というのが新常識になってきました。

 そこで近年では「ローリングストック」と呼ばれる備蓄様式が知られるようになってきました(余談ですが、英語で「Rolling Stock」は鉄道や貨物自動車などの車両のこと。備蓄様式の意味をあえて英語で表すならば”Stock Rolling”と語順が逆さまになります。いまでは国も和製英語を承知でこの「ローリングストック」を使っていますので、これで通すことにしましょう)。

 この「ローリングストック」(以下、「RS」)は通常、「普段の食事に利用する缶詰やレトルト食品などを備蓄食料とし、製造日の古いものから使い、使った分は新しく買い足して、常に一定量の備える備蓄法」とされています。
 ただ、いま広く「RS」として普及している方法はもっと緩く、日持ちのする食材を循環させるという程度の理解のようです(缶詰やレトルト食品の常備は必須ではない)。それだといざというときに、果たして1週間分の備蓄になるかどうか疑問が残ります。

●国が薦める「1週間食料備蓄法」

 「RS」の見本例としては、内閣府が推奨する以下の方法が1週間食料備蓄法”正統派RS”ということになりそうです。
 「普段からちょっと多めに食材を買い置きしておけば、最初の3日間は冷蔵庫にあるものを食べてしのげる。次の3日間は、RS食材でまかなう。それ以降は、乾物や発酵食品などの保存食やインスタントヌードル、フリーズドライ食品、チョコレートなどで乗り切る。調理方法(レシピ)もストックして、おいしい食の備えの完成」――
>>内閣府(防災担当):1週間を想定した工夫と備え

 ただし、ここまでで示されていない課題は、水道・電気・ガスなどインフラ途絶。冷蔵庫は夏場の停電でも締め切っておけば3日間ほどは持たせられるかもしれませんが食材の劣化に要注意。そして、調理には水とガスコンロ・ガスボンベのセットが要ります。家族構成によっては水だけでも相当な量になり、カセットボンベは国の備蓄法では買い置きは15~20本となって、保管スペースの確保も課題です。

●視点の転換――「地区備蓄」応援協定ってむずかしい?

 そこで、視点の転換――「食料備蓄」は基本的には「自助」が原則でしょうが、例えば自主防災組織などの「共助」による備蓄体制をとれないものでしょうか――食料備蓄については、これまで「共助」の発想・アイデアはなかったように思われます。

 「フードバンク活動」を行う組織やファストフード業界との災害時応援協定など、平時のうちに「ギブ&テイク」関係の整備ができないものかと夢想しています。
 言わば、流通市場を介さない地域での自給自足、物々交換(持ち寄り)体制の構築――近隣住民・企業・団体同士による「地区備蓄の応援協定」を提案しておきます。

   (M. T. 記)


グリーンランドの氷の減少(アニメーション)

■《Bosai Plus》第246号・2020年11月15日号発行!
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●防災士への期待を表明? 『気候変動×防災』戦略

 本号特別企画は、内閣府と環境省が6月に打ち出した「気候危機時代の『気候変動×防災』戦略」を中心に、同時進行的に表明された菅新政権の新基軸「カーボンニュートラル」、そして自治体や超党派議員連盟による「気候非常事態宣言」を取り上げました。

 ”なんということでしょう!”――わが国の基本政策が一気呵成に「環境防災」へと方向転換するようです。
 防災メディアとしてはもちろん大歓迎ですが、なにか裏があるのではと勘ぐりたくなるような「政策一新」のように見えますが……”裏”というわけではなさそうですが、安倍政権を継承すると公言した菅政権で、もともと「環境への意識」は既定路線だったようです。しかもそれは、新機軸というよりは国際的な外圧で仕方なく……といったふうでもあります。

 それでも、これらの動向は本紙として歓迎すべき新機軸であり、とくに『気候変動×防災』戦略は、「気候変動×防災の主流化」、「自助・共助の意識を持って自宅、職場、地域の災害リスクを認識し防災意識の向上を促す」、「地域や職場で防災の知識や行動を共有する活動に取り組み、コミュニティや企業を災害に強くする」などとうたっていて、まさに「防災士の活躍に期待する」とでも言いたげと受けとめました。
 防災士の活動モットーとしても、『気候変動×防災』を掲げたいところです。

●『稲むらの火』のトーチを次世代にリレーする

 前号の「津波防災の日」、そして「稲むらの火」の濱口梧陵生誕200年に関連して、伊藤和明先生からご寄稿をいただきました。
 また、伊藤先生からの情報ご提供で「濱口梧陵生誕200年記念 みらクルTV交流会」もオンライン取材させていただきました。伊藤先生は以前、防災教材としての「稲むらの火」について、「稲むらの火が多くの人の心に灯されることを期待したい」と話されていたことが印象に残っていて、そうしたニュアンスでの取材まとめにしています。
 ぜひ同交流会の様子(YouTube)をご覧ください。
>>みらクルTV:「濱口梧陵翁生誕200年」交流会(YouTube)

*本紙P. 2掲載の「日本で最初のCEDシンポジウム」のちらし説明で「CED」の説明記載が漏れました。「CED」は「気候非常事態宣言」で、Climate Emergency Declarationの頭文字です。

   (M. T. 記)


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