変動帯+社会風土=原発リスク

「原発震災」―予見から想定内へ

他人のIDカードを使って不正に中央制御室に―
「厳格な警備業務を行い難い風土」の深刻さ

【 原発リスクは変動帯立地?…「社会風土」自体もリスク! 】

●「厳格な警備業務を行い難い風土」は東京電力だけのものか

 報道によれば、東日本大震災発災、そして東京電力福島第一原子力発電所(通称「F1」)事故勃発から3月11日に10年を迎える直前の3月10日、東京電力は、柏崎刈羽原発(新潟県)で社員が他人のIDカードを使って不正に中央制御室に入った問題の再発防止策をまとめた報告書を原子力規制委員会に提出。社員に対する「警備員の忖度(そんたく)」などがあり、「厳格な警備業務を行い難い風土」が一因になったと分析。対応策として、警備業務に関する管理職を新たに配置するなどの体制強化を掲げたという。

>>東京電力:柏崎刈羽原子力発電所社員によるIDカード不正使用に関わる根本原因分析及び改善措置について(2021年3月10日)

 朝日新聞によると、「不正入室が起きたのは昨年9月で、3人の警備員が不審に思ったが通過を認め、うち1人は認証エラーが出た後、カードの識別情報を書き換えさせたという。報告書は、不正入室の背後に、核物質防護のルールの理解不足などに加え、社内風土の問題があったと指摘。東電は会見で、警備員は『運転員は社員の中でもレベルが高い』との意識から不審に感じても強く言えず、運転員も警備業務を尊重する気持ちが不足していた、と説明した。さらに、社員の不正による『内部脅威』への意識が足りなかったと認めた。規制委は今後、追加の検査で東電の対策が十分かを確かめる」と――
 この報道を受けて本紙の反射的な反応は、「原発はアウト!」。新聞報道の扱いは小さいものだったが、この一件はこれだけで、「原発はアウト!」と指弾しうる要因をはらんでいる。

 わが国の文化・習慣はよくも悪くも“忖度”がキーワードになりうる。それは性善説にも似た組織内でのヒトのよさ、同調性向であり、悪意ある想定外の事態に対しては想像力が追いつかない――東京電力の“社内風土”に限らず、まさに、日本社会も「厳格な警備業務を行い難い風土」に根ざしていると言えないか。原発の危機管理において“テロ”、人為的妨害工作は重要なリスクとしてマニュアルに明記されているはずだが、柏崎刈羽原発の警備員は人のいい、やさしい気配りの人物だろう。その性向はほかの原発施設でも同じではないのか。原発の警備員として“日本人”はもともと不適応ではないのか。
 

東京電力報告書より「福島第一原子力発電所に襲来した津波の状況(5、6号機海沿い/固体廃棄物貯蔵所東側)」
東京電力報告書より「福島第一原子力発電所に襲来した津波の状況(5、6号機海沿い/固体廃棄物貯蔵所東側)」

 原発の開発・開設をめぐっては世界的に賛否の議論があるが、それ以前に、わが国では「地学(地殻変動帯)」的なリスクに加えて、根深い「文化・風土」のリスクがある。それは「F1」事故でも露呈したと言える。30〜40年を要するとされる「F1」廃炉作業の遅れや汚染水処理問題は言うに及ばず、わが国の原発稼働には深刻な課題が多い。消滅まで10万年間を要する放射性廃棄物隔離の棚上げをはじめ、次世代への課題の先送りを、原発を享受してきた世代はどう考えるのか。わが国では原発の存続や新設が議論の俎上には乗りえない――いま俎上に乗せるべきは、その“たたみ方”ではないのか。

INES(国際原子力・放射線事象評価尺度)とは、原子力発電所等の事故・トラブルについて、それが安全上どの程度のものかを表す国際的な指標。東京電力福島第一原子力発電所事故のINES評価は、2011年4月12日、チェルノブイリ原発事故(1986年4月26日発生)と同じ「レベル7」に相当すると評価された

●石橋克彦教授が“予見=想定内”に位置づける「原発震災」

 原子力エネルギーを使った世界初の発電は1951年に米国で行われた。世界的に原子力平和利用への注目が高まったのは、軍事利用への転用を防止するための国際機関としてIAEA(国際原子力機関)が設立されてからだ。1973年の「第一次オイルショック」を機に主要先進国で原発の設置が進むが、1979年、米国ペンシルバニア州スリーマイル島で、原発事故(国際原子力事象評価尺度=INESでレベル5)が発生。そして1986年、旧ソビエト連邦(現ウクライナ)のチェルノブイリで原発事故(INES レベル7)が起こり、世界各国の原発利用は80年代は停滞した。

 しかしその後、世界のエネルギー需要が急増、また地球温暖化への問題意識が高まり、温室効果ガス排出抑制に取り組むこととなり、先進国および新興国でCO2排出が少ない原発の建設が進められた。そして、2011年の福島第一原発事故で、複数の国・地域が脱原発の方針を表明したいっぽう、温暖化対策やエネルギー安全保障のために原発を積極的に選択する国が多く存在しているのも事実である。

旧・原子力安全・保安院による「原子力の安全・防災対策」(パンフレット/2005年1月発行)より。住民向けの広報で「緊急時の対応」は”レベル4”程度の表現にとどまっていた

 本稿のまとめとして、東日本大震災および「F1」事故から10年を機に、石橋克彦・神戸大学名誉教授が朝日新聞のインタビューに応えた一部を抜粋して引用する。石橋氏はこのなかで、記者の「原発の安全をめぐり様々な問題が指摘されながら、生かされなかったのはなぜ」、という問いに対して次のように答えている。

 「想像力を欠いていたことが大きい。原子力関係者はもちろん、地震学などの専門家、有識者やメディアも。どんな事態になるかを記録映画でも作るように思い描いて、対策を考える。そういう姿勢が希薄なのではないか」、「敗戦のときと変わらない当事者たちの体質も大きな要因。根拠のない自己過信や、失敗を率直に認めない態度、『起きて困ることは起きないことにする』という悪弊などだ」――

 石橋氏は、1976年に東海地震説のもとになった「駿河湾地震説」を発表し、静岡県の災害対策強化、その後の南海トラフ巨大地震への国・国民の防災意識を引き上げたことで知られる。石橋氏は1994年に現代都市の直下地震リスクを警告、翌1995年に阪神・淡路大震災が発生、また、1997年に地震災害と放射能汚染の被害が複合的に絡み合う災害を「原発震災」と名づけて警鐘を鳴らし、その14年後に「F1」事故が起こった。そして石橋氏は、東海地震想定震源域の真上に立地する浜岡原子力発電所の閉鎖、原発依存からの脱却を一貫して主張している。

 ちなみに、石橋氏は2011~12年に国会に設置された「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」の委員を務めた。まさにわが国の原発リスクは、石橋氏の“予見=想定内”に位置づけられている。

>>朝日新聞:石橋克彦・神戸大名誉教授「次の複合災害に備え、真に強靱な社会を」


《Bosai Plus》 No. 254/2021年03月15日号より(同P. 1(「もくじ」付き)へリンク

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