都市特性と災害リスク

GDP、GNP、GNH(*)そして「GNS」――自然災害の新統一指標

自分が住むまちの災害リスク・ランキングは気になるところ。
このところ各種ランキングが……

 

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  《Bosai Plus》 編集部

 

【 防災・減災に資する「自然災害に対する安全性指標「GNS」 】

●都市の災害リスク・ランキング――「災害との遭遇を想定外にしない

 やや古い話題だが、スイスの損害保険会社が2013年9月18日に公表した「世界の都市の災害リスク比較」では、東京・横浜がダントツ”災害リスク1位”となって話題を呼んだ(下記リンク参照)。
 たまたまかもしれないが、国際オリンピック委員会(IOC)が2020年夏季オリンピック開催都市に東京を選んだのは同年9月8日(日本時間)で、そのちょうど10日後の「東京・横浜 災害リスク”ダントツ1位”」公表であったことから、本紙は同リポート冒頭で「この公表が1カ月早ければ、IOC委員に大きな影響を与えた可能性は否定できない」と“邪推”した。

《Bosai Plus》2014年4月15日号/No. 088:危険都市ワースト1「東京・横浜」(同P.4参照)

 余談はともかく、本紙は本年(2021年)1月15日号(No. 250)で、FEMA(米国連邦緊急事態管理庁)による「ナショナル・リスク・インデックス(National Risk Index=NRI)」を取り上げている。これは、米国の州や地方自治体の自然災害リスク、社会的脆弱性を分析・指標化し、防災・減災に役立たせようというものだ。

《Bosai Plus》2021年1月15日号/No. 250:FEMA「ナショナル・リスク・インデックス(NRI)」を公表(P. 6参照)

 いっぽうわが国では近年、気候変動・温暖化の影響とみられる災害多発を受けて、国が災害対策の根幹に浸水や土砂災害など災害リスクの大きい地域からの住まいの移転誘導策を強化している。これにともない不動産開発、新築住宅市場などにおいて、ハザードマップの検索機能を組み込むようになってきた。
 このように都市の災害リスク、あるいは自然災害に強いまちなどの話題やランキングが人びとの耳目を集めている。以下、その具体例をいくつかあげてみよう。

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「自然災害に対する安全性指標(GNS)」とは
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●安全な国土を形成するための社会意思の決定に資する「GNS」

 地盤工学会関東支部の研究委員会グループ(委員長:伊藤和也)が、自然災害に対する安全性指標「GNS(Gross National Safety for natural disasters)」の開発を進めている。
 経済分野で用いられるGDP(国内総生産)やGNP(国民総生産)、国民の幸福量指標であるGNH(Gross National Happiness *ブータンが提唱)のような統一指標を自然災害への防災減災対策にも適用しようというもので、都道府県レベルのGNSを、2015年、2017年に公表。また、2019年には、市町村レベルのGNSについて関東地方をとりまとめた。GNSは、すでに2020年10月にリクルート「SUUMO」の新築マンション情報に採用され、住宅不動産業界ではGNS活用の動きが広まっているという。

地盤工学会関東支部が開発する「自然災害に対する安全性指標 GNS」は、地震・津波・高潮・土砂災害・火山噴火の災害リスクを自治体ごとに評価するもので、発生頻度、被災が予想される人口割合、社会や経済の災害に対する弱さの3つを数値化した指標の組み合わせだ(スコアが大きいほど住民が被災しやすい)。上画像は同2017年度版の表紙(右)と「都道府県別相対順位」(相対的なリスクの度合いを7段階で示したもの)。GNSは「経年的な脆弱性の改善状況の見える化」、「各地域の強み・弱みの把握」、その「指標の改善」に資することが目的とされる
地盤工学会関東支部が開発する「自然災害に対する安全性指標 GNS」は、地震・津波・高潮・土砂災害・火山噴火の災害リスクを自治体ごとに評価するもので、発生頻度、被災が予想される人口割合、社会や経済の災害に対する弱さの3つを数値化した指標の組み合わせだ(スコアが大きいほど住民が被災しやすい)。上画像は同2017年度版の表紙(右)と「都道府県別相対順位」(相対的なリスクの度合いを7段階で示したもの)。GNSは「経年的な脆弱性の改善状況の見える化」、「各地域の強み・弱みの把握」、その「指標の改善」に資することが目的とされる

 GNS開発の背景としては、防災・減災対策にはインフラ整備や構造物の補強といったハード対策とハザードマップの整備・公開や防災教育といったソフト対策の効果的な組み合わせ、包括的な防災・減災対策が重要であり、自然災害に対して安全な国土を形成するための費用をどのように配分するかといった社会意思の決定を必要とする。
 この社会意思の決定には、立法・行政あるいは防災関係の学術分野の専門家だけではなく、納税者である国民が意思決定の過程で活用可能となる指標が必要。しかし、そのような指標化はいまだ確立されておらず、国土全体あるいは特定地域の防災予算や防災計画に関して国民が議論できる環境にはなく、膨大な予算執行による安全な国土形成の進展を実感できていないとする。

「GNS[2017年版]算出結果 メインカテゴリー」より
「GNS[2017年版]算出結果 メインカテゴリー」より

 つまり、例えば洪水や土砂災害、高潮、そして津波など水災害の遭遇率(専門用語では「曝露量」)は、低地や川沿い、沿岸を擁する自治体で高まることは経験的にわかっているが、その指数化により、被災したときの対策となる医療体制や食糧備蓄などのソフト面の備えの予算化に向けて、住民理解も得られやすいということになる。
 また、自治体別に多様な自然災害リスクを一覧できる指標があれば、住まい探しで複数の候補地を比較検討しやすくなる。

●「脆弱性の改善状況の見える化」、「地域の強み・弱みの把握」に

 GNSは地震・津波・高潮・土砂災害・火山噴火の災害リスクを市区町村ごとに評価したもので、発生頻度、被災が予想される人口割合、社会や経済の災害に対する弱さの3つを数値化した指標を組み合わせている(スコアが大きいほど住民が被災しやすい)。

 ちなみに2017年版の脆弱性指数をみると、ハード対策指標では、山梨県、鳥取県、岐阜県が良い評価となり、北海道、広島県、兵庫県が悪い評価。ソフト対策指標では、福岡県、大阪府、兵庫県、山口県が良い評価で、沖縄県、千葉県、岩手県が悪い評価となった。
 脆弱性指数は、山梨県、鳥取県、神奈川県が良い評価、北海道、沖縄県、千葉県が悪い評価となっている。曝露量(遭遇度合い)指数では、徳島県、東京都、大阪府が悪い評価(曝露量が高い)、宮崎県、栃木県、鳥取県が良い評価(曝露量が低い)。

 脆弱性指標と曝露量指標をかけ合わせたものが「GNS 2017年版」で、上位4県は鳥取県、栃木県、宮崎県、佐賀県)、下位4県は徳島県、愛知県、新潟県、大阪府となっている。

「東海3県でのGNSリスク指標の結果」より
「東海3県でのGNSリスク指標の結果」より
「関東地方の脆弱性指数の推移」より
「関東地方の脆弱性指数の推移」より
「市町村版GNS 2019版(関東地方)」より
「市町村版GNS 2019版(関東地方)」より
脆弱性指数、曝露量指数に関するソースデータ
脆弱性指数、曝露量指数に関するソースデータ

 ちなみに同研究グループは、GNS開発の趣旨は、GNSを利用して「経年的な脆弱性の改善状況の見える化」や、「各地域の強み・弱みの把握」にあり、その指標の改善に資することが目的であり、住まいの地域の安全度などのランキングとは視点が異なるため、ランキング化には大きな意味がないとしている。

地盤工学会関東支部:自然災害に対する安全性指標「GNS」

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サステナブル・ラボの都道府県「防災安全スコア」
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●「防災に強い都道府県」ランキング TOP 10

サステナブル・ラボの都道府県「防災安全スコア」
サステナブル・ラボの都道府県「防災安全スコア」

 東日本大震災発災から10年の本年3月11日、サステナブル・ラボ株式会社(東京都千代田区)が、都道府県の「防災安全」に関する指標データから算出したスコアと地震発生回数のデータを組み合わせ、そこから見えた傾向を「防災安全スコア~災害・防犯に強いまちのランキング」として公表した。
 「防災安全スコア」は、各都道府県の災害復旧費割合や防災会議の設置有無などの延べ21指標を複合的に解析したもの。防災安全対策・対応を拡充している都道府県ほど、スコアが高くなるように設計している。

 2020年の防災安全スコアが高かった都道府県は、1位・秋田県(スコア67.34)、2位・岩手県(同66.10)、3位・島根県(同65.73)など。
 サステナブル・ラボは、「防災安全スコア」を都道府県や市町村などの自治体が震災対策や安全配慮の取組みを行う際の指標として、また個人が移住先や進学・就職先を選ぶ際の公平な参考資料として、スコアランキングを役立てほしいとしている。

サステナブル・ラボ:都道府県「防災安全スコア」上位10県を発表

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LIFULL HOME’S PRESSの
「コロナ影響下での住みたい街ランキング 2021」

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 株式会社LIFULL(東京都千代田区)が運営する不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S(ライフル ホームズ)」が本年2月、首都圏など4圏域の「住みたい街ランキング」を発表した。
 これは物件検索ユーザーがイメージで住みたい街をアンケート調査したものではなく、実際の物件検索・問合せ数を最寄駅ごとに集計したもので、「実際に住むことを想定して探している人が多い街」のランキングだ。

上画像:「借りて住みたい街ランキング」より、下:買って住みたい街ランキング」より(赤色が昨年比ランクアップ、青色が昨年比ランクダウン)
上画像:「借りて住みたい街ランキング」より、下:買って住みたい街ランキング」より(赤色が昨年比ランクアップ、青色が昨年比ランクダウン)

 2020年調査によると、賃貸ユーザーは「郊外志向」、購入ユーザーは「都心志向」と「郊外志向」の二極化したという。「借りて住みたい街ランキング」では、1位が前回4位から上昇した「本厚木」、2位が「大宮」、3位が「葛西」となり、前回まで4年連続1位だった「池袋」が5位のほか「荻窪」「三軒茶屋」「吉祥寺」などこれまで上位を占めていた都心・近郊の人気の街は軒並みランクを下げ、代わって「八王子」「千葉」など準近郊・郊外のベッドタウンが上位に登場した。

 LIFULL HOME’Sでは、住み替えのしやすい賃貸ユーザーは、「低家賃」「都内へのアクセスのしやすさ」「ターミナル駅で生活利便性が担保できる」などの理由から郊外化の傾向。新型コロナウイルス収束後を見据える購入ユーザーは、利便性や資産価値重視で都心化、いっぽうで、テレワークの影響で都心暮らしへの必要性が薄れ、資産性が大きく下がらない程度に通勤・通学可能な準近郊のベッドタウンへの関心も高まっているという。
 なお、「買って住みたい街ランキング」は、コロナ禍でも変わらず2年連続1位は「勝どき」とのこと。
 コロナ収束後を見据え、利便性、資産価値、職住近接需要で都心が人気のかたわら、郊外需要も活性化する“二極化”の傾向となっている。

LIFULL:『2021年 LIFULL HOME’S 住みたい街ランキング』発表

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森記念財団 都市整備研究所の
「日本の都市特性評価」(都市力)

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 不動産開発の森ビルが設立した森記念財団 都市戦略研究所がこの8月24日、「日本の都市特性評価(JPC:Japan Power Cities) 2021」(都市総合力ランキング)を公表した。これは本年10月中旬の発行予定の「日本の都市特性評価 DATABOOK 2021」の概要版で、2021年の結果・分析の一部や指標定義などを、図表を用いて分かりやすく紹介したもの。

「日本の都市特性評価 2021」(都市力)
「日本の都市特性評価 2021」(都市力)

 「日本の都市特性評価」は「各都市の都市政策立案に資することを目的に、日本の各都道府県における主要都市を対象に、都市の力を相対的かつ多角的に分析し、“強みや魅力”といった都市特性を明らかにした」もので、県庁所在地と政令指定市、人口17万人以上の自治体の計138都市(東京23区は除く=後述)が調査対象。評価手法は、都市の力を構成する要素として6分野(経済・ビジネス、研究・開発、文化・交流、生活・居住、環境、交通・アクセス)を設定し、それらの主要な要素である26指標グループ、さらにそれらを構成する86指標を選定して、総合的に点数化してランキング化している。

 都市総合力ランキングで1位は大阪市(前年2位)、2位は京都市、3位は福岡市。以下、4位・横浜市、5位・名古屋市、6位・神戸市、7位・仙台市、8位・金沢市、9位・松本市、10位・札幌市などと続く。
 大阪市はコロナ禍を機に行政手続きのオンライン化が進んだことが高評価となった。

 東京23区も同じ手法で調べられており、1位は千代田区、2位は港区、3位は中央区で順位に変動なし。3区とも合計スコアでは大阪市を上回るが、同研究所では「調査の趣旨は、強み・魅力など都市特性を明らかにするもので、東京23区は別枠」としている。

「日本の都市特性評価 2021」の対象都市・国内138都市と東京23区
「日本の都市特性評価 2021」の対象都市・国内138都市と東京23区
「日本の都市特性評価 2021」の「指標の定義」より「安全・安心」内の「災害時の安全性」
「日本の都市特性評価 2021」の「指標の定義」より「安全・安心」内の「災害時の安全性」

 なお、「防災」は「生活・居住」の7指標のうち「安全・安心」のなかのさらに「災害時の安全性」指標にある。わが国の国策ともなる「防災」の扱いにしては全86指標のうちのひとつとは――軽すぎる感を否めない。防災の主流化は不動産開発の”強み・魅力”を削ぐ指標だからだろうか。

森記念財団:日本の都市特性評価 2021

〈2021. 09. 01. by Bosai Plus


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