日本海溝・千島海溝巨大地震の最悪想定に備える

東日本大震災を上回る被害想定にたじろぐ…
防災・減災への着実な歩みこそが、レジリエンス

『なんとしても命を守る』、『正しく恐れる』ことはむずかしい――
『自分ごと』、『冷静に受け止め』で、被害8割減と最小リスク化も可能

 中央防災会議は「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会」を2015年2月に設置、最大クラスの震度分布・津波高等の推計結果を2020年4月に公表した(岩手県の浸水想定については同年9月11日に公表)。この震度分布・津波高などに基づき被害想定と防災対策を検討するために、2020年4月に「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策検討ワーキンググループ」が設置され、同ワーキンググループは昨年(2021年)末の12月21日、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定を公表した。

内閣府(防災担当):日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定を公表

中央防災会議が検討対象とする大規模地震
中央防災会議が検討対象とする大規模地震
⽇本海溝・千島海溝沿いにおける最⼤クラスの震度分布・津波⾼等の推計(2020年4⽉)
⽇本海溝・千島海溝沿いにおける最⼤クラスの震度分布・津波⾼等の推計(2020年4⽉)

 内閣府では、「今回想定した日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震は、最新の科学的知見に基づく最大クラスの地震であり、東日本大震災の教訓を踏まえ、『なんとしても命を守る』ことを主眼として、防災対策を検討するために想定したもの」としている。
 最大クラスの地震は、発生頻度は極めて低いが、発生すれば、広域にわたり甚大な被害が発生する。被害想定はあくまで被害の様相や被害量を認識・共有し、効果的な対策を検討するための資料として作成されたもので、「対策を講じれば、被害量は減じることができるとし、『正しく恐れる』ことが重要で、行政のみならず、インフラ・ライフライン等の施設管理者、企業、地域、個人が対応できるよう備えることが必要」としている。

 本紙はこれまで防災行政で頻繁に使われがちな『正しく恐れる』は、もともとは寺田寅彦の『正しく恐れることはなかなかむずかしい』の誤用ではないかと指摘してきた。その観点から、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震被害想定を改めて概観したい。
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厳冬期の津波で人的被害、最大に
――被害推計要因に、要救助者 数、低体温症要対処者数も

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 今回の被害想定では、次の「日本海溝モデル」、「千島海溝モデル」の2つの断層モデルによる地震動・津波を想定し、被害量が推計されている。

▼想定する地震の発生時期・時間帯
 想定される被害は、地震の発生時期や時間帯によって異なるため、条件の異なる以下の3パターンでの被害量を推計
① 冬・深夜:
 多くの人が就寝中の時間帯で、避難準備に時間を要し、夜間の暗闇や積雪・凍結により避難速度が低下するため避難が遅れ、津波による被害が最も多くなる時期・時間帯
② 冬・夕:
 火気使用が最も多い時間帯で、地震に伴う出火・延焼による被害が想定され、積雪・凍結により避難速度が低下するため、津波による被害も多くなる時期・時間帯
③ 夏・昼 :
 木造建築物内の滞留人口が1日の中で少ない時間帯で、建物倒壊などによる人的被害が少なくなると想定、積雪・凍結等の心配がなく、明るい時間帯であるため、迅速な避難が可能となり、津波による被害も少なくなる時期・時間帯

▼主な被害想定結果(*本稿では人的被害関係のみ記述)
〇日本海溝モデル: 死者数:約6千人~約19万9千人
〇千島海溝モデル: 死者数:約2万2千人~約10万人

 推計値は、季節・時間帯及び住民の避難意識によって違いがある。建物倒壊による死者は、冬季の場合、積雪荷重により全壊棟数が増大することで死者数も増大し、深夜の時間帯では、建物内滞留率が高くなり死者数が増大。津波による死者数は、冬季の場合、積雪による避難速度が低下することで死者数が増大し、住民の避難意識が低い場合にはさらに死者数が増大する。なお、死者数の大半は、津波による被害である。

日本海溝モデルの人的被害推計
日本海溝モデルの人的被害推計
千島海溝モデルの人的被害推計
千島海溝モデルの人的被害推計

 今回の人的被害想定では、次のような新しい要因による被害も想定された――
▼津波被害に伴う要救助者数
 切迫避難または避難しない人のうち、最大浸水深より上の階にとどまる人の数を要救助者数として推計
〇日本海溝モデル:津波被害に伴う要救助者:約6万6千人~約6万9千人
〇千島海溝モデル:津波被害に伴う要救助者:約3万2千人~約4万1千人
 *要救助者数は、早期避難率が低いケースにおいて最大となる

▼低体温症要対処者数
 積雪寒冷地での課題として、低体温症要対処者数を推計。津波から難を逃れた後、屋外で長時間、寒冷状況にさらされることで低体温症により死亡のリスクが高まる人を低体温症要対処者とし、後背地に道路や街が広がっていない高台など、二次避難が困難な場所に逃げた人の数を推計
〇日本海溝モデル:低体温症要対処者数:約4万2千人
〇千島海溝モデル:低体温症要対処者数:約2万2千人
 *推計値は、低体温症のリスクが最も高い冬・深夜で最大になると想定し推計
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“自分ごと”として冷静に受け止め
悲観することなく、対策を着実に実施すれば…被害8割減

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▼防災対策の効果――人的被害想定の“8割減”も可能
 被害想定では、広域にわたり甚大な被害が想定されているが、行政のみならず、地域、住民、企業等のすべての関係者が被害想定を“自分ごと”として冷静に受け止め、悲観することなく、①強い揺れや弱くても長い揺れがあったら迅速かつ主体的に避難する、②建物の耐震診断・耐震補強を行うとともに、家具の固定を進める、③初期消火に全力をあげる――などの取組みを実施することで、日本海溝モデル、千島海溝モデルのいずれの人的被害想定の“8割減”が可能としている。

 また、低体温症要対処者数についても、既存施設の有効活用を図り、避難所への二次避難路の整備や備蓄倉庫(防寒備品)整備などを着実に実施することで、両モデルにおいて「リスクの最小化」が図れるとしている。

北海道周辺において過去200年間に発生したM6以上の地震41回の内、16回が冬期(12月~3月)に発生し、その内6回は津波を伴う地震であった。出典:『理科年表(国立天文台編)2012年」等を基に作成、北海道周辺における過去200年間の地震・津波の発生状況(M6以上) (北海道開発局「雪氷期の津波沿岸防災対策検討会」報告書より)
北海道周辺において過去200年間に発生したM6以上の地震41回の内、16回が冬期(12月~3月)に発生し、その内6回は津波を伴う地震であった。出典:『理科年表(国立天文台編)2012年」等を基に作成、北海道周辺における過去200年間の地震・津波の発生状況(M6以上) (北海道開発局「雪氷期の津波沿岸防災対策検討会」報告書より)
上写真:東日本大震災の津波で根室市沖根婦(おきねっぷ)漁港に打ち上げられた流氷(出典:北海道開発局「雪氷期の津波沿岸防災対策検討会」報告書より)。下写真・左:1952年十勝沖地震の被災状況(浜中町霧多布)より、右:高台に避難する住民(北海道開発局「雪氷期の津波沿岸防災対策検討会」報告書より)
上写真:東日本大震災の津波で根室市沖根婦(おきねっぷ)漁港に打ち上げられた流氷(出典:北海道開発局「雪氷期の津波沿岸防災対策検討会」報告書より)。下写真・左:1952年十勝沖地震の被災状況(浜中町霧多布)より、右:高台に避難する住民(北海道開発局「雪氷期の津波沿岸防災対策検討会」報告書より)

国土交通省北海道開発局:雪氷期の津波沿岸防災対策の検討(上図版関連)


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